第1話 桃亜が来た
その日、俺はやっと終わったバイトから帰ってきたばかりで、とても疲れていた。
まさか、家の前にそんなのがあるなんて、
いや、一応“いる”としておこうか。
まあとにかくそれは家の前にいたんだ。
さて、本題に入る前に少し知っておいてもらいたいことがあるんでね。
先にそちらから行こうか。
プロローグでも少し言ってあるが、俺は一人暮らし。
両親は自動車事故で五年ぐらい前に死んでいる。
家は可もなく不可もなくって感じの一戸建て(ローンは保険金で返したが)。
あとはわずかなる財産と安いバイト代で細々と暮らしている。
まあ寝るとこだけには困らねぇのが救いだがな。
「あーだりかっただりかった・・・」
俺はそんな独り言をつぶやきつつカバンから鍵を取り出し門を開け・・・
「おぉぅ!?」
そりゃ、ドアの前にメイド装束まとった女の子がいたら誰でも驚くわな。
しかもお休み中ときた。大きなボストンバッグを枕にして。
おい、俺、落ち着け。
焦っていても何も進まないな。
よく観察する。変態じゃねぇか俺。
まあ場合が場合だ、しょうがねぇか。
さてと。
もしこれが5,6歳ぐらいの少女なら、
『メイド服を着て遊んでいる途中で迷子になり、さ迷い歩いたた末、ここに来てしまった』
と、考えられなくもないこともないこともないこともないのだが・・・
あきらか同年代なのである。(しかも結構美人という、ね)
どうしようか。
っつーかドアにもたれかかって寝とるから開けられねぇし。
起こさねば。
「おい、起きろ」
軽くゆする。
起きねぇ。
「おい、起きろって。っつーか人んちの玄関で寝るな、メイド装束。」
「もが?」
何とも言えない奇声を発しつつ、メイド女は目を開けた。
「はわっ!はわわっ!?」
それから跳ね上がって、メイド服についたほこりを掃った。
「宮間里一君、ですか?」
あん?
いや、たしかにそうなのだが・・・
「何故に知る?」
「あー・・・話したら長いんですけど・・・」
そう言うとメイド装束はチラリとドアを見た。
ああ、中に入れろってか。
「入れるか変態!名乗れよ!」
「あ、桃亜っていいます。」
「どっから来た。何で俺の名前を知ってる?そんな正体のわからねぇ奴を家に入れるほど不用心でもないんでね。」
桃亜、というらしい女はしばらく宙を見ていたが、
「あなたのお父上の知り合いのもの、って言えば入れてくれますか?」
と言った。
何だと?
親父は五年前に交通事故で・・・
それに普通のサラリーマンだったぞ。
メイド服の知り合いがいるなんて聞いてねぇ。
「おい」
俺は鍵を開けた。
「入れ。詳しく聞かせろ。」
女は嬉しそうな顔をした。
しゃーねぇ。
まあこれが俺と桃亜の出会いだったわけであるが。
まさかこんなことになるとはね。
思ってもみなかったのさ、そんときの俺は。
えと、がんばりますんでよろしく・・