↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

999本の薔薇で結ばれた二人、転生して今度こそ離れません

作者: 禾乃衣
掲載日:2026/05/06

 二人は雨の日も強風の日も、一度も休まず山へ登り続けた。

 足を滑らせ泥にまみれ、それでも手にした薔薇だけは決して落とさない。

 たった一本。 されど、それがすべてだった。

 結ばれることのない運命を背負った二人は女神と契約を交わした。

 999日間、毎日欠かさず薔薇を一本供えること。

 それが来世で結ばれるためのたったひとつの約束。


 そしてついに999日目。

 最後の薔薇を静かに切り株へ供える。

 次の瞬間、世界が光に呑まれた。

 「今度こそ」

 重ねた手に力を込める。

 ――もう二度と、離さない。


 *

 *

 *


 ――あの日からすべてが変わった

 王立魔法学院。

 庭のベンチに座り談笑するレオンとセリアナ。

「もうすぐ卒業ね」

「ああ、あっという間だったな。 学生時代を二回過ごした気分だ」

「私も。 あなたとこうして穏やかな日々を過ごせるなんて夢にも思わなかった」

 二人は寄り添いながら、あの過酷な999日の日々を思い出した。


 前世の記憶は今もはっきり残っている。

 思い出すだけで胸が少し痛むような、そんな記憶だ。

 けれど、今は隣にレオンがいる。

 それだけでいいと思えた。

 俯いてるセリアナの手を握るレオン。

「大丈夫。 これからもずっと一緒だ」

「ええ」

 この幸せを噛みしめるようにこたえた。


 そこへ一人の令嬢が現れる。

「レオン様、本日もご機嫌麗しゅうございますわ」


 聞き慣れた、いや聞き飽きた声にセリアナはそっとため息をついた。

 振り返らずともわかる。

 この声の主はメリーゼ・ガルディア。


「……また来たのか」

 レオンは露骨に嫌そうな顔をする。

「またとは失礼ですわ。 私はただ、未来の婚約者としてご挨拶に来ただけですのに」

「その未来、俺の人生には存在しない」

 即答だった。


 間髪入れずに否定され、メリーゼのこめかみがぴくりと動く。

「ですが、最近妙な噂が広まっておりますのよ?」

 ちらりとセリアナを見る。

「セリアナ様が、平民の出だとか……何か後ろ暗い過去をお持ちだとか」


 空気が少しだけ冷えた。

 普通ならここで心が揺れるのだろう。


 だが。


「で?」

 レオンは退屈そうに言った。

「それがどうした?」

 あまりにも興味のない声音だった。


 メリーゼの笑みがわずかに引きつる。

「どうした、ではありませんわ。 王族の婚約者ともなれば相応の血筋と品位が求められるもの。 そのような不確かな出自の方が隣にいるなど――」

「俺の婚約者を愚弄するか」

 一瞬で相手を凍りつかせるような冷ややかな目で睨むレオン。

 メリーゼは言葉を失う。


「セリアナはれっきとした公爵家の生まれ。 君が言う後ろ暗い過去とやらが、彼女が幼少期に領民を救うために奔走していた高潔な日々のことを指すなら、その無知を恥じるといい」

 レオンはゆっくりとセリアナの手を取り、その指に自分の指を絡めた。

「俺が選ぶのはセリアナだ」

 それだけで十分だとでも言うように。


「なっ……!」

 メリーゼの顔がみるみる赤くなる。


「王子として誰を隣に置くかを決めるのは俺だ」

 静かだが有無を言わせぬ響き。


 セリアナは思わずレオンを見上げた。

 ――ああ、この人は……前世でもこうだった。

 何もかもを敵に回しても、ただ一人を選ぶ人。


「もういいですわ!」

 メリーゼは踵を返した。

「いずれ後悔なさいますから!」


 去っていく背中にレオンは見向きもしない。

 ただ、隣のセリアナにだけ視線を落とした。

「気にするな」

「……ええ」


 本当は、少しだけ怖かった。

 前世のように、また何かに引き裂かれるのではないかと。

 けれど、繋がれた手はあの日よりもずっと強く温かい。

「レオン」

「ん?」

「……離さないでね」

 一瞬の沈黙。

 それから、ふっと笑う気配。

「最初からそのつもりだ」

 指先にぎゅっと力が込められた。



 卒業パーティーの日。

 会場には、この日を待っていましたかのような自信に満ちあふれたメリーゼの姿があった。 

「(ふふ。 これだけの証拠があればきっとレオン様だって目が覚めるはず。 見てなさいよ!)」

 寝る間も惜しんで彼女が企てたのは「セリアナ断罪計画」。

 そしていよいよ決行する。

「皆さま、ここにいるセリアナ・アルヴィスは――」

 声高らかにメリーゼの演説が始まった。


「ここに、彼女が過去に身分を偽り王立魔法学院へ入学したという不正の証拠がありますわ!」


 会場がざわめく。


 くだらない茶番だ……とでも言いたげな顔をして黙って聞くレオン。

 そして一通り演説を終えたメリーゼがレオンの隣へ行き、腕を絡める。

「これで目が覚めまして?」

 勝ち誇った顔でセリアナを見る。

「(ふっ、完璧すぎる計画……私って天才かしら。 さあ、おとなしくざまぁされなさい!)」


 勝利を確信したメリーゼの隣でレオンは「(なんというか……)」

 そばにいたセリアナも「(こんなことって……)」


「「((ほんとにあるんだな))」」


 同じことを思っていた。


 ちなみに二人が転生したのはゲームの世界でも物語の世界でもない。


 レオンは呆れたように息を吐く。

「随分と手の込んだ偽造だな」

 静かな声が場の空気を切り裂いた。


「な、何を! これは確かな」

「証拠?」

 レオンは小さく笑う。

「ならば、こちらも見てもらおうか」

 側近が一歩前に出て別の書類を広げた。

「王家直轄の記録だ。 セリアナ・アルヴィス、公爵家嫡女。 幼少期、疫病流行の際に私財を投じて領民を救済した功績が正式に記されている」


 どよめきが広がる。


 メリーゼの顔から血の気が引いた。

「そ、そんなはず……!」

「加えて」

 レオンの声がさらに低くなる。

「偽造文書の作成および流布。 王族の婚約者への名誉毀損。 軽い罪では済まないな」


 会場の視線が一斉にメリーゼへ向けられる。

 さっきまでの余裕はもうない。

「わ、私はただ……!」

「嫉妬か」

 あまりにも容赦のない一言だった。

 言葉を失うメリーゼ。

 そしてあっけなく退場させられた。


 レオンはセリアナに振り返り、はっきりとした声で告げた。

「この場を借りて宣言する」

 会場中の視線が集まる。

「レオン・ヴァルクレインはセリアナ・アルヴィスを正式な婚約者とし、生涯ただ一人の伴侶とする」


 一瞬の静寂。


 そして、割れんばかりの拍手が響いた。

 セリアナは息を呑む。

 胸の奥が熱くなる。

 あの日掴んだ手。

 999日間、決して離さなかった想い。

 すべてが、今ここに繋がっている。


「……レオン」

 震える声で名を呼ぶ。

「これで文句はないだろう」

 どこまでも当然のように言ってのけるその姿にセリアナは思わず笑ってしまった。


 ――ああ、本当に。

 この人は変わらない。

「ええ……ありがとう」


 その手を今度は自分から強く握り返した。


 ――もう二度と離さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。