一
『うわ、またこんな点数とっちゃってぇ。』
薄黄色の髪の毛を揺らして女の子が笑う。
『良い点数でもギリギリ五十点超え…って大丈夫なの?成績。』
もう、我慢ができ…る。
『追試k「黙れってんだろ…」
「え?」
隣の席の男子が目を丸くしてこっちを見る。
し、しまった。
私は何事もなかったかのようにマスクをし直し前を向いた。
『ねぇ、無視?』
これは私の妄想。
小学生の頃からずっと私の好きなアニメのキャラの詰め合わせのような女の子がつきまとってる。
小さい頃は幽霊やら私の特殊能力によって見えてるやら考えてたが、今になるとどう考えても私の妄想でしかない。
しかしこいつの言うことはいつももっともで私の言われたくないところをえぐってくる。
「やっと帰れるね〜!」
笑顔でこっちを見てくる。
昔までならすぐに反応したが私も子供ではない。
人がいるところでこいつと話すと私が何もない空間に一人話しかけてる厨二的構図ができてしまう。
それだけは避けたい。
都合の良いことに私の帰り道は人が少ない。
『ねぇ、返事してよぉ〜』
「うるさいなぁ。」
目の前を漂うそいつに目を向けた。
小学の頃なんとなくの気分でルナ、と名付けたそいつは私と同じ制服をきていて、私と同じ様な髪型で私とは違って可愛い顔をしてる。
それが悔しいと思わないのは妄想だからだろう。
『やっとしゃべってくれた、さみしかったんだよ〜?』
「いっつも言ってるでしょ?あんたは私にしか見えない妄想だから人前で話す訳にはいかないの!」
『えぇ〜妄想じゃないかもよ?幽霊かもしれないんだよ??』
「それは…」
私がこの子がいると信じてあげたい理由。
「…そうだね。」
『そういえば、ユナって彼氏とかいないの??好きな人とか!』
「は!?いないし!!!!」
思わず戸惑ってしまう。
『ははーん、いるんだ。なんて名前?ねぇねぇなんて名前なの??』
「う…」
『言わないと私が今から一つずつユナの黒歴史を言って行きまーすひとーつユナは』
「アアアアア!!!!!黙れぇええええ黙るんだぁあああ!!!いうから!!!言うから!!!!橘くん!橘 誠志郎くん!!!!!」
「ユナ…後ろ。」
私はルナの胸ぐらを掴み殴ろうとした時、後ろに気配を感じてしまった。
ゆっくり、と後ろを振り向いた先にはその人が立っていた。
「…何してんの。」
「たっ…!」
橘誠志郎くんんんんんんん!?!?!?
もっとも、もっともみられてはいけない人に見られてしまった。
全身から汗という名の汗がふきだす。
そして見えてないであろうルナの胸ぐらから手を離した。
「あ、あの…違うんです!こ、これは…!」
焦る私をよそに橘くんは涼しい顔をしている。
それが笑っているのか怒っているのかはマスクをしていてわからない。
私が何を言おうかと固まっていると橘くんがきりだした。
「俺の名前…言ってたけど。」
「あ、あの、えっと…」
目が面白いくらいに泳ぐ。
橘くんに目がいったかと思うと地面を向いたり横をみたり。
「それに、誰と話してたの。」
橘くんは表情ひとつ変えない。
私は何を思ったのか言葉を出してしまった。
「ゆ…幽霊…幽霊が見えて…」
私の口は暴走を止めない。
苦し紛れの頭のおかしい回答が次々と口から小さい声で飛び出ていく。
「幽霊?幽霊が見えるの?」
すると橘くんは興味がわいたのかこちらに近づいてきた。
私はその歩調にあわせて一歩ずつはなれる。
一言として交わしたことのなかった憧れの人と突然話すことになるなんて。
「は、はい…その…えっと…」
私は耐えきれず逃げることを決めた。
「すみません!!」
逃げ足だけははやいと言われる私の足は今日は思いっきりスピードをだした。
翌日
学校に行くのが辛い。
橘くんは私と同じクラスだ。
あんなにも奇妙な行動をとっていた私を忘れているはずがない(悪い意味で。)
一夜明けて冷静にあの状況を考えるととんでもなかった。
橘くんから見たらマスクつけた変な高校生が空をつかんで自分の名前を叫ばれている状況を見たのだ。
話しかければまともに喋れないアホ面の高校生が突然幽霊が見えるといたいことをいったと思えば逃げ出すというとんでも展開。
だからと言ってあそこで告っても気持ち悪がられて終わっただろう。
『ユナ、橘くんと仲良くなれそうで良かったね』
ルナが突如視界に入ってくる。
「何処が!!!!!何処がだよ!!お前のせいで私の印象は最悪だゆーねん!!!!」
『ほら、早くしないと遅刻するよ?ほらほら。』
私はルナにせかされ家からでた。
「休もうと思ったのに…」
教室についたが誰もいない。
まぁいつも通りだ。
昔からのくせで学校にははやくついてしまう。
きまって人は誰もいない。
日直も少ししないとこない。
そんな暇な時間をルナと過ごす。
『ところで今日の日直橘くんだけどはやく来て良かったの?』
「…え?」
脳内で昨日の悲劇がフラッシュバックされる。
「なんでそれを先に言わなかった!?!?」
「おっと…」
ルナに怒鳴り散らしたタイミング、ガラリと教室のドアがあいて運悪く橘くんが入ってきた。
私はその場で固まる。
最悪…の状況だ…
「え?同じクラスの人なの?」
そして最初の一言にメンタルが砕かれる。
クラスの人とも認識されていなかった…
「星野ゆなです…」
ショックと悲しみと悲劇が交わった感情が胸にたまる。
教室に二人きり。
普通なら好きな人と二人きりなんて最高でしかないはずなのに。
「星野さん、あのさ」
橘くんが何か言いかけた時、また教室のドアが開く音がした。
私はすぐに席に座る。
もう一人の日直が入ってきた。
「橘ぁー、日直行こうぜ」
「あ、うん。」
ようやく一人の時間に戻る。
私は机に突っ伏してため息をつく。
真正面から見た橘くんは
「…かっこいい。」
反則だ。
橘くんは人並み以上にカッコ良くて彼が好きな女子もたくさんいる。
もっとも彼には彼女がいるけど。
これ以上関わったらいけない気がする。
私は地味な方に入る人間だから。
それから何度か目はあったものの話すことはなかった。
いつも通りに戻った気がした。
「はぁ…やっと帰れる。」
橘くんは友達と仲良く話していた、きっとすぐには帰らないだろう。
『ゆな、おつかれ!』
ルナが気だるそうに肩にのっかってくる。
「やめてよただでさえ重いのに。」
もちろん重さなど感じない、ただ重いような気がするだけ。
『あったかいでしょー!』
「はいはいあったかいあったかい。」
「幽霊に抱きつかれてあったかいわけ?」
「まぁなんとなくあったかい気がするだけだけd……………」
思考が停止する。
「たたたたたた橘くん!?」
「おいてくなよ、聞きたい事が山ほどあるんだよこっちは。」
ちかい!ちかい!
