30: 最強への道
「最強への道」
三十二強を制した、その直後。
デッキは半分、チームメンバーは欠けたまま——それでも勝った。
スンヒョクに、新たな局面が訪れる。
謎めいたCEO・カール・フォン・ハインツからの突然の接触。
提示されたのは、金でも名声でもなく、自由と責任だった。
そしてベスト四という条件。
その壁の前には、因縁の相手・パク・チャンソプが待っている。
青春と野心と、少しの孤独が交差する物語の第二幕。
静かに、でも確実に、歯車が動き始めます。
最強への道
試合開始まで、あと三分。
デッキは半分だった。
ジウンは観客席にいた。
スンヒョクは、ただ席に座った。
「どうせ」
ローランのカードを手に握りながら、呟く。
「これで終わらせる」
「攻撃開始」
シヨンのデッキから四枚が展開された。
ローラン、アストルフ、リア王、イ・スンシン。
伝説と歴史が入り混じった陣形。
華やかではあった。
スンヒョクは無言でスマートウォッチを操作した。
ピピッ。
三枚がフィールドに上がった。
ローラン。リチャード二世。ヘラクレス。
観客席がざわついた。
隅でチャンソプが勢いよく立ち上がった。
「……ヘラクレス?あのカード、どこから出てきた?」
彼の声に、初めて動揺が混じっていた。
すぐに携帯が鳴った。クロイドだった。
「すまないね、チャンソプ君。チョ・キソンといってね……スンヒョクの兄貴分だよ。あいつが渡したみたいだ」
チャンソプは無言で電話を切った。
(チェ・スンヒョクだけを警戒していた。その後ろに、もっと強い手札があったとは。)
フィールドでは、すでに戦闘が始まっていた。
ヘラクレスとローランが両側から圧力をかけた。
シヨンのカードが一枚ずつ崩れていく。
最後に残ったのは、イ・スンシン一枚だった。
シヨンはカードをぎゅっと握りながら呟いた。
「イ・スンシン……お前だけが頼りだ」
スンヒョクは命令を下した。
「ヘラクレス、ローラン。超合体」
巨大な光が二枚のカードを包んだ。
そして、弾けた。
シヨンのHPがゼロになった。
ヨンミンが遅れて黄金の盾を投じたが、合体した破壊力の前では、それすら意味をなさなかった。
試合終了。
観客席からジウンのメッセージが届いた。
「スンヒョク、マジで最高だった。十六強もいけるよ」
スンヒョクは短く笑った。
その時、扉が開いた。
チャンソプだった。
二人の視線が交差した。
チャンソプが先に口を開く。
「……強くなったな」
「用がないなら消えろ」
スンヒョクはローランのカードを見下ろしながら、付け加えた。
「十六強で会おう」
チャンソプは何も言わず背を向けた。
その後ろ姿が消えてから、ようやくスンヒョクは息を吐いた。
バスの中は静かだった。
キソンがオルフェウスのカードをいじりながら聞いた。
「十六強からキャプテン、また俺がやろうか?」
「はい、どうぞ」
ジウンがくすっと笑った。
「キソンオッパ、羨ましかったんだ」
スンヒョクは窓の外を見ながら言った。
「パク・チャンソプさえ倒せばいい」
それ以上は言わなかった。
それ以上、言う必要もなかった。
学校に戻ると、大騒ぎになっていた。
「全国五十位!?どうやったの?」
「コツ教えてよ!」
スンヒョクはぎこちなく笑いながら、その場を離れた。
そして一人になった瞬間、SNSを全て閉じた。
メッセージ受信も非公開に切り替えた。
(有名になることが、必ずしもいいことじゃない。ここで一度ヘマをしたら、家族まで掘られる。)
ジウンが近づいてきて言った。
「スンヒョク、そのID……私が使ってもいい?私、SNS活動好きじゃん」
「いいよ。お前だから渡すんだ」
ジウンは明るく笑った。
スンヒョクはその笑顔を見ながら、校長室へと向かった。
「身辺保護をお願いしたいんですが」
校長はため息をついた。
「最近の世の中は物騒になったもんだ……わかった。こっそり手を打っておこう」
その夜。
モニターの中に、冷静な顔の男が現れた。
カール・フォン・ハインツ。
シュタインズのCEOだった。
彼は言った。
「スンヒョク君。君をシュタインズの傭兵として採用したい」
スンヒョクは静かに聞いた。
「条件は何ですか?」
「金はあまり出ない。名誉職に近い。
その代わり、イギリスとドイツの長期滞在ビザを提供できる。
医療給付、宿舎、教育支援も含めてね」
ハインツは少し間を置いて、続けた。
「自由は無制限だ。全ての決定は君がする。
そして全ての責任も、君のものだ」
スンヒョクは黙って聞いていた。
「ただし、条件が一つある」
ハインツの目が冷たくなった。
「全国大会でベスト四まで上がること。
国家代表の受験資格を得て初めて、この提案は有効になる」
画面が消えた。
部屋が静まり返った。
スンヒョクはローランのカードを取り出し、手のひらの上に置いた。
(ベスト四。)
(そして次の相手は――パク・チャンソプ。)
この話を書きながら、一番時間をかけたのはハインツの台詞でした。
「自由は無制限だ。全ての決定は君がする。そして全ての責任も、君のものだ」
最初は、もっと格好いい勧誘の言葉を書こうとしていたんです。でも書けば書くほど嘘くさくなって。結局、一番シンプルな言い方に落ち着きました。
スンヒョクという人間に響く言葉は、華やかな約束じゃなくて、余白だと思ったので。
シヨン戦については、正直「ここで負けさせようか」と迷った瞬間がありました。でも今回は勝たせることにしました。理由は単純で——まだ負けるタイミングじゃないと思ったから。スンヒョクはもう少し、高いところまで登ってから落ちてほしい。
チャンソプとの廊下のシーンは、台詞を最小限にしました。二人の間には、説明より沈黙のほうが正直だと思って。
ジウンがSNSのIDを引き継ぐくだりは、小さいシーンですが個人的に好きです。スンヒョクが「お前だから渡す」と言える相手が、ちゃんといる。それだけで十分だと思って。
読んでくださった方、ありがとうございます。
十六強、書きます。




