生損者Ⅰ
まったく、悪趣味な話だと心から思う。いったいどこのだれが灰雪病なんてウイルスを作り出したのだろう。どうせ隣の国かそのさらに隣の国だと思うが、今更関係ない。問題は、俺たちは今も苦しんでいるという事だ。
「ついたよ、ここが僕らのアジトだ」
拓真がそういって指差す先には、崩れかけのゲームセンターが手持無沙汰にたたずんでいた。出入り口らしきところには、見張りが二人たっている。どうやら、安全面ではこちらのほうが数倍はよさそうだ……もっとも、映画じゃあるまいし、ゾンビが襲ってくるわけでもないのだが。
そう思いかけたとき、ふと一つの疑問が浮かんだ。というよりは、目をそらしていたが、とうとう目を合わせてしまった様なものだ。
「なぁ、拓真。その感染者と潜伏者は俺たちを襲うのか?」
ウイルス、生き残り、感染と来れば、後は生き残りを襲うゾンビがいると相場が決まっている。
そして案の定、拓真は暗い顔をして答えた。
「ああ……感染者は一瞬で灰色の雪になるから問題ないんだけど、潜伏者はね……」
どうやら、何かあるようだ。俺は体を押し出し気味にして、続きを促した。
「えっと、潜伏者は長い時間をかけて雪となっていくから、なんというか……そう、自我も崩れていくんだ」
それを聞いて理解した。自我を失った接触するだけでバラバラにされる亡者、なんと恐ろしい事かと、一応震えておくが、内心自殺が楽になりそうだとかを考えていた。
「アジトでは好きにしてくれて構わない。代わりに、色々と問題があるから手を貸してもらうと思う」
そういって、俺とスノウはゲームセンターの二階にある、競馬ゲームのスペースを与えられた。
しかし、色々な問題とはなんだ? 物資を運ぶ人数が不足でもしているのだろうか?
「ふわぁ、疲れた」
横では長い移動中、ずっと寝ていたスノウが目を覚ましているが、なぜか疲れを訴えている。
「好きに寝とけ、俺は色々と調べてくるから」
答えを待たずに、ゲームセンターの一階へと向かう。聞くこともやることも山積みだ。
「とりあえずは、薬局がないか聞いてこよう」
薬をあまり飲んでいないのでグラつく足取りで、一階へと向かったのだった。




