第二十一話 理と矜持
なんとか投稿できました…!
引き続きお楽しみください!
四千は、偶然ではない。――“式”の結果だ
その言葉がが卓上に落ちた瞬間、背後から大きな影が差した。
「式、ねぇ」
低く響く声。
三人が振り向くと、そこに立っていたのはアーロンだった。
酒の匂いを纏いながらも、その目は少しも濁っていない。喧騒の中心にいたはずの男が、いつの間にかここにいる。
「悪ぃな。聞くつもりはなかったが、耳に入っちまった」
豪快に笑う。
だが視線はジャンから外れない。
「四千出したのはお前か」
「……はい」
迷いなく答える。
アーロンは腕を組んだ。
「偶然じゃねぇと思ってるんだな」
「はい。再現できるはずです」
「できなきゃどうする」
「できるまでやります」
一瞬の沈黙。
そして――
アーロンは笑った。
「いい」
短い一言。
「目が死んでねぇ」
その評価は、何よりも重い。
「信じてくれるんですか!?」とマーシャ。
「信じる信じねぇの話じゃねぇ」
アーロンはジャンを見下ろす。
「やろうとしてる奴は伸びる。それだけだ」
その時。
「四千?」
冷えた声が割り込んだ。
振り向くと、大弓を肩にかけた赤髪の男が立っている。
ロイエン。
王都《月光の団》の主力弓使い。
「誰が出した」
アーロンは顎でジャンを示す。
「こいつだ」
ロイエンの視線がゆっくりとジャンを値踏みする。
上から下まで。
装備、姿勢、呼吸。
「……この村の子供が?」
「はい」
「ありえない」
即断だった。
感情ではない。分析の結論。
「四千という数値がどれほどのものか理解しているか?」
返事を待たずに続ける。
「王都のAランクでも安定しない。装備、経験、魔力制御、状況判断――すべてが揃って初めて届く領域だ」
一歩近づく。
圧がかかる。
「整った訓練環境もない。高位装備もない。死線も越えていない」
冷たい視線。
「そんな場所で四千?」
鼻で笑う。
「嘘に決まってる」
空気が凍る。
だがジャンは逸らさない。
「嘘じゃありません」
「証拠は」
「ありません」
「なら同じだ」
ロイエンは断言する。
「火力は積み重ねだ。俺は知っている」
静かな自負。
「命を削って、ようやく辿り着く数値だ」
誇張でも虚勢でもない。
本物の実力者の言葉だった。
「簡単に口にするな」
「簡単じゃありません」
ジャンは静かに返す。
「なら再現しろ」
「します」
即答。
ロイエンの目がわずかに細まる。
だがその前に、アーロンが笑った。
「ほらな」
「……」
「嘘つく奴は、そんな目しねぇ」
ロイエンは舌打ちする。
「アーロン。あまりガキに敵わない夢を見せるな」
声が低くなる。
「折れた時、立てなくなる」
「俺は“やれ”と言っただけだ」
「それが夢だと言っている」
「違うな」
アーロンの声も下がる。
「挑戦だ」
空気が張り詰める。
その緊張を、柔らかな声が解いた。
「まあまあ」
鈴の音のような声音。
白衣を纏ったブランドヘアーの巫女が、二人の間に静かに立つ。
ヴィオラ。
「少しくらい、良いではありませんか」
微笑みは穏やかだが、視線はまっすぐ。
「上を見上げることは、罪ではありません」
「甘いな、ヴィオラ」
「ええ、私は祈る者ですから」
くすりと笑う。
「でも、夢を見ることと、無謀は違います」
そしてジャンを見る。
「あなたは、逃げ道として四千を語っていますか?」
「違います」
「では、誇張ですか?」
「違います」
「……なら」
小さく頷く。
「挑戦ですね」
ロイエンは腕を組む。
「理屈はどうでもいい」
ジャンを真っ直ぐ見る。
「俺は自分の実力を理解している」
静かな断言。
「四千は軽く出る数値じゃない」
誇りだ。
「再現できたら、その時は俺が認めてやる」
上からの物言い。
だが逃げない。
「できなければ――二度と軽々しく口にするな」
重い言葉。
ジャンは頷く。
「はい」
アーロンが肩を叩く。
「明日、俺たちはダンジョンに入る。話に聞くところうさぎダンジョンの動きが妙だ」
一拍。
「再現できたら、俺に見せに来い」
「……」
「まぐれじゃないって事、証明するんだろ?」
ロイエンは背を向ける。
「俺は信じない」
だが足は止めずに言う。
「こんな辺鄙な村で四千など、出るわけがない」
ヴィオラの鈴が、ちりんと鳴る。
「その時は、驚いて差し上げましょう」
ロイエンは小さく鼻を鳴らす。
喧騒の中へ戻っていく。
再び「アーロン!」の声が響く。
だがジャンの胸に灯った熱は、それとは別のものだった。
否定された。
だが逃げ場はない。
再現するしかない。
理で。
式で。
証明する。
四千は、終点じゃない。
――始まりだ。
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