第十九話 月光の団
次回が少し長くなりそうなので今回は短めです
ヴァミリア湖から帰還して次の日
ジャンとマーシャは採取したアルカリーフを抱え、グレインの冒険者ギルドへ向かった。
扉を押し開けた瞬間、今日のギルドは妙に乾いている。
声はある。人も多い。
だが、その音はどこか抑えられていた。
「……月光の団はまだかよ」
カウンター近くで、鎧姿の男が低く呟く。
「王都から来るって話だったよな」
「未踏派って活性化しやすいんだろ?」
「うさぎダンジョン、まだ攻略されてねぇんだぞ…そろそろヤバいんじゃないのか……?」
“うさぎ”という可愛らしい名とは裏腹に、デスミラージというAランク相当の魔物と本来ありえないはずのダンジョンの外に魔物が出たという現象が冒険者達を不安にさせている。
「スタンピードなんて起きたら……」
誰かが言いかけて、口を閉じた。
縁起でもない、という視線が飛ぶ。
だが、その言葉を全員が飲み込んだだけで、考えていないわけではない。
未踏派のダンジョンは長く放置されるほど内部魔力が濃縮される。
魔物の発生周期は短くなり、密度が増し、外へ押し出す圧力が高まる。
外で魔物が確認されていない今は、いわば“溜め込んでいる”状態に過ぎない。
ジャンはその空気を静かに観察する。
不安は伝染する。
声が小さいほど、想像は膨らむ。
「なんか……みんな、ちょっと怖がってますね」
マーシャが小声で言う。
「王都から冒険者を呼ぶって言ってたけど全然来ないもんね……」
受付で素材を差し出すと、職員は必要以上に丁寧に確認を行った。
「……はい、確かに。報酬はこちらになります」
その笑顔も、どこか硬い。
ギルド全体が、何かを“待っている”。
そのとき――
扉が勢いよく開いた。
外光が差し込み、逆光の中に人影が立つ。
「暗い顔してんじゃねぇ!」
よく通る声。
ざわめきが止まる。
金髪で大きな鎧を着た青年が大股で歩み入る。
そしてその後ろには熟練のオーラを漂わせる3人の冒険者
「俺たちが来たからにはもう安心だ! 未踏だろうが活性化だろうが関係ねぇ! 全部まとめて狩る!」
一拍の静寂。
そして爆発。
「うおおおおお!」
「月光の団だ!」
「アーロンさんだ!」
「待ってました!」
机が叩かれ、椅子が引かれ、誰かがジョッキを掲げる。
「未踏がなんだー!」
「スタンピード? 起きたら倒せばいいだろー!」
「月光! 月光!」
さっきまで“終わるかも”と呟いていた男が、今度は声を張り上げている。
不安は消えていない。
だが、それ以上の“勢い”が塗り替えた。
アーロンは豪快に笑う。
「今日は宴だ! 俺が奢る! 飲め! 騒げ! 不安なんざ酒で流せ!月光の団が来たからにはもう安心だ!」
歓声。
誰かが即興で歌い出し、周囲が手拍子を始める。
「すごい……一瞬で空気変わりましたね!」
マーシャの目が輝く。
「さすが王都でも有名な冒険者ですね…!」
光は強い。
だからこそ、人は縋る。




