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第五話 未踏の洞穴

今回はフルスイングのハワード視点です


 運がいい。


 それが、リーフェルの森の奥へ足を踏み入れた瞬間の、ハワードの正直な感想だった。


 新しく見つかったダンジョンは、拍子抜けするほど簡単に見つかった。

 森の奥深く、獣道が途切れた先に、ぽっかりと口を開けた洞穴。


「……隠す気、ねぇな」


 ハワードは鼻で笑う。


 罠も、妙な前触れもない。

 経験則だが、こういうダンジョンは大抵が“楽な当たり”だ。


「当たりっすね」


 エドが、軽く言った。


 シドは無言で頷く。


「んだ、んだ」


(功績も稼げる。危険も少ない)


 未踏派のダンジョン。

 最初に踏破した者の名は記録に残る。


 それだけで十分な功績だ。

 しかも未踏派は、希少な素材が出やすい。


 ――今回は治癒師付き。


 後ろを歩くマーシャに視線を向ける。


 赤いベレー帽の新米治癒師。

 息は荒いが、歩みは止まっていない。


(使えなくはない)


 洞穴の中へ足を踏み入れる。


 最初に現れたのは、予想通りの魔物だった。


「……ラビッチョか」


 丸々としたピンク色の兎型魔物。

 森では最弱クラス。


「楽勝だな」


 斧を振るう。


 ――【−220】


 一撃。


 エドの短剣でも、

 シドの大剣でも、結果は変わらない。


 数は徐々に増えたが、脅威ではなかった。


(想定内だ)


「行けるとこまで行くぞ」


「っすね!」

「んだ、んだ」


 エドとシドは短く応じた。


 慢心は、確信へと変わっていく。


 ――その時。


 白い影が視界を横切った。


「……?」


 ラビッチョより一回り大きい白い兎。

 額には一本の角。


「アルミラージか」


 ラビッチョの上位種。

 一気に中級モンスターへ跳ね上がる存在。


「単体なら問題ない」


 アルミラージが突進する。


 ハワードは笑った。


 赤いオーラが全身を包む。


 正面から受け止めた瞬間、

 赤い数字が跳ねた。


 ――【−340】


「チッ……!」


 ハワードの体に確かな痛みが走る。

 だが、次の瞬間。


「――剛波(フルスイング)


 オーラが斧へと収縮し、

 受けた衝撃を、斧に乗せて叩き返す。


 ――【−560】


 アルミラージが吹き飛ぶ。


「ほらな」


 問題ない――

 そう思った。


「ハワードさん! 回復します!」


 ――【+60】


 回復量は少ないが、時間をかければ持つ。


 だが。


 洞穴の奥から、さらに気配が溢れ出す。


 白い影が、二体、三体。


 アルミラージがハワードに向けて突進。


 ――【−380】


「ぐっ……!」


 体力が一気に削られる。


「回復!」


「は、はい!」


 ――【+60】


 追いつかない。


 アルミラージは最も近い標的を狙う。

 剛波で返せるのは一体分だけ。


 だが、エドとシドの三人で連携すれば、

 ギリギリなんとかなる。


 その時。


 洞穴の奥から、

 異質な気配が現れた。


 真紅の毛並みを持つ兎の獣。


「な……なんなんスカ、あいつは……!」

「んだ……ッ!?」

「……赤いのは、聞いてねぇ」


 シドが驚愕の声をあげ、

 ハワードが呻く。


「デスミラージだ……」


 アルミラージの上位個体。


「撤退だ!!」


 ハワードは叫んだ。


 ハワードの叫びと同時に、全員は踵を返した。


 洞穴の出口へ向けて、全力で走る。

 背後から、爪が岩を削る音が迫ってくる。


 速い。


 思っていたより、ずっと。


「くそっ……!」


 足元の石につまずきそうになりながら、

 ハワードは歯を食いしばった。


 息が荒くなる。

 肺が焼けるように痛む。


 背後で、甲高い鳴き声が響いた。


 振り返らなくても分かる。

 デスミラージだ。


 だが――


 洞穴を抜けた瞬間、空気が変わった。


「外だ……!」


 一瞬だけ、安堵が走る。


 通常なら、ここで終わりだ。

 ダンジョンの魔物が、外まで追ってくることはない。


 ――はずだった。


 次の瞬間。


 地面を蹴る重い音が、背後から迫る。


「……まだ来るのかよ!」


 振り返ったハワードの視界に、

 赤い影が跳ねた。


 デスミラージ。


 洞穴の外にまで、その姿があった。


「異常っスよ、こんなの……!」


 エドが叫ぶ。


 走る。

 ひたすら走る。


 だが、全員が同じ速度で走れているわけではなかった。


「……っ」


 マーシャの足が、明らかに遅れている。


 回復を続け、魔力を削り、

 さらに走り続けた体は、新米のマーシャには限界に近い。


 肩で息をし、

 一歩踏み出すたびに、足がもつれる。


「だ、大丈夫です……!

 まだ……!」


(……無理だ)


 このままでは、全員捕まる。


 デスミラージは、

 一度狙った獲物を執拗に追う。


 だが、標的は一つでいい。


(切り離すしかない)


 森の奥。

 目撃者はいない。


 生き残るための、最適解。


 ハワードは、足を止めなかった。


「……生きて帰るのが仕事だ」


 それだけ言って、速度を上げる。


 エドも、シドも、迷わず続いた。


「え……?」


 背後で、マーシャの声が揺れる。


「ちょ、ちょっと……待って……!」


 距離が、開いていく。


「ハワードさん……?」


 その声が、震えた瞬間。


「た、助けて――!!」


 悲鳴が、森に響いた。


 ハワードは、振り返らなかった。


 振り返れば、

 自分が何を捨てたのかを、

 直視することになるからだ。

スマホが水没して投稿が遅れてしまいました。


皆様もお風呂でスマホを扱う際は気をつけてください。

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