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僕のこころをしらないで

作者: 紅雅

ふと、思ったことがある。ドライヤーで彼女が髪を乾かしている時。髪を縛るために口に髪ゴムを加え手ぐしで上へと纏めている時。リップクリームを塗る時。髪が口に入らないように耳にかける時。獣のように組み敷いて本能のままに貪り尽くす事が出来たら、と。見つめる視線に気づいてふんわりと彼女が笑ってみせる度、内に秘めた熱情を焦がして、何でもないよと首を降る。けれど、ふたりきり、誰も邪魔されない、そんな場所では脆くも崩れゆく薄い欲情の壁。ほら、今日だって。喉を潤す彼女の喉が上下に動く度、壁は壊されていく。唾が喉を伝って喉仏が動くのがわかった。ふんわり笑った笑顔。歪ませたくて、俺だけを捉えて欲しくて。ゆうるり、と唇に触れる。顔を離して、目を合わせて、自然な仕草でお互いに閉じあって、重ねる。もう一度、もう一度と繰り返す度に止まらない欲望もそのままに、後頭部に手を回して逃げ道を奪う。苦しげに眉を寄せる彼女に独占欲が働く。舌をねじ込んで口内を引っ掻き回す。粘着質な音が響いて、ふたりの耳を刺激する。繋がっていた唾液が途切れて、彼女のほんのり色づいた頬と、蕩けた目と、どちらのものかもわからない唾液が彼女の唇の周りにべちゃべちゃにくっついて。汚い感情がつま先から頭の先っぽまで征服して、別人にでもなったかのように。肯定も否定も聞かずに、意識が朦朧とする彼女を抱き上げて寝床へ優しく下ろす。顔を挟むように手を置いて唇を重ねる。

夜は、過ぎていく。

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