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第十七話 書いていない模様



 街に戻った翌日、二人は並んで通りを歩いていた。


「この町、魔道具店って本当に少ないですね……」


 マーシャが周囲を見回しながら言う。


「うん。薬草とか装備の店は多いけど、魔道はあまり流通してないんだよね」


 僕たちの住むグレインの街は、辺境にあるあまり栄えていない街だ。

 そのため、魔導士の数も少ない。


 魔導士は魔物に対して特効を持つことが多く、属性次第では明確な弱点を突くこともできる。

 遠距離職の中でも特に優遇される職業であり、必然的に稼ぎも良い。


 だからこそ、腕のある魔導士ほど王都などの大都市へ向かってしまう。

 それは仕方のないことだった。


「……確か、ここかな……?」


 ジャンが指差した先にあったのは、古びた小さな店だった。

 色あせた看板には、かろうじて《魔導書》という文字が読める。


「……ここだけ、ですね」


「多分ね」


 店内は静かで、埃の匂いが漂っていた。

 棚に並んでいるのは、年季の入った魔導書ばかりだ。


「初心者用……この辺でしょうか」


 マーシャは棚の端から、薄い一冊を手に取る。

 値段は安い。魔導士なら誰にでも扱える、基本とされるファイアの魔導書だった。


 手頃な価格だったこともあり、それを購入して宿へ戻る。

 二人で机に向かい、ページを開いた。


 描かれているのは、直線や円を組み合わせた“印”。

 順番、向き、線の長さ――それらが意味を持つらしい。


「ジャンさんのブロックに書かれているものと、同じ印はありますか……?」


 ジャンは、戦闘時にだけ視界の端に浮かぶブロックを思い出す。


「……やっぱり、違う」


「やはり、ですか……」


 マーシャも首を振った。


「魔導書に描かれているのは、直線で構成された“印”です。

 でも、ジャンさんのブロックは……」


「模様、だよね」


 剣、盾、炎、雷――

 意味を持つ“絵”のようなもの。


 根本的に、絵が違っていた。


「こうなったら、直接聞いた方がいいかもしれませんね」


 そう言って、二人は再び店を訪れた。


「すみません!」


 店主の老人が顔を上げる。


「模様が描かれた魔導書って、ありますか?」


 一瞬、間が空いた。


「……模様?」


 老人は棚を見渡し、首を横に振る。


「聞いたことがないねぇ。

 魔法ってのは、基本“印”だ。文字だよ」


「そう、ですよね……」


 マーシャは少し残念そうにうなずく。


「剣とか、盾とか……そういう絵が描いてあるものは?」


「ないねぇ。少なくとも、この町では」


 しばらく考えたあと、老人がぽつりと言った。


「……そういえば、もうすぐ《月光の団》が来るって話だよ」


 二人の視線が、同時に上がる。


「月光の団……?」


「Aランク冒険者のパーティだ。

 その中に、女の魔導士がいるはずさね」


 老人は思い出すように言った。


「確か……マリカ、だったかねぇ。

 あの娘なら、変わった魔法にも詳しいかもしれないよ」


「……マリカさん」


 マーシャがその名を、静かに繰り返す。


 それだけ言って、老人は仕事に戻った。


 店を出た後、二人はしばらく無言で歩いた。


「……希望、ですね」


 マーシャが言う。


「うん。でも……」


 ジャンは足を止めた。


「それまで、何もしないわけにもいかないよね」


 マーシャはすぐに顔を上げた。


「はい」


 迷いはなかった。


「それなら、その間は私たちで調べませんか?」


「……二人で?」


「はい。

 誰も分からないなら、私たちで法則を見つけましょう」


 まっすぐな目。


「ジャンさんは、無能なんかじゃありません。

 ただ……誰も、やり方を知らないだけです」


 ジャンは、少しだけ息を呑む。


「……ありがとう」


「礼なんて、いりません」


 「でもそのためには魔物と戦わないといけないからさ…たぶんたくさん迷惑かけると思う」


 「気にしないでください!」


 そう言いながらマーシャは微笑んだ。


「だって、私たちはパーティですから!」


 月光の団が来るまで、まだ時間はある。


 だが、その時間は“待ち時間”ではない。


「大丈夫です、何があってもジャンさんは私が絶対治しますから!」


 二人で考え、二人で探す時間だ。


 ――書いていない力の使い方を。


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