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灰色の雪  作者: 飛鳥
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因果応報

 聞き出した情報……薬の在り処、武器の在り処、その他爆薬等使えそうなものの在り処。


「よこせ」


 拾った鉄パイプで薬を管理している女を脅し、精神役をありったけ奪う。数にして百錠は行くであろう精神役を、噛みながら飲み干す。


「……次!」


 武器、凶器になりそうなものをしまってあるカプセル型のゲーム機を目指す。一応見張りがいたが、気にせずカプセルを開ける。


「お、おいおまう!」


 見張りがグチグチ言い出したので鉄パイプでぶん殴る。死んだかどうかなんて、もうどうでもいい。


「爆竹、ワイヤー、包丁、オイル、ナイフ、ライター」


 ありったけ持ち出す。邪魔する奴は片端からぶん殴って行った。薬をあれだけ飲んだのだ。正常な理性も、判断もできない。ただ、復讐のためだけに身を焦がす。


 結論から言うと、中野駅であばれていたのは、俺の両親を殺したイカレタ殺人鬼だった。だから戦う。だが力がないし、理性が邪魔をする。故に薬を大量摂取し、理性を吹き飛ばし、脳を滅茶苦茶にして体のタガを外した。


「装備、完了……ッ! 頭が……!?」


 薬の飲み過ぎによる副作用だろう。頭がガンガンと割れ響くように痛むが


「どうせ、殺したら死ぬ!」


 心中する覚悟だった。流進の人生はここで終わるのだと、拓真を絞め殺したときから覚悟していた。


「行く、か」


 後悔はない。懺悔もない。ただひたすら思うのは、復讐のみ。……いや、俺は死にたいだけなのかもしれない……奴と刺し違えて死ぬ、あっけなく殺される、潜伏者に殺される……俺はもう、ただ死んでいないだけの命を引きずっていることに、うんざりだったのかもしれない。


「この先か……」


 中野サンモール。立体型の駅として少し話題になったところだ。今では錆びれて、死体がうごめく地獄の入り口となっている。

 奴は、ここを根城としているらしい。


 サンモールへは電車の通っていた下にあるトンネルを通る必要がある。数歩歩くだけで、死臭が鼻を刺し、蛾の大群に覆われた亡者がこちらの気を削いでいく。


「負けるかよ……こんな現実、夢の中で嫌というほど見てんだよ」


 気負いせず進むと、大きな人影が、曲がり角の向こうに見えた。このままヒッソリと近づいて殺せば……


 なんて期待は、一瞬で吹き飛んだ。



「あれれ~~~、僕ちゃんのお庭にだぁれが入ったのかなぁ?」


 気づかれた! いやたぶん、気づかれてた。

 咄嗟に包丁をワイヤーで括り付けた鉄パイプを握りしめ、もう片方の手でオイルの詰まった缶を構える。そして、悪魔の様な算段を狂った頭で巡らせる。


「出てこいよ……この殺人鬼が!!」


 憎しみのこもった声で叫ぶと、曲がり角からユラッと、髭もじゃの大男が現れた。深長にして190はありそうな巨体で、力士の様な体格をしている。体には、自作なのか、たくさんの服をつなぎ合わせたボロボロの服を身にまとって、手にはチェーンソーを持っている。


「へぇえええ~~、君みたいなよわっちそうな、どこの誰とも知らない子供が、僕ちゃんに挑むのぉ?」


「なっ!? 覚えてないのか!? 父さんと母さんを殺したことを!?」


 ………………


「知らないなぁ~~、だってぇ、たぁくさん殺したもんねぇ~~!!」


 ……奴は手に持ったチェーンソーを稼働させ、こちらに勢いよく迫ってくる。


「君もその仲間に入れてあげるよぉ~~!!!!」


 ……かかった!!


「そうら!!」


 オイルを奴めがけてぶっかける。そして怯んでいるうちに、足の裏にくっ付けておいたライターを、全力で奴に蹴り込みながら衝撃で着火させる。


「あばばばばば~!!僕ちゃんの服が!! 体を守る服が!!」


 当然、こちらも火傷はするが、奴の体全体に炎を巡らせることに成功した。


 しかし、火だるまになっても、服の心配をするあたり、こちらの読みは正しかったのだろう。


「てめーは! もう既に感染してやがったな!」


 その言葉に、奴はビクンと体を跳ねあがらせる。


「そりゃそうだ! これだけの感染者の中で一か月も暮らしてりゃ、いくら抗体があっても感染する! そしてお前は、体が雪になるのを少しでも防ぐため全身を服で覆ってたんだ!」


 全ては賭けだった。おそらく奴は感染こそしていたとしても、まだ感染者や潜伏者とは直接的な接触はしていないだろうという考え。

 要するに、奴は空気感染した"潜伏者"という考えだ。


「どうやら俺の勝ちの様だな……って、逃がすかぁ!!」


 炎に焼かれて、手足の自由がうまく取れない体を捻って、奴は逃げようとしていた。

 生かせない、行かせない、生かせない……行かせない!!苦しみもがいて、俺が満足するまで殺し続けてやる!!


 俺は包丁を括り付けた鉄パイプを両手で握りしめ、炎の中を奴目掛けて走る。そして、奴の目の前で鉄パイプを大きく上に上げ、高らかに、薬による狂気に任せるままに、家族を殺された恨みのままに叫んだ。


「罪を償え!!!! あひゃははははは!!!!」

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