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第四話 森の奥に


 冒険者ギルドは、朝から落ち着かない空気に包まれていた。


「リーフェルの森の奥らしい」

「新しいダンジョンだってよ」

「中級でも危ない場所だぞ……」


 掲示板の中央には、赤字で《緊急》と記された依頼書が貼られている。

 人だかりはできているものの、誰ひとりとして一歩を踏み出そうとはしなかった。


 ジャンは、その様子を横目に見ながら、

 いつも通り薬草の納品口へ向かう。


「薬草の納品です」


 受付の女性が袋を受け取り、中身を確認して目を見開いた。


「……今回も、随分多いですね。

 これ、全部リーフェルの森で?」


「はい。奥の方まで行ったので」


 その言葉に、すぐ隣から弾んだ声が飛んできた。


「えっ!?

 リーフェルの森の奥って、あの危ないところですよね!?」


 声の主は、赤いベレー帽を被った少女だった。

 淡い銀色の髪が肩口で揺れ、ゆるく波打っている。


「無事に戻ってきたんですか!?

 すごいです!」


「……慣れてるだけです」


「慣れてるだけで行ける場所じゃないですよ!

 本当にすごいです!」


 戦えない。

 だから、無理はしない。


 危ないと思った場所には近づかず、

 時間がかかっても、安全な道だけを通る。

 それを何度も繰り返した結果、

 気づけば森の奥まで辿り着けるようになっていただけだ。


 ジャンは少しだけ視線を逸らした。


 その時だった。


「どけ、邪魔だ」


 低く荒い声とともに、人の流れが強引に割られる。


 大斧を担いだ戦士――ハワード。

 その後ろに盗賊のエド。

 さらに、大剣を背負った剣士のシド。


 パーティ《フルスイング》が現れた瞬間、

 ギルド内のざわめきが一段、下がった。


「この依頼だ」


 ハワードは掲示板を一瞥し、短く言う。


「リーフェルの森の奥。

 新ダンジョンの調査。

 俺たちが受ける」


 異論は出なかった。

 この街で、彼らは中級冒険者として名が通っている。


「問題は回復役っすね」


 エドが軽く周囲を見回す。


「森の奥は被弾が増える。

 回復薬を大量に買うより、

 治癒師を一人雇った方が安い」


「治癒師を雇う」


 ハワードは即断した。


「誰でもいい。

 後ろで回復できりゃ、それで十分だ」


 一瞬、沈黙が落ちる。


 緊急依頼。

 リーフェルの森の奥。


 その空気を――


「はーい!!」


 突き破ったのは、やけに元気な声だった。


 赤いベレー帽の少女が、勢いよく手を挙げる。


「マーシャです!!

 治癒師やってます!!」


 さらに一息で続ける。


「新米ですけど!

 回復なら任せてください!!

 いっぱい回復できます!!」


 場が、ぴたりと静まった。


「……新米か」


 エドが肩をすくめる。


「まあ、いないよりはマシっすね」


「いい」


 ハワードは短く頷いた。


「前に出るな。

 指示された時だけ回復しろ」


「はいっ!!

 よろしくお願いします!!」


 マーシャは満面の笑みで頭を下げた。


 シドが、いつもの調子で頷く。


「んだ、んだ。」


 ジャンは、そのやり取りを黙って見ていた。


(……やめた方がいい)


 喉まで出かかった言葉を、飲み込む。

 無能職と呼ばれる自分の忠告に、

 誰も耳を貸さないことは、もう知っている。


 マーシャが、ふとジャンの方を見る。


「あっ、さっきの人!

 森、詳しいんですよね?」


「……まあ」


「すごいです!

 帰ってきたら、

 また色々教えてください!」


 屈託のない笑顔だった。


 フルスイングは、そのままギルドを出ていく。

 リーフェルの森へ向かって。


 マーシャは少しだけ振り返り、

 元気よく手を振った。


「行ってきます!!」


 ジャンは、その背中を見送った。


 胸の奥に、言葉にできない不安を抱えながら。

読んでいただきありがとうございます。


また続きを読んでくださることを心より願います。

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