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29: 送都から来た三兄弟

「送都から来た三兄弟」

全国大会の当日。

チームメンバーが次々と脱落していく中、一人残されたスンヒョク。

病院に向かったジウン、デッキを半分バスに忘れてきたキソン——舞台はすでに傾いている。それでも彼は、一枚のカードを手に立ち上がる。

カードゲームの青春群像劇。

勝敗よりも、そこに至るまでの「それでも」を描いた物語です。

試合直前の控室、小学生天才プレイヤーとの出会い、過去の傷がふとした一言でこぼれ落ちる瞬間——。

派手な展開はありません。

でも、読み終わった後に少しだけ、誰かのことを応援したくなる、そんな話です。

送都から来た三兄弟


試合開始まで、あと四分。

控室のモニターに出場名簿が映し出されていた。

スンヒョクはそれを見なかった。

ジウンは病院にいる。

ヒョンはデッキの半分をバスに置いてきた。

「……あーあ」

小さく呟いたが、手のほうが先に反応した。

持っていたカードをテーブルにパンと置く音。

それだけだった。

隣でキソンが様子を窺いながら、おずおずと口を開く。

「ごめん、スンヒョク。さっき携帯探しに行ってたから……」

「いい」

たった二文字。

でも、それがかえって怖かった。

スンヒョクはゆっくりとローランのカードを拾い上げた。カード上の騎士が、こちらを見ているような気がした。

(今度こそ、必ず。)


遡れば、今日はもともとこんな日じゃなかった。

バスを降りた時点では、まだ雰囲気は悪くなかった。

キソンが携帯で相手の分析動画を流し見していて、ジウンはイヤホンをしたまま何かを呟きながら戦略を確認していた。スンヒョクも、それなりに集中していた。

全国大会三十二強。

チーム・ペクウォン高校アリーナがここまで来たのは、偶然じゃない。

そんな矢先だった。

「ペクウォン高校アリーナの、チェ・スンヒョク先輩はどこですか!?」

振り返ると、小学生が一人、全力で駆けてくる。

背は低く、声はでかく、まったく物怖じしない目つきだった。

スンヒョクが足を止めて言う。

「俺がスンヒョクだけど」

「わ、本当ですか!?ニュースで見ました!

九九九位から六八位まで上がったじゃないですか。大逆転劇!

でも……」

子どもは首をかしげた。

「思ったより顔は微妙ですね」

ジウンが笑いをかみ殺す気配がした。

スンヒョクは表情一つ変えず聞く。

「何歳?」

子どもは臆面もなく答えた。

「小六です。私、ソンド・アリーナのキャプテンです。天才なので」

そしてキソンを見て言った。

「あの先輩、犬顔だ。かわいい顔してますね」

ジウンを見て言った。

「あの先輩は顔はきれいだけど……他はイマイチかな」

三人が同時に固まった。

スンヒョクは一度空を見上げて、小さく呟いた。

「……神に誓って。俺、小六の時はああじゃなかった」


子どもの名前はシヨンといった。

そしてしばらくして、息を切らせながら駆けてきた男が言った。

「あ~、シヨン!また給食残しただろ!?今日は残飯なしの日だぞ!」

シヨンがぶっきらぼうに言う。

「キュウリ食べられないし。肉だけあればいい」

スンヒョクがヨンミンにそっと訊く。

「あの子、全国大会の選手なの?」

ヨンミンが頷いた。

「ああ。ゲームセンスは本物だよ。瞬時の判断力、ルール解釈の能力……大人顔負けだ。アスペルガーがあるからコミュニケーションが独特だけどね」

スンヒョクはシヨンをもう一度見た。

さっきまでの見方が、少しずつ変わり始めた。

(あの子、変なんじゃなくて……)


会場の入口でマイクが爆音を響かせた。

「うわあああっ!!!」

シヨンが両手で耳を塞いで、床にしゃがみ込んだ。

「うるさい……いや……うう……」

目に涙が滲んでいた。

短い沈黙の後、ジウンがバッグからティッシュを取り出した。

「これで耳塞いでみて。少しはマシになるから」

シヨンは泣きそうな顔で受け取り、耳にぎゅっと詰め込んだ。

その時、床を横切る小さな影。

虫が一匹いた。

「きゃあ!!!虫!!!」

シヨンは壁の方へ逃げていった。

ジウンがため息をつき、スンヒョクはその様子をじっと見ていた。

(感覚が鋭すぎて、世界がいつもうるさい子。でも、その鋭さでゲームを読む子。)

