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治ってね。母さん。

作者: 七草せり

ある日の休日。

僕は妹と喧嘩した。


喧嘩の発端は、母さんに部屋の片付けをしろ。 リビングにあるおもちゃを片付けろ。 と言われたので、片付けする事にしたが、妹は何故かむくれてぐずり出した。


終いには殆ど何もやらなかった。


僕はきれた。そして母さんに抗議した。


「何で! 妹はやらないんだ? 自分ばっかりやって不公平だ!」




妹の花胡は、小学三年生。僕、一露(いちろ) 、小学五年。


二つしか違わないのに。


母さんは言っ た 「花胡はああなると、 仕方なくなる。 少ししたら片付けさせるから」


それでも不公平感は無くならない。

何もせずに、座ったままの勝ちなのか?


泣けば、ぐずればいいのか?


だったら! 僕もそうするよ!



「僕ばっかり片付けて、 花胡は何もしない。 損した!」


損と得で物事を判断する僕。

母さんはそれはダメだと言って、いつも怒る。

物事は、損と得だけでは成り立たない。

優しさや思いやりを持てと。


でも、母さんも損だ得だと言うじゃないか。


腹が立った僕は、猛攻撃。

花胡は取り敢えず何かをしたが、そんなんじゃ足りない。


僕は花胡を責めた。で、泣かせた。

毎回の事だ。


花胡の反撃 「花胡だって片付けたもん!」


「はあ? 何を? 何処を?」


「二階……」


「殆ど何もやってない!」


僕たちのやり取りに、母さんきれた。


「もういいから。 宿題しなさい!」


昼前から出かける予定だから、それまでには

今日分の宿題をやれと。


腹が立ったが仕方なく宿題を始めた。

花胡も宿題をした。



リビングのテーブルで二人で宿題。


何かイライラする。


僕はイライラをぶつけた。

文句を並べ、花胡を責めた。


「まだ言ってるの? いい加減にしなさい! 時間ないよ」


母さんに言われても、この腹はおさまらない。


「だって。ズルい! 何で何にもやらない奴がのんびりするの?」


「今は宿題。 後でやらせる。 黙りなさい」


「でも……。 ズルい!」


「宿題」


「だけど! 花胡ばっかり得してる」


「……」



暫くの沈黙の後……。


「あー‼︎ もうやだ! 何なの一体? 毎回毎回毎回! 何回いわせる? 毎日同んなじ事ばっかり。 ねえ? 言ったよね? 忘れた? 損だとか得だとか、 いいなとか。 やめろって! しつこい。 宿題しなさい!」


毎日毎日毎回同じやり取り。

母さんは疲れた様だ。


でも、損したくない。得がいい!


僕たちの小競り合いは続く。


花胡も生意気だ。


「ねえ! やめてくれない? うるさい」


花胡キレる。


生意気だ。


僕は怒る。イカリだ。



そんな時……。


母さんの様子が変になった。


ブツブツ何か言ってる。お経?

