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第一章 無能のジャン

連載を始めていこうと思います!

この作品を長期化するかどうかは皆様の反応次第で深掘りするかしないかを決めようと思っているので、少しでも面白いと思っていただけたら高評価やコメントをいただけると幸いです。


それでは短い付き合いになるか長い付き合いになるかは分かりませんが楽しんでいってくださいね。

 

冒険者ギルドの掲示板は、今日も騒がしかった。


「攻撃力120以上の募集だってよ」

「余裕だな。俺130あるし」

「前衛募集か。戦士向けだな」


 張り出された依頼書の前で、冒険者たちが数値を指差しながら笑い合っている。

 この世界では、強さは数字で示される。

 数字を持たない者は、最初から数に入らない。


 その少し離れた場所で、

 マグノリア・ジャンは立ち止まっていた。


 掲示板を見ている、というほど積極的ではない。

 かといって、完全に無関心でもない。


 ただ、そこに立っているだけだ。


 どうせ、受けられない。

 それは最初から分かっている。


 それでも、足が自然とここへ向いてしまうのは、

 昔の癖のようなものだった。


 冒険者証を取り出す必要すらない。

それがわかってもなお¨もしかしたら¨と希望を捨てずに確認してしまう。これは癖のようなものだ。

 刻まれた数値は、何度確認しても変わらない。


 ――HP:25000

 ――攻撃力:0

 ――防御力:0

 ――魔法力:0

 ――装備適性:なし

 ――職業:雀士


「……はは」


 思わず、乾いた笑いが漏れた。


 HPだけが異様に多い。

 それ以外は、きれいに“何もない”。


 攻撃できない。

 守れない。

 魔法も使えない。


 数字だけを見れば、

 冒険者と呼ぶのもおこがましい存在だ。


 だからこの街では、

 いつの間にかこう呼ばれるようになった。


 ――無能のジャン。


「おい、ジャン」


 背後から、低く通る声がした。


 振り向く前から分かる。

 聞き慣れすぎた声だった。


 戦士、ハワード。


 分厚い胸当てに、大斧を担いだ大柄な男。

 前線で戦い、力で道を切り開く。

 この街では、それが正しい冒険者の姿だった。


 その左右には、二人の男が並んでいる。


 細身で軽装、腰に短剣を下げた盗賊のエド。

 そして、背中に大剣を背負った剣士のシド。


 三人は、パーティ《フルスイング》。

 この街ではそれなりに名の知れた冒険者たちだ。


 ハワードが掲示板を一瞥し、鼻で笑った。


「俺らにとっては、どれも楽そうで報酬の少ねぇ依頼ばっかだな。

 最低でも攻撃力か魔力が10もありゃ、問題なく達成できるやつばかりだ」


 “俺らにとっては”

 その一言で、立場の差がはっきりする。


 エドが、思い出したようにジャンの冒険者証を覗き込んだ。


「……あ、そういえば無能さんは攻撃力0でしたっけ」


 わざとらしく数字をなぞる。


「防御も0。

 魔力も0」


 ゆっくり顔を上げ、口元を歪めた。


「はは……逆にすごくないっすか?

 ここまで全部0って」


 シドが、大剣の柄に手を置いたまま、深く頷く。


「んだ、んだ。」


 ハワードが腕を組み、見下ろすように言った。


「10だぞ?

 たった10ありゃ、誰でもできる仕事だ」


 一歩近づく。


「それすらねぇってことは――

 お前、冒険者としての“最低ライン”にも立ってねぇ」


「えっと……戦わない、かな」


 ジャンは困ったように笑った。


「薬草採取とか、街の手伝いとかさ」


 一瞬、空気が止まった。


 ――そして。


「……は?」


 次の瞬間、エドが吹き出した。


「ぶっ、はははは!

 聞いたか? 薬草だってよ!」


 ハワードも肩を揺らして笑う。


「それ、冒険者の仕事か?

 ボランティアの間違いじゃねぇのか?」


 シドが腹を抱えるように笑い、短く言った。


「んだ、んだ。」


 周囲からも、遠慮のない笑い声が漏れ始める。


「無能のジャンだもんな」

「HPだけ高い欠陥品だろ?」


 視線が、言葉が、突き刺さる。


「えっと……でも、ギルド証がないと

 薬草の依頼、受けられないからさ」


 ジャンがそう言った瞬間、

 また一拍、間が空いた。


 次の瞬間――


「ははははは!」


 今度は、笑いが止まらなかった。


「だから言ってんだろ!」

 ハワードが声を張り上げる。

「それは冒険者の仕事じゃねぇ!」


 エドが指を立てて、得意げに続ける。


「薬草なんて、街の子どもでも取ってきますよ?

 あれっすか?

 “無能でもできる仕事”ってやつ?」


 誰かが笑い、

 誰かが頷く。


 シドが、ゆっくりと締める。


「んだ、んだ。」


「困る人も……いないしな」


 ハワードが吐き捨てる。


「薬草なんざ余ってる。

 緊急でもねぇ。

 報酬が安いのが、その証拠だ」


 誰も反論しない。

 事実だからだ。


 薬草採取は、重要でもなければ、急ぎでもない。

 失敗しても、街は回る。


 だからこそ――

 誰もやらない。


「つまりさ」


 エドが肩をすくめる。


「ジャンさんは

 街の役にも立たないし、

 戦場でも役に立たない」


 口元を歪めたまま、言った。


「いらないってことっすね」


 周囲の空気が、完全にそちらへ傾いた。


 ジャンは、しばらく黙っていたが、

 やがて小さく笑った。


「そっか。

 じゃあ……本当に、暇つぶしだね」


 その言い方が、

 本心なのか、自嘲なのか、

 誰にも分からなかった。


「好きにしろ」


 ハワードは吐き捨てる。


「どうせ、いなくても変わらねぇ」


 パーティ《フルスイング》は、

 それ以上ジャンに興味を示さず、

 笑い声と共に去っていった。


 ジャンは、その背中を見送り、

 掲示板の端に貼られた、

 一番小さく、目立たない依頼書に手を伸ばす。


「薬草採取……

 報酬、少な……」


 重要でもない。

 期待もされていない。

 失敗しても、誰も困らない。


 それでも。


「……ま、いっか」


 ジャンは依頼書を剥がした。


 ――この“誰にも必要とされなかった彼¨が、

 やがて世界の常識を壊すことになるとは、

 まだ誰も知らない。


読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白いと感じたり続きが気になる!と思ったらコメントや高評価を押していただけると励みになります。

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