……不思議な組み合わせだな。


そこへヨンミンが不意に近づいてきた。

「なあ、スンヒョク。拒食症はもう大丈夫なの?中学の時、弁当も食べなくて体育の時間に倒れてたじゃん」

瞬間、周りの音が消えた。

スンヒョクはゆっくりと振り向いた。そして静かに、唇に指を当てた。

目は笑っていなかった。

ヨンミンがようやく状況を察して、言葉を濁した。

一人残ったスンヒョクが、小さく呟く。

「あの頃の俺と、今の俺を比べないでくれ」

手の中のローランのカードが、かすかに光るような気がした。


試合開始十九分前。

キソンが突然、顔面蒼白になって言った。

「俺、携帯バスに置いてきたかも」

「相手の分析データ、全部そこに入ってる?」

「……うん」

「走れ」

キソンは無言で外に駆け出した。

五分後、ジウンが俯いて口を開いた。声色が違った。

「スンヒョク……お腹がずっと痛い。さっきから下痢が二回あって、今は頭もくらくらする。体に力が全然入らない」

額には冷や汗が滲んでいた。唇が青ざめていた。

「ストレス性の腸炎だと思う。前にも一回あったから」

お腹を押さえながら、腰を曲げて耐えていたが、とうとう診察券を取り出した。

「ごめん。病院行ってくる」

スンヒョクは何も言えなかった。

ジウンの背中が遠ざかっていく。


キソンが息を切らして戻ってきた。

「携帯見つかった。運転手さんが預かってくれてたよ、よかった~」

「ジウンは?」

「……病院、行った?」

頷くキソン。

重い沈黙。

そこへスピーカーが鳴り響いた。

――出場チームは待機してください。試合開始まで、あと十分です――

スンヒョクの携帯が振動した。


「薬局で胃腸薬もらって少し楽になったよ。今日の試合は観客席から見てるね :)」


絵文字が一つ。

それがかえって、胸に引っかかった。

画面を閉じようとした瞬間、キソンが口を開いた。

「あのさ、スンヒョク……」

「何」

「カードデッキの半分も……バスに残ってると思う」

――

一拍の沈黙。

そしてスンヒョクは、手に持ったカードをテーブルに置いた。

ゆっくりと。音もなく。

それが、もっと怖かった。

「……ヒョンって、何年生だっけ」

低く、静かな声。

キソンは何も言えなかった。

窓の外には、試合会場の明かりが煌々と灯っていた。

全国大会三十二強。

事実上、チームメンバー二人が抜けた状態。

スンヒョクはローランのカードをもう一度、拾い上げた。

(ローラン……今回は、お前と俺の二人で行くことになりそうだ)

カードの上の騎士は、何も言わなかった。


試合開始まで、あと四分。

舞台は、すでに傾いていた。

それでもスンヒョクは、席から立ち上がった。

正直に言うと、この話を書き始めた時、「全員揃って勝つ話」にするつもりでした。

でも書いているうちに、スンヒョクが勝手に動き始めたんです。

チームメンバーがいなくなっても、文句も言わず、泣きもせず、ただカードを拾い上げる。そういう人間として、気づいたら彼が動いていた。

シヨンというキャラクターも、最初は「ちょっと生意気な子ども」として登場させるつもりだったのに、書くうちに勝手に深くなっていきました。感覚過敏で、虫が怖くて、でもゲームだけは誰よりも鋭く読める——そういう子がいてもいいんじゃないか、と。

スンヒョクの「あの頃の俺と、今の俺を比べないでくれ」という台詞は、実は最後まで削ろうか迷っていました。重すぎるかな、と。でも結局残しました。あの一言があるから、彼が立ち上がる場面が生きると思ったので。

読んでくださった方、ありがとうございます。

続きは、ちゃんと書きます。


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