第一話 暴虐の我が儘お子様 ミザリー王女とペット
第一話 暴虐の我が儘お子様 ミザリー王女とペット
自分を変えてみたいとは思わないか?
誰もがそんな願望を抱いて、誰もがそれに挑戦して夢半ば、砕けてゆく。
学生時代は誰もが原石だ! とこの物語の主人公 菱島太陽は大人達から教えられていた。純粋だった太陽はその言葉に騙されて「俺は海賊王になる!」並みの努力で機関車 トーマスばりに自分の将来像 できる男の大人に向けて! 様々な努力をした。
しかし、その努力はある出来事で吹き飛んだ!
異世界転移というマジ、厨二病乙! みたいなことが太陽の身に起こったのである。
始めて異世界転移した先で髭を生やした王様にまずは喉が渇いているだろうから、とヤクルトみたいな飲みモノを差し出された。
当時、異世界転移なんて始めてだった純粋なマジメ努力キャラ 太陽君はあーこの人、なんて親切なのだろうと思い、疑いも保たずに飲み干した。苺ミルクの甘い味であった。これを飲めば、勉強でオーバーヒートした頭もリフレッシュ! するであろう。
太陽は純粋にひげ面の王様に感謝をした。
「髭! ありがとうございます!」
と、異国の王様にぺこりとお辞儀をした。
「ああ、なんて事ないよ。”娘の為だから☆”」
王様の言う娘の為? という言葉に太陽の脳みそは?マークであった。一応、全国模試 五十位にはいつも、ランクインしている太陽であってもこのとき、王様の企みに気づくことはできなかった。
「な、なんだ、身体が熱い! もしかして、先程の飲みモノは!」
ヤバい熱に身体が侵され始めた太陽にできることはその場にしゃがんで、ロールケーキみたく身体を丸めて転がり苦しむしかなかった。
王様の横に待機していた7歳くらいの女の子がこちらをキラキラしたお目々で見つめている。多分、その金髪ツインテールドリルの女の子がまだ、国名は聞いていないがこの国の王女様なのだろう? しかし、どうして水晶のように透き通ったスカイブルーのお目々 でこちらを見ているのだ?
「ねぇ、ねぇ、パパ! ミザリーのエルフ、強い?」
「ああ、強いさ、きっとね。異世界から召喚した者はユニークスキルを身につけることができるというのはこの国の秘伝書 ラノーベに書かれているからね」
「うわぁーい! じゃあ、ミザリーの夢 ミザリーはあらゆる世界の王になる! が叶うのね。わくわくわくわく」
「おお、変化が始まったぞ。エルフナールが効いてきたようだ」
「な、何……エルフ、ナール……」と両手で心臓部を押さえながらやっとの思いで、太陽は喋った。
「ふふふっ、君はここにいるミザリー・ミーシェルの愛玩動物 エルフになるんだよ。嬉しいだろう、嬉しいだろう?」
「いいえ、嬉しく……ないね」
「パパ、このエルフ、生意気ね。もう、無理よ。ほら、これ、鏡」
なんとなく、熱が収まってきて、鏡を眺めてみた。そこには小さな金髪の少女がいた。髪は長く、腰の辺りまで伸びている。すげー、綺麗なストレートヘアである。容姿は貧乳という弱点はあるが肌は白く、ハリウッド映画にこのまま、出演できるのでは、と言う程には整っている。耳は尖っていてザ エルフ! と叫びたくなるエルフらしい特徴である。以上の特徴を朱い瞳から脳へと情報として伝達していた。
「おいおいおい、俺! エルフになっちゃった! 菱島太陽の要素 ゼロだよ、これ!」
「さぁ、エルちゃん。首輪ですよー」
そう言いながら、ミザリー王女が近づいてきて、動揺している太陽の首に首輪を付けた。なんとご丁寧に伸縮自在なリード付きである。
「待てや。異世界の王様よ。普通、こういうの魔王を倒せ! 勇者よ! ではないのか!」
「エルちゃん、何、物語みたいな事、言っての? 魔王、ぷっぷっみたいなのいるわけないよね。今、この世界に危機があるとすれば、我がミーシェル国と隣のプーテン国とで領土問題で争いがあり、戦争? になっちゃうんじゃねぇーみたいな危機だね」
「おいおい、現実的だな。じゃあ、なんで俺はここに」と太陽は石でできた床を足で叩く。叩く度に着ていた高校の制服がずれてゆく。
「駄目だよ、そんなエルフに相応しくないこと、しちゃあ」
ミザリーがリードを止めなさいと言うようにぐいっとリードを引っ張る。首が絞まりそうなので慌てて、首輪を両手で握り締めた。
