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序 始まりの旅 拾

なんとか……一週間で更新できた。

ご近所での急な不幸事や緊急の仕事で時間が無い中なんとか書き上げれました。

今後とも頑張っていくのでよろしくお願いします

 荊州·南陽郡はこの当時一郡で一州に匹敵する人口を誇る当代随一の郡である。荊州刺史は当然この地に赴任する事になるが、南陽太守もこの地にて政を執り行っていた。

 当時の荊州刺史は徐璆じょきゅうであり、その統治は広陵太守趙昱と並び称されるほどの清廉さであったという。

 刺史とは、地方官僚を取り締まる為の監察官の事である。

 前漢の頃より、地方官僚は商人や豪族と密着、その罪を見逃し見返りに賄賂等汚職が酷かった。その為、それらを監察する為に設けられた職であった。しかし、後漢に入ると、州の政務を実際に執り行う事、行政権を与えられ地域を完全に掌握する事になった。

 南陽太守は褚貢 《きょこう》である、と後漢書朱儁伝に名のみが伝わっている。

 先にも述べたが、清廉であり公平な政を行った徐璆が解任をしていない事から平均以上の統治は出来ていたのであろう。

 その南陽郡の中心地・宛――

 今、三人の少女が街を練り歩いている。

 一人は薄い桃色の髪、黄色の装飾帯で頭の後ろで括っており、のんびりとした感じの少女である。

 もう一人、薄い青色の髪を頭の左側で緑の装飾帯で結んでおり、とても活発な感じを抱かせた。

 最後に、薄い紫色の髪はおかっぱで三人の中で一番短い。赤縁の眼鏡を掛け、しっかり者の印象である。

 三人総じて美少女であり、顔の造作もよく似ていた。

 人目を避ける様に路地裏を歩き、やがて一軒の古びた酒家へと入る。

「黄金炒飯を3つお願いします」

「へい」

 赤縁眼鏡の少女が注文する。暫くすると、直ぐに品物が卓へと運ばれてきた。

「お待たせしました」

 炒飯を卓に置くと同時、この当時としてはかなりの貴重品である紙片も置かれる。

「全て予定通り」

 そして小声で一言呟くと、そのまま卓を離れた。

 置かれた紙片を何気なく袖に入れると、三人は食事を始める。が、直ぐに顔を顰める。

「しょっぱいよー」

「何よコレ!」

「……塩を入れすぎです」

 散々であった。

 




 直ぐに店を出た三人は、来た道を真っ直ぐに辿ってやがて大きく人通りの多い道へと出た。

「ねえねえ人和ちゃん、まだ用事はあるのかな?」

 大通りを行く人々を見つめつつ桃色の少女が問いかける。

「用事は終わりましたがもう少し待ってください姉さん」

「まだ何かあるの? ちぃ疲れちゃった」

 おかっぱの少女の返事に薄紫の髪の少女が不満そうにする。

「この先の少し大きめの酒家に舞台がありました。そこでなら少し歌えます」

「ホント!? じゃあ張り切って其処まで行こう! ちいちゃんはどうする?」

「ちぃも歌うに決まってるでしょ! 人和急ぐわよ!」

 そう騒ぐと二人は大急ぎで走り出す。

「……、いつまでこんな事をしなくちゃいけないのかしら。父さんは何を考えているのか」

 遥か東、冀州にいる父を思い浮かべ、人和と呼ばれた少女は姉に気付かれないように一つ溜息を吐く。っして一つ頬を軽く叩くと二人を追って走り出す。

「待って姉さん。二人は場所分からないでしょう?」

 そして三人は人混みへと紛れ、その姿は見えなくなった。



◇◆◇◆◇



「元気になれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 華元化は叫び、その勢いのまま鍼を女性の身体に突き刺す。

