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第6話 引けない

編集点 デスミラージの攻撃力を修正しました。

 今日は、関わらないつもりだった。


 薬草を納品して、

 それだけ済ませて帰るつもりだった。


 なのに――

 気づけば、ジャンはリーフェルの森の中を歩いていた。


(……なんだよ、これ)


 理由は分からない。

 胸の奥が落ち着かず、じっとしていられなかった。


 剣を握る手に、無意識に力が入る。

 役に立たないと分かっているのに、手放す気にはなれなかった。


 その時だった。


「……た、助けて――!!」


 すぐ近くから、悲鳴が聞こえた。


 ジャンは、考える前に走り出していた。


 枝を払い、足場の悪い地面を蹴る。

 息が切れるのも構わず、声のした方向へと駆ける。


 視界が開ける。


 そこにいたのは、地面に崩れ落ちた赤いベレー帽の少女だった。


「……っ、は……」


 マーシャ。


 足はもつれ、呼吸は荒い。

 もう、逃げる力は残っていない。


 そして、その前に立つ影。


 白い兎の魔物――アルミラージ。

 ……いや、違う。


 毛並みが、赤い。


 アルミラージよりも、明らかに格が上だ。

 赤いやつは、強い。


(……ヤバい)


 名前なんて知らない。

 だが、本能が告げていた。


 ――あれは、近づくべきじゃない。


 ――でも。


 ジャンは、赤い兎のすぐ近くへと踏み出した。


 アルミラージは、

 最も近い標的を狙う習性がある。


 なら、狙われるのは――


 次の瞬間。


 赤い兎が、跳んだ。


 避ける暇もない。


 衝撃が、全身を叩き潰した。


 ――【−1300】


「……っ、ぐ……!」


「冒険者さん……!!」


 息が一気に吐き出され、地面を転がる。

 背後で、マーシャの叫び声が弾けた。


 痛い。

 死ぬほど、痛い。


 それでも、ジャンは立ち上がった。


 再び、マーシャの前に立つ。


「……逃げろ……」


「で、でも……!

 だって……!」


 声は震えていたが、

 ジャンの足は動かなかった。


 次の攻撃。


 ――【−1300】


 骨が軋む感触。


 視界が揺れる。


 咄嗟に、剣を振るう。


 ――【0】


 確かに当たっている。

 だが、何も起きない。


 もう一度、振る。


 ――【0】


「……っ」


 歯を食いしばる。


 再び、赤い影。


 ――【−1300】


 地面に叩きつけられながら、

 耳元で乾いた音が鳴った。


 ――ぱちっ。


 攻撃を受けるたびに、

 聞き慣れた音。


 意味の分からない、

 邪魔な音。


 剣を握る腕が震える。

 指の感覚が、薄れていく。


(……守れない)


 胸の奥で、何かが軋んだ。


 背後から、また掠れた声が聞こえる。


「……だい、じょう……ぶ……」


 強がりにもならない声。


 それでも、

 必死に前を向こうとする声。


(このままじゃ……)


 赤い兎が、再び身構える。


 ――【−1300】


 膝が、地面についた。


 それでも、立ち上がる。


(このままじゃ……何も出来ない)


 ジャンは、前に立ち続けた。




昨日は風邪でダウンしてしまい申し訳ございません。

皆様も体調に気をつけてくださいね。



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