「わ、解ったから止めろ! それに俺は太陽だ! つか、王様! エルフにはひょっとして女しかいないのか?」
「そうだよん。だから、君、メス化したでしょ。そうそう、この世界ではエルフはペットとして売られているんだ。なぁに、悲観することはない。どの国でもエルフは高値で売買されているし、ちゃんとエルフ保護法っていうエルフを大切にね♪ って法律があり、エルフ達もそれならば良いかって受け入れているんだよ。世の中、ラブ アンドゥ ピースだよね」
そのラブ アンドゥ ピースなんて言った王様にどうにか、プーテン国の首相を暗殺してくれ! と言われて太陽は自身のユニークスキル 魔法少女を駆使してそれを成し遂げ、見事、異世界から元の世界へと戻ることを許可された。
だが、既に太陽はあの頃のできる男の大人になってやるぜ! みたいな原石的考えを保てないでいた。
何故なら、未だにミザリーに飼われていて、坂本高校へと行く道すがらもミザリーにリードと首輪で動きを制限されている。一応、四足歩行ではなく、二足歩行なので犬ではなく、エルフと認識して、エルフ的人権は護られているようだ。
高校の門を潜ると学生の誰もが微笑ましそうにこちらを見ている。ミザリー・ミーシェルは倒した敵のスキルを一つ、会得する魔法少女のスキルのうち、催眠 レベル9を駆使してミザリーのあらゆる日本での書類は完璧に揃えたので一応、海外留学の飛び級生という認識になっている。
そして、この元の世界での太陽の新たな役職は――――
「太陽ちゃん、可愛いね」
「太陽ちゃん、ぷりちぃー。お菓子、食べる? 今日、私、焼いてきたんだ、クッキー」
「太陽ちゃん、笑って。そんなツンデレのツン顔じゃあ、いけないよ?」
「太陽ちゃん! サイン頂戴」
――――マスコットエルフのようだ。
「御当地マスコットかよ……」
そう、言えたのも異世界を今まで十回経験し、飼い主のミザリー・ミーシェルと共に世界を救ってきた実績があるからだ。いや……もう、自分は呪われているのだろうと太陽が勝手に自身を位置づけしたからである。
*
教室に入ると太陽を待っていたかのように女子達から撫でられた。太陽の身長はたったの127センチしかないので常に周りの人間の方が背が高い。よって、なんだか、得体の知れない威圧感みたいなものがあるのだ。
その威圧感の塊の中に見知った者がいた太陽の妹である妹 菱島夜であった。太陽を四六時中、撫でているのにまだ、撫で足りないと見える。
「お前! 今日の朝、撫でまくっていたよな? 何故、また?」
「リピーターよ、リピーター。知っているエルフ姉? 世の中、可愛いが正義なのよ」
可愛いが正義であれば、自分を見つめていろよと言いたくなる艶やかな黒髪 ショートヘアの少女。それが太陽の妹 夜である。夜のような暗き瞳がチャームポイントだ。
「ヘイ! 太陽。オススメのキングの小説、面白かったぜ! ダークタワーって最高だな。俺もこんな冒険をしてみたいぜ」
ご主人様であるミザリーが席に着いてその隣の席に太陽が着いた時を狙って、派手な金髪の男 雪片メイが太陽に話しかけてきた。
「もう、充分、冒険しているだろう? これ以上、何を求める。お前は俺に巻き込まれて異世界をもう、9回も恋人の唯と共に冒険しただろう」
メイを説得しつつ、メイからキングの小説 ダークタワーを受け取り、鞄に入れる。この鞄はアイテムボックスといってゲーム世界と呼ばれる世界 イミテーシアで手に入れた太陽のお気に入りのスーパーレアアイテムだ。使い手の魔力に応じてモノが入るようになっている。
「ねぇ、太陽。今度はあ、異世界に転移しそうだ! とか予感があったらすぐに言いなさい。私とメイは直ぐさま、逃げるから」
怠そうにマニキュアを爪に塗りながらメイの恋人 西尾唯が応えた。こんな事を言っているがある理由で西尾ゆいと雪片メイはミザリーに逆らえない。よって、太陽、ミザリーと共に異世界へ赴くのは決定事項なのである。
「あ! 異世界! なんちゃって……」
とミザリーが場を和ます為に言った一言でクラスメートの大半が「もう、異世界は嫌!」とそれぞれ、叫んで何処かへと走って行った。
そのミザリーの一言を待ってました♪ と言うように教室が揺れ始めた。
目映い光が視界を奪い、意識が朦朧としてきた。
太陽は残りの意識を総動員して叫んだ。この理不尽な展開に!
「くそっ、また、異世界転移かよ!」