 既に女性の身体には十数本の鍼が刺さっており、これが最後の一本であった。

 刺すと同時、室内を目を明けていられない程の光が溢れ出す。

「これが氣なんだ! 凄い!」

 単福が驚愕の面持ちで眺めている。

 最後の鍼を打ち込むと、その女性、単福の母の顔色は目に見えて良くなった。

「これで大丈夫だろう、後は薬をちゃんと飲み、栄養のある食事をすれば回復する筈だ」

 華佗は鍼を抜きながら単福へと伝える。

「有難うございます」

 膝に着く位頭を下げて御礼をする少女に、どうという事は無い、と華佗も応じる。

「華元化殿、本当に有難うございました。これで彼女も、母親も救われます」

 少年が華佗に同じく礼を述べる。

「構わない、俺も目的があるのだからな」

 そして、ちらりと少年の腰にある二対の剣に目を向けた。

「それに報酬は既に前払いで貰っている」

 清清しい笑顔を見せる華佗。

「陰陽の理の一端に触れられたのは大きかった。鍼に篭める事の出来る氣の量を大幅に増やすことが出来た。こちらこそ、礼を言わせてくれ」





 少女の家に向かう途中、少年は華佗に干将莫耶を手渡していた。

「これが、干将莫耶か」

 華佗は二本の剣に魅入っている。

「陰陽魚、陰中の陽に陽中の陰、ふむ」

「陰の力が強くなっても陽は消えず、陽の力が強くなっても陰は消えない、ですか」

 華佗の呟きに少年が答える。

「そうだな、俺はずっと陽の力を高め続ければ、病魔は退散できると思っていたんだが……」

「陰陽は自身を高め盛んにし、ついでその力で互いを飲み込もうとしている。そして極まれば、陰は陽に、陽は陰へと転じる、と陰陽道では謳っています」

 二人の話に少女が自身の知りうる知識を伝える。

「成程! そういう事か!」

 その言葉で華佗は何かを悟ったようだ。

「陰陽二つの氣を均衡を保ちつつ、最大限まで高めるようにすれば更に力が増す、という事ですか」

 少年の説明に華佗は大きく頷く。

「これを実践できれば、俺は更に人を救うことが出来る。……そして、目的も達することが出来るかもしれんな」

 後半の台詞は少年にも、少女にも聞こえないように呟く。

「有難う史崇」

 華佗は謝礼の言葉を投げ掛け、干将莫耶を少年へ戻した。





「さて、それでは俺はまた、人々を救う旅に戻る」

 少女の家を出た華佗は二人にそう告げる。

「そうですね、ここから東にある江東の地で、大きな戦が始まるようです。華元化殿の力が、必要だと思いますよ」

「いい情報だな、苦しんでいる怪我人や病人が沢山居ることだろう、礼を言うぞ」

 少年からの情報に、華佗は有難い、と礼を言った。

「史崇、次に会うことがあったら、その時は真名を交換しよう!」

 そう言うと、華佗は東に向かい走り出した。

「ええ、いいですよ。ただ、俺には真名なんて無いんですがねぇ」

 ポツリと、少年は誰にも聞こえないように呟くと、少女の方へと身体を向ける。

「俺もそろそろ行くとしましょう、母上がよくなって良かったですね」

 少年の台詞に、寂しげな表情を作る少女。

「この後はどうするんですか?」

「母さんの事が心配無くなるまでは側に居るよ。その後は、それから考えようと思うんだ」

 少女の言葉に、少年は軽く頷く。

「それならば、一つお願い事をしてもいいですかね」

「お願い事とか言いっこなし! 君の言うことなら、僕なんでも聞くよ」

 いえ、それはそれで困るんですが、と少年はひとりごちると、少女へと依頼事を語る。

「実は、江陵での出来事だったんですが……」

 少年の話を聞き、時に驚き、時に不機嫌になりつつ少女は耳を傾けるのであった。

 それから十数日後、一人の少女が年配の、母親と思しき女性と南へと向かう姿が見られる事となる。



◇◆◇◆◇



「どうやら、江東の叛乱は鎮圧されたようなのですよ」

 宛へと向かう道中、風が仕入れた情報を開示する。

「江東の虎率いる孫家軍が、そう簡単には負けないとは思いましたが」

「ほぼ損害無く、一方的に叛乱軍を鎮圧したそうです」

 少年の言葉に、稟がさらに追加情報を出す。

「とんだ化け物集団ですな」

 一ヶ月以上前に出会った孫文台や孫国、孫伯符に周公瑾等を思い出しつつ星も溜息をつく。

 一行は四日程襄陽にて滞在、今朝早く出発をした。

 行き先は宛。荊州南陽郡最大の都市である。

 中蘆港より湖陽港へと漢水を渡り、新野を経由して宛へと入る予定である。

「あとあと、中原や河北も少しキナ臭くなってきたのですよ」

 小規模な叛乱が相次いでいるらしい。今の所、官軍がすぐに鎮圧をして事なきを得ているようであるが、

「どうも鎮圧後の官軍が、かなりの無体を働いているらしいのです」

 司馬徳操に襄陽で会うことが出来、そこでかなりの情報を入手した二人が星と少年に報告している。

「西北の涼州でも、羌族が雪崩れ込んで来ているようです」

「此処まで来ると、北から鮮卑族や匈奴、南方の南蛮が雪崩れ込んできても驚かない自信が出来そうですよ」

「ふふふ、では口直しに、私の話も聞かせてやろうではないか」

 風と稟の報告の後、星がそう語る。

 さて、俺は何処までを語ればいいのでしょうかね――

 そう自問しつつ、少年は星の話に耳を傾ける。

 まあ、いづればれるのであれば、ばれたときでもいいのですが、今話して、驚かせるのも悪くないですね――

 そうひとりごちながら。

ご意見ご感想誤字脱字報告などなどetc・etc――

お待ちしております。

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