第二十話 ジャンの力
昨日は更新できず申し訳ございませんでした。
仕事が忙しくなるため投稿できない日がもしかしたら何日かあるかもしれませんがご了承ください。
しばらくすれば落ち着くかと思いきや、ギルド内には未だにアーロンコールが鳴り止まない。
皆、アーロンを中心に王都《月光の団》の冒険譚を聞き、酒を掲げ、声を張り上げている。
熱気は天井に張り付き、今にも弾けそうだった。
そんな喧騒から距離を置くように、ひとりの女性が本を読んでいた。
黒髪を肩で揃えた無表情の女性
周囲の歓声など存在しないかのように、淡々とページをめくっている。
「こんにちはー!」
マーシャが迷いなく近づく。
「魔法使いのマリカさんですよね!? 王都の月光の団の!」
黒髪の女性はゆっくり視線を上げた。
「……なんすか」
「すごいですね! どんな属性が得意なんですか?」
「弟子は取ってないっすよ」
間髪入れない。
「ち、違います! 弟子志願じゃなくて!」
マーシャは慌てて両手を振る。
ジャンが一歩前に出た。
「魔法の発動条件……“印”ではなく、“模様”による魔法について、何かご存じありませんか?」
マリカの瞳が、わずかに細まる。
「……“印”以外の魔法? 回復とかの話っすか?職業はなんすか」
周囲ではまだ「アーロン!」の掛け声が飛び交い、誰かが武勇伝を誇張し、誰かが酒をこぼして笑っている。
だが、この卓だけは空気が違った。
「……雀士です」
短く答える。
マリカは眉をわずかに動かした。
「……は?」
「雀士です」
「初めて聞いたっすね。“印”について聞くってことは魔法職なんすか?」
「正直、わかりません……」
マリカは本を閉じ、肘をついてジャンを観察する。
「で、その雀士様が“印”について知りたい理由はなんすか?」
ジャンは静かに答えた。
「戦闘中だけ、目の前に十四個のブロックが現れるんです。炎や雷の模様が描かれていて……もしかしたら、“印”の代わりにそれを揃えることで何かが発動するんじゃないかと」
「私も見ました!」
マーシャが身を乗り出す。
「ジャンさんが突然、空から光を降らせて四千ダメージを出したんです! だからきっと、あのブロックには条件があるんだと思います!」
マリカの目が細くなる。
「四千ダメージ……? Aランクでも簡単には出せない数値っすよ」
「再現性は?」
「……わかりません。だから今、検証しているところです」
「そんなこと――」
言いかけて、マリカは口を閉じた。
マーシャの声が、あまりにも真に迫っていた。
作り話にしては具体的すぎる。
“印以外で発動する攻撃魔法”。
その一点だけで、理論屋としては無視できない。
「……仮にそれが本当だとして」
マリカはゆっくりと言葉を選ぶ。
「確かに、魔法のような法則がある可能性は高いっす」
彼女は自らの魔導書を軽く叩いた。
「私たち魔法使いは、この魔導書を媒体にして特定の“印”を結ぶことで魔法を発動させるっす。例えば下級魔法なら、対応する魔導書を持ち、決められた“印”を結ぶ」
一拍。
「ジャンの場合、その魔導書が“ブロック”に置き換えられている可能性が高いっすね」
もしそれが本当なら。
魔導書なしで魔法を発動できることになる。
剣士で例えるなら、剣を持たずして斬撃を飛ばすようなものだ。
荒唐無稽。
常識外れ。
――でも。
だからこそ、面白い。
マリカの口角が、わずかに上がった。
遠くではまだ歓声が上がる。
「デスタイラントの攻撃を正面から受け止めてよぉ!」
「さすが月光!」「さすがアーロンさん!」
力で世界をねじ伏せる者。
そしてこの卓には――理で世界を解き明かそうとする者がいる。
ジャンは空中に指で形を描いた。
「十四個のブロックが並びます。戦闘ごとにランダムで模様が入れ変わる。炎、風、雷、水、葉。剣、盾、矢。それに真っ白と真っ黒の“ハズレ”ブロック」
マリカの指が止まる。
「武器系と属性系……それに白黒」
「武器は一本だけじゃないです。剣が一本のものもあれば、二本、三本描かれているものもあります」
その瞬間。
マリカの瞳が鋭く細まった。
「……それ、重要っすね」
「重要……?」
「“数”は段階や魔法式の基礎構造を示す可能性が高いっすね。魔法式に無駄な記号は存在しない」
マーシャが小さく首を傾げる。
「でも……揃えるって、同じのを集めることですよね?」
「揃えるの定義次第っすよ。極端な話、1から9を一つずつでも“揃える”に入るかもしれないっす」
「じゃあ白は本当にハズレなんじゃ……」
「それが一番危険な思い込みっすね」
空気が張り詰める。
「“ハズレ”って誰が決めたんすか?」
「……」
「白は空白を示す記号かもしれない。黒は反転、あるいはワイルドカード。あるいは――純粋な魔力の象徴」
ジャンの喉が鳴る。
「純粋な……魔力……?」
「魔法は“意味”の重なりっす。属性、媒介、構造、起動条件。全部が噛み合って初めて現象になる」
「四千が出たとき、白と黒は?」
「……たぶん入っていませんでした」
マリカは頷く。
「必須じゃない。でも無意味でもない。光魔法も闇魔法も、この世界には存在するっすからね」
ジャンの胸が高鳴る。
偶然じゃない。
暴発でもない。
理解できる可能性がある。
「次に検証するべきは三つっす」
一本、指を立てる。
「属性のみで揃えた場合」
二本目。
「武器のみで揃えた場合」
三本目。
「属性と武器を混ぜた場合」
「体系があるなら、再現できる」
マリカは断言した。
遠くでアーロンの笑い声が弾ける。
だが、この卓で灯った理論の火種のほうが、よほど世界を揺らす可能性を秘めていた。
ジャンは静かに頷く。
「……やりましょう。再現してみせます」
四千は、偶然ではない。
――“式”の結果だ。
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