生損者Ⅱ
状況確認は重要である。特に大震災とかの後は特に重要となってくる。更に、大震災のせいで亡者のはびこる町に取り残されたのでは、更に重要である。
「生き残りは二十人、だがやる気がありそうなのは少ないな……」
ゲームセンターの中をぐるっと回ってみて、ここにいる人を一通り見てくると、拓真含む数人のやる気のある奴ら以外は、なんというか……
「へ、へへ、狂ってるぜ……いや、日本はこんなんになる前から狂ってたなぁ!」
「信じる者は救われる、信じる者は救われる、信じる者は救われる……」
などと、役立たずばかりであり、いかにこのグループが危うい存在で、色々と問題があるのかが良くわかった。
そんな時、拓真率いる数人の男女が俺を呼んでいる。なんでも、こっちの話を聞きたいそうだ。
俺はスノウの事を出来るだけぼかしながら、あったことを機械の様に話した。
「つまり、感染者も潜伏者もいなかったというわけだね?」
頷いて答える。なぜだまっているのか……簡単だ、薬が切れて舌が回らないのだ。
「それはきっと、"集団自殺"を行ったからよ」
一人の女性が意味深な発言をする。集団自殺? 何のことだ?
「君は一か月近く意識を失っていた。ならばきっと、あなたの周りにいた人たちは新宿やここ中野みたいな、人が集まりそうなところに移動したはずだわ」
俺を置いてか。ちょっと心が痛んだ。
「そして、その移動者たちは、あまりの現実に耐え切れずに、集団で自殺を図ったのよ」
集団でわざわざ自殺? 考えにくい事だと思う。
「いくら、なんでも、それは、ないんじゃないか?」
ええい、舌が回らん。
しかし、しっかりと聞いてくれたらしく、拓真が手招きをして言った。
「なら、見せてあげるよ……見せたくなかったけど、一緒にやっていくんだから隠せないしね」
能書きはいい、と言おうとしたところで、唇をかんでしまった。
仕方がないので黙ってついていくことにする。しばらくゲームセンターの中を歩くと、避難用の梯子が天井から降りているところに出た。
「この先はゲームセンターの屋上に繋がっている。そこから中野駅周辺を見てごらん」
言われたとおりに上って見てみる。初めは灰色の雪しか見えなかったが、次第にはっきりと見えてきたものがあった。
「なんだ、ありゃ……?」
首つり死体の山、それ以外にもたくさんの死体の山が見える。
「ね? 彼らは現実に耐え切れずに、死を選んだんだよ……僕たちが灰雪病を見つける前に、ほとんどの人が死んだ」
灰雪病、死体……まてよ、これはかみ合わないよな?
ゾッとして拓真の方を向くと、これまた案の定、厳しい顔が浮かんでいた。
「そう、彼らは"死んでない"。肉体の自由が奪われた今でも、人格はあの体に残っていて、全身が雪になるのを待っている……死んでも生きてもいない命の山……」
拓真は少し泣きそうな顔をした後、急に真顔になってこちらを見据えた。
「流、僕たちはこの現実を何が何でも外国に伝えなくてはならないと思っている。そして、そのためには沢山の物資が必要だ」
見上げた正義だが、正直そこまで付き合いきれない。要するに、あの潜伏者の山の中を進めというのだろう。一度は自殺を考えた身とはいえ、投げ出したりはしない。
ここまでは、そう思っていたんだ。
「悪いが俺は」
下のまわらぬ口で答えようとしたとき、視界の先に動く人影が見えた。
そいつは中野駅の目の前で、何かを振り回しながら死体を切り刻んでいるように見えた。
「まずい、隠れて!」
拓真に押し倒され、最後まで見えなかったが、"死体を更に殺して遊んでいるように見えた"。
『殺して遊んでいるように見えた』
「……奴は何者だ?」
拓真の首を絞めながら、本で見た尋問を試していた。