違う……。



「もう知らない。 毎日同じことの繰り返しだ。 こっちは色々やってるなに。 何で分からない? 説明したし……」


毎日母さんは同じことを言う。


喧嘩するな。 損得かんじょう? するな。

羨ましいはなし。ズルいも。


でも仕方ない。

そう思うから、そう言うだけ。

毎日言われても、無理。



だけど今日は違った。

母さんちょっと仕事で疲れてた。

寝不足もあったし、今日も出かける。


だから……。


ブチっとなったんだ。



最初はいつもの様に怒って、しかりつけた。

でも、いつもより様子が変になった。


ソファにうずくまり、ブツブツ始めた。


疲れたみたいに……。


僕たちは分からなかった。母さんが違うのが

直ぐに分からなかった。



暫くして、母さんが泣いた。静かに泣いた。


ハッキリ言って泣くのはどうでも良かった。

いつもだし。


でも。


静かに泣いた……。


今日はばあばがいない。母さんの姉さん。

お姉ちゃんも。


お姉ちゃんは春から旦那さんと一緒に住み始めた。

どっかから帰ったから、どっかに行った。


母さんは泣くし、僕たちはどうしていいか分からなかった。


話しかけても答えない……。

謝っても答えない。



その内電話が鳴った。


母さんハッと顔をあげたが、電話には出なくてじっと見つめていた。


多分出かける友達からだ。

幼稚園からの仲良しのママと友達と出かけるから、その電話のはず。


何故出ない?不思議に思ったけど、母さんの顔が知らない人みたいになったのを見た時、電話どころじゃなくなった。


ぼーっとしてる母さん。電話を見つめているだけ。


話もしない。返事もない。


僕たちは良くわからないから、ほっといた。

こんな時は何も言わない方がいい。


て言うか。怖いから?



電話の後。友達が迎えに来た。

母さんは動かなかった。僕たちはどうしたらいいか分からなかった。


チャイムが鳴る。


僕はさっき片付けをしたから、花胡に出ろと言った。

僕ばかりはイヤだし。


花胡も嫌がった。またぐずる。


きれた僕はイライラしながら玄関を開けた。

友達ママに事情を説明。


事情がイマイチなママは、家にあがった。

リビングのソファにいる母さんの隣に座った


「子供らは二階に行ってな」


キャーキャーはしゃぎながら僕たちは二階へ行った。

少し安心したから。

友達見たら、怒りもなくなったし。



それから……。


ママが僕だけを呼んだ。色々聞く為。

説明した。さっきの説明では分からなかったらしいし、母さんの様子じゃラチあかない?


またまた説明。


で。母さんの姉さんに電話したりした。

ママは母さんの電話をいじれる。


僕もだけど。


ロック? かかってても番号分かるよ。

変えたら? 手の動き。知らない?

手の動きで、番号分かるんだよ。銀行じゃないからね。数字の位置は変わらないし。


滑るやつも分かるよ。

手の動き見てれば、スーってなぞる暗証番号のロックもできる。


それはさて置き、何だかわからないけどお昼を食べに出かけた。

母さん一人置いて。

ばあばに置き手紙しろってママに言われたから、書いた。

書き直し何度もさせられ……。


でも、出かける時ばあばが帰って来た。

で、ご飯食べに行ってくる。って言ったら、

あらそう。行ってらっしゃい。

呑気に言われた。


まあ、母さんの事知らないからね。

でも、母さんが一緒に行かないのを不思議に思わないのは、まあいいや……。




それから大変だった。

家に帰ったら、母さんが益々おかしいし。


ばあばは 「ちょっと病気になっちゃったから、 病院に月曜行くけど大丈夫だから」


そう言ったけど……。


僕たちの事忘れたみたいな顔してるし、言ってる事変だし。

ばあばの事は分かるみたい。

電話のかけ方も忘れた様で、今の事も忘れたみたいで……。


不安になった。


どうしちゃったの?母さん……。


ずっと前の事は分かるみたいだけど、今を忘れないで。


「母さん、 治る?」


ばあばに聞いた。


「大丈夫よ。 前もあったし。 心配いらないから」


のんびり言った。


心が僕みたいに壊れたの?

僕も心が壊れた事ある。


うちは他とは違うから……。


ばあばは色んな所に電話してた。

父さんにも。


父さんは、演技だって言ったらしい。

母さんきれてた。


「人の気持ちも知らないで……」


とか何とか言ってた。


花胡はマイペースで、少し心配したみたいだけど、呑気に本読んだり遊んだりして。

全く……。


月曜日、母さんはばあばと病院へ行ったらしい。

お薬もらってた。


お薬飲んだり、ケータイ触ったり、母さんなりに何とかしようとしていた。


怒らない母さんがいた。

でも、怒らないのは関心ないから?

僕たちに……。


早く治って。母さん。その願いは早く叶いそう。

数日して……。


少しずつ、治ってきてる?

まだぼーっとしてるけど、少しずつ話もするし、忘れていた事思い出してきた。


「そろばん……」


そう言った母さん。それ、思い出さなくても良かった?

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