第二十三話 初めての一歩
1週間ほど遅れてしまいました。
楽しみにしていた方々は申し訳ございません。
ただ、少しずつ時間が取れそうなので頻度が上げられそうです。
ガサッ、と茂みが揺れた。
風の流れが、ほんのわずかに変わる。
次の瞬間。
白い毛並みの小さな魔物が、ぴょこんと姿を現した。
短く愛らしいウサ耳。
ふわふわと丸い体。
そして特徴的な、ほんのり光を帯びた赤い瞳。
柔らかな陽の光を受けて、その毛並みがほのかに輝いて見える。
「……ラビッチョだ」
ジャンは思わず声に出した。
以前、一人で訓練していた頃、この辺りではよく見かけた魔物だ。
臆病で、滅多に人を襲わない。
危険性はほとんどなく、初心者でも対処できることで知られている。
そのラビッチョが、二人の様子をうかがうように、少し離れた場所で立ち止まっていた。
「キュ……」
敵意は感じられない。
むしろ、不思議そうにこちらを見ているようだった。
マーシャの表情がぱっと明るくなる。
「ジャンさん……!」
小声で、けれど隠しきれない期待を込めて言う。
「チャンスです!」
「えっ?」
「安全な魔物ですし、動きも速すぎません」
マーシャは少し身を乗り出し、ラビッチョを見つめる。
「今なら、落ち着いて試せます!」
距離も、ちょうどいい。
実際、ジャンも剣の基礎訓練の相手として、何度も相手をしたことがあった。
その時の記憶が、ぼんやりと蘇る。
(あの時は……ただ必死で剣を振ってただけだったな)
まさか今、まったく違う形で向き合うことになるとは思っていなかった。
心臓が、少しだけ早くなる。
緊張と、不安と。
ほんの少しの期待。
マーシャが優しく続ける。
「さっき言ってたじゃないですか」
「焦らず、順番にって」
にこっと笑う。
ラビッチョが、小さく鳴いた。
「キュ?」
ジャンはゆっくりと息を吐く。
胸の奥に溜まっていた緊張を、少しずつ外に出すように。
(落ち着いて……)
(月光の団の人たちが言ってた通り……)
(まずは、形を意識する)
戦う意思を意識した、その瞬間――
ジャンの視界の前に、ふわりと光の枠が現れた。
四角いブロックが、静かに浮かび上がる。
全部で十四個。
いつも通り、不規則で、ばらばらの絵柄。
意味は分からない。
規則も、まだ掴めない。
それでも――
以前とは違う。
「……やってみるよ、マーシャ……!」
小さく決意を口にする。
声はまだ少しだけ弱い。
けれど、確かに前を向いていた。
マーシャが嬉しそうに頷く。
「はい!」
その一言に、迷いはない。
森の中の空気が、静かに張りつめる。
ジャンは、一つしかない炎のブロックをそっと手放した。
ブロックが光の粒となって消える。
直後――
ラビッチョが、ぴょん、と軽く跳ねた。
柔らかな着地音。
敵意のない、小さな動き。
そしてラビッチョの行動が終わると、空いていた場所に新しいブロックが補充される。
淡く光りながら現れたのは、雷の絵柄だった。
ジャンはその変化を、しっかりと目で追う。
意識を集中させる。
並ぶブロック。
形。
配置。
何か意味があるはずだと、自分に言い聞かせる。
小さな一歩。
けれど確かな前進だった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白いと感じたならスタンプやコメント等を残していただけると大変励みになります。




