一人で…
大野さんと一緒に、挨拶をした後、私はこう言った。
「大野さん、レジしてみませんか?」
『えっ、僕がして大丈夫なんですか…?』
不安そうな顔をしながら、私にそう聞いてきたので、こんな顔もするんだな…と思った。
「大丈夫ですよ。私も、一緒にいるので。」
『良かったです…。藤原さんがいてくれるなら、頑張ってみます。』
甘えるような声で、私の心臓を掴んだ大野さんの顔は、嬉しそうだった。
「…分かり…ました。分からない事があったら、すぐに言って下さいね。」
『了解です。』
大野さんがそう言ったのと同時に、お客様が3冊ぐらいの本を抱えてやってきた。
「『いらっしゃいませ、おはようございます。』」
大野さんは、私がさっき教えた通りにレジをしていく。
この人、やっぱりすごい人…と関心してしまった。
『藤原さん、終わりました。』
「ありがとうございます。完璧でしたよ。」
そう言ったら、安心したように胸をなで下ろして、『良かった…。』と言っていた。
「これなら、私がいなくても、大丈夫ですね。店長に報告してきます。」
頭を下げて、レジを出ようとした瞬間、何かに腕を掴まれた。
『…行かないで下さい。僕一人では、まだ不安です。』
私の腕を掴んでいたのは、大野さんの意外と大きな手だった。
「…大野さん…。」
名前を呼んだら、大野さんははっとしたように腕を離して謝ってきた。
『すみません…。いきなり、腕を掴んでしまって、申し訳ないです。』
いきなり、腕を掴まれたのはびっくりしたが…嫌ではなかった。
むしろ、ドキドキしていた。
「…大丈夫ですよ。一緒にいますね。」
『…ありがとうございます。』
今度は、安心したようにお礼を言われた。
表情がコロコロ変わる所は、長瀬くんにはなかったな…と心の中で思っていたのだった。




