第十六話 戦えない職業
マーシャは目を凝らしたまま、何もない空間を見つめている。
「……本当に、何もありません」
静かな声。
ジャンは小さく息を吐いた。
「そっか。やっぱり、他の人には見えないんだね」
どこか予想していたような言い方だった。
「その……“ブロック”って、どんな感じなんですか?」
マーシャは真剣な目で尋ねる。
先ほどまで心配で揺れていた瞳が、今ははっきりと観察者の色を帯びている。
「えっと……」
ジャンは視界の端を見た。
そこには、半透明の直方体がいくつか浮かんでいる。
「四角い。細長い箱みたいな形。親指と人差し指でちょうどつまめるくらいの大きさかな」
「色は?」
「色というか一つ一つに剣や盾が描いてあったり物によってバラバラかな?」
「模様が書かれているってことですか?」
「そうだね、他には炎とか氷とか…本当にいろいろあるかな…?」
マーシャは首をかしげる。
「魔法陣……とかその類でしょうか…?私の母が魔法使いなのですが、特定の¨印¨を結ぶことで発動する魔法もあると聞いたことがあります……」
「¨印¨……?ごめん、魔法については本当に詳しくなくてそれについて深く考えたことはなかったかも…」
魔法使いという職業はそこまで一般的ではないが確かに存在し、戦士など武器を振ることでダメージを与えるのではなく、魔導書などに描かれている¨印¨を結ぶことで攻撃する職業が存在する
ジャンは試しに、目の前のブロックへ手を伸ばした。
触れると、ひやりとした感触がある。
「触れるんですか?」
「うん。触れる。でも、重さはほとんどない」
「それが出るのは、戦闘中だけですか?」
「うん。魔物を攻撃したりされた時とか……なんか、そういう時だけ」
マーシャは腕を組み、真剣に考え込む。
「ジャンさんは、魔物にダメージを与えられないんですよね」
「うん。ゼロ」
「でも、代わりに“何か”が出る」
「……そういうことになるのかな」
少しの沈黙。
湖の水音だけが聞こえる。
「ジャンさん」
マーシャはゆっくり顔を上げた。
「きっとその力は魔法使いやその類の可能性があります……ジャンさんは攻撃出来ないのでなく、戦い方が違うだけかもしれません…」
「……僕は戦えないんじゃなくて」
言葉が途中で止まる。
マーシャは微笑んだ。
「はい。きっとそうです」
その笑顔は、信頼そのものだった。
きっとマーシャとならもう一度奇跡を起こせるのではないかとジャンは胸を高鳴らせた。
そしてレモンスライムは、興味を失ったのか浅瀬でぷるぷると揺れていた。