私はそっと距離を置いた。
「は、はぁ…」
「いいな、俺にも幽霊見えて欲しい。」
「そ、そうなんですか」
「なんかかっこよくない?」
「そうですね…はい。」
会話が止まる。
というか会話できた事に奇跡を感じたい。
「で、昨日こたえてもらってなかったんだけどなんで俺の名前叫んでたの?」
率直にきかれドキッとする。
好きなひとの名前を聞かれたからなんて言えない!!!!!!
「そ、その幽霊が…橘くんの事好きで、名前を知らなかったみたいで…言わないと呪うぞとか言われて…」
『え!?!?』
ルナが驚く声がきこえる。
自分の妄想力にある意味感謝したがとんでも設定すぎる。
「え、俺幽霊に好かれてんの、すげぇ。」
橘くんは苦笑する。
よくこんな嘘話に付き合ってもらってるものだ。
彼女がいるのに。
「で、でも橘くん彼女いるからって事を教えてないからちょうど教えようと思ってたんです…」
「え、彼女?」
橘くんは驚いたような顔でこちらをみた。
「彼女いますよね、二年付き合ってる彼女。」
私は橘くんの口からきいた話だから間違いない。
「あぁ〜…俺彼女いないよ。」
「は!?!?!?」
目ん玉が裏返りそうな気分だ。
「だ、だって彼女と並んでる写真も出回って…!」
「その…あんま言いたくないけど俺モテるじゃん、わりかし。だから女除けに彼女いるって言ってただけ。それ俺の姉貴だし。」
ぽんぽんと言われる新事実に頭の中が混乱する。
モテてるという自覚があるのはわかった。
「もったいない…」
「え?」
「すごく可愛い子も優しい子も橘くん好きな人、いるのに…」
クラスの可愛い女子も密かに橘くんを狙っている。
「ふっ…」
橘くんは静かに笑った。
「見た目で判断する女は嫌いなの、俺。」
心臓にグサリとくる。
私も八割は正直見た目だ。
今思えば橘くんの何も知らない。
「星野さんって変わってるね。」
「よく言われます。」
あぁ…やっぱ変なひとだと思われてる…
ルナの話に戻ろうとして橘くんの方を見ると顔が目の前にいた。
「うわああー!!!!!!」
思わず大声をだして一メートル近くはなれる。
顔が真っ赤になる。
ヘタしたらキスできる近さだった。
お互いマスクつけてるけど。
「男耐性全然ない。」
クスッと言う声が聞こえてまた恥ずかしくなる。
「男耐性…というかあまり人と関わらない…デスから。」
「の割には大声だすし、よく怒鳴る。」
それはルナのせいだろう。
ルナがこっちに手を振ってるのを見つけてなんだかイラついた。
しかしルナがこっちにきたと思うと橘くんにのっかった。
ちょっ、ルナ何してんの!?
つい口にだしそうになったのをおさえる。
「何、上にいる感じ?」
「あ、えっと…」
ギュッと私同様に抱きつくと頬をすりすりし始めた。
見てるこっちが恥ずかしくなる。
我慢できない。
「橘くん、ちょっとごめん。」
私は橘くんにつくルナの顔を鷲掴みすると地面に叩きつけた。
『や、あのね、ゆな、これは出来心でその…』
逃げないようにおさえつけると思いっきり殴った。
感触はない。
「えっと…星野さん。」
「………って何してんの私!!!!」
つい思った事を口にだしてしまう。
「ちが、その、今幽霊がとりつきそうになってた…から…その…ご、ごめんなさい!!!」
私は恥ずかしくなり逃げ出した。
そしてすぐにしゃがむ。
「あああああもう私のバカアアアアアア!!!!!」
『ルナ、叫んだらきこえるよ、いがいと近いよ、近いよ。』
「…叫んでる。」
どの方向にむかいたいのかもわからないままただ恥ずかしさに顔を真っ赤にしていた。