26: 脱北者(だっぽくしゃ)との対決(たいけつ)
強さとは、誰かのために使うものだ。
全国大会の第二戦。チーム・ペクウォン高アリーナの前に立ちはだかるのは、脱北者の兄弟が組んだチーム「セタミン」。
キソンはあえて一人で戦いを選んだ。勝ちたい。でも、踏みにじりたくない。その選択の意味とは何か。
ライバルのチャンソプは今日も冷たく、でも画面の前でリモコンを握る指が、一瞬だけ止まった。
そしてチームの「空白」だったセリンが、静かに戻ってくる。
青春カードバトル小説、第二十六話。
# 第二十六話 脱北者との対決
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## 第一部 イ・キリョン
パク・チャンソプ···
スヒョクは眉をひそめ、チャンソプが消えた方向をじっと見つめた。
「ジウン、大丈夫?」
「うん···怪我はしてない」
ジウンはよろめきながら立ち上がり、それでも声に震えが混じっていた。
キソンが少年に歩み寄った。
「名前は?」
少年は恥ずかしそうに答えた。
「イ・キリョンです」
少し後、四人が並んで昼食を食べていた。
ジウン、キリョン、キソン、そしてスヒョク。
キリョンの隣には、少し幼く見える少年が座っていた。
「こっちは僕のチームメンバーで」
キリョンが少し緊張した顔で言った。
「十五歳の、イ・ギナム。僕の弟です」
キソンが穏やかに尋ねた。
「チーム名は?」
キリョンは胸を張って答えた。
「セタミン(새터민)です」
スヒョクが目を丸くした。
「セタミン? うちの二次戦の相手じゃないか!」
ジウンは慎重に笑いながら言った。
「この試合も簡単じゃないね···」
その瞳には、心配と期待が入り混じっていた。
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## 第二部 二枚のカード
キリョンはテーブルの上のカード二枚をじっと見つめ、静かに尋ねた。
「あの···本当にもらっていいんですか?」
キソンは静かにカードをキリョンの方へ押しやった。ジャンヌ・ダルクとローランだった。
「受け取れ」
その声は冷静だったが、真心がこもっていた。
「今日こんなことを言って悪いけど、一つだけ言わせてくれ」
キソンは言葉を選んだ。
「どんな事情があっても、大切なカードは簡単に売っちゃいけない。一度売ったカードは、絶対に取り戻せない」
キリョンはキソンの言葉を聞きながら、瞳を揺らしたが、こくりと頷いた。
「それと、今日は助けたけど、後の勝負では手加減しない。男と男、正々堂々と戦わなきゃいけないからな」
キソンの声は断固としていて、眼差しには冷静な覚悟が満ちていた。
キリョンはキソンを見つめ、ゆっくり頷いた。
「はい···わかりました」
その約束の中には、恐れと同時に誓いが込められていた。
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## 第三部 一人で
昼食が終わりに近づいた頃、キソンが静かにスヒョクに近づいた。
「スヒョクさん、悪いんですけど今日はジウンさんと一緒に帰ってもらえますか?」
スヒョクは首をかしげた。
「キソンさんが一人でやるってことですか?」
キソンは落ち着いて説明した。
「三人全員で当たると、実力差がありすぎるんです。スヒョクさんのHPはもう一万二千で、ジウンさんも一万三百近い。でもあの子たち二人合わせても一万に届かない」
彼は少し言葉を止め、キリョンの方を見た。
「カードまで売って、プライドまで捨てて上がってきた全国大会じゃないですか。負けたくない。でも、踏みにじりたくもない」
スヒョクの表情が徐々に固まった。
「一対二で負けないですよね?」
キソンは断固として答えた。
「絶対に負けません。一人でも十分勝てます」
しばし沈黙が流れた。
スヒョクは唇を閉じ、しばらくキソンを見つめてから、ゆっくり頷いた。
「わかった。俺たちは先に帰ろう」
キソンは静かに二人を見て、頭を下げた。
「理解してくれてありがとうございます。気をつけて帰ってください」
その声は淡々としていたが、決意に満ちた響きがあった。
彼はゆっくりと競技場の方へ歩いていった。
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## 第四部 生中継
バスの中、ジウンが窓の外を見つめながら静かに尋ねた。
「一人でも大丈夫だよね?」
スヒョクが短く答えた。
「ああ、何も起きないさ···」
言葉は短かったが、二人の胸の片隅に重たい不安が滲んでいた。
バスが出発してしばらくすると、スヒョクはスマホで生中継の画面を開いた。
キリョンとキソンの試合が始まっていた。
「キソンさん、圧倒的だな。もう一人アウトって···」
スヒョクが無感動に呟いた。
ジウンが隣で、気の毒そうな顔で呟いた。
「かわいそう···キリョン···」
スヒョクは再び画面に集中しながら言った。
「もしかしてキソンさん、俺より強いかもしれない。あの戦い方を見ろよ、絶対に負けない人だ。HPもまだ二十パーセントも減ってないし」
ジウンは心配そうな目で、手をぎゅっと握り締めた。
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## 第五部 決戦
競技場では、リチャード二世が最後の一打に入った。
ドン!
キリョンがアウトになった。
観客席からはペクウォン高アリーナチームの勝利を告げる歓声が上がった。
試合後半、キソンは速いペースで相手を圧倒し、最初のアウトを取った。キリョンは序盤から守備に押されて体力が急激に落ちていった。リチャード二世が最後の一打で決定的な一撃を放ち、勝負を決めた。
チーム・ペクウォン高アリーナ、勝利。
バスの中の二人は無言で画面を見つめた。
ジウンが小さく息を吐いた。
「勝った」
スヒョクは何も言わず、窓の外へ視線を移した。
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## 第六部 試合の後
「いい試合だったな、キリョン」
キソンが優しく言った。
キリョンが笑って答えた。
「お疲れ様でした、キソンさん。おかげで一つ勉強になりました」
二人は自然に抱き合った。
勝利の感動と、互いへの敬意が滲み出ていた。
少しして、キソンが遠慮がちに電話番号を渡した。
「困ったことがあったら、いつでも連絡して」
キリョンが目頭を赤くしながら頷いた。
「キソンさん、本当にありがとうございます」
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## 第七部 チャンソプの部屋
一方、家で試合を見ていたチャンソプは画面を見ながら静かに呟いた。
「チョ・キソン···ずいぶん感動的だな」
彼はリモコンを置き、目を細めた。
「でも、どうせいつか当たる時には、俺が勝つ」
その時、ドアが開いてチャンソプの母が入ってきた。
「あらチャンソプ、今度の模擬試験も全校一位なのね」
チャンソプは肩をすくめて言った。
「適当にやっても一位ですよ。もともとの目標通りに進んでるだけです」
母が穏やかに笑いながら背中をそっと叩いた。
「自分にできる範囲でやりなさいね、チャンソプ」
チャンソプは再び画面に目を向けた。
キソンとキリョンが抱き合う場面がまだ流れていた。
彼は何も言わなかった。
表情も変わらなかった。
しかし、リモコンを握った指が、しばらく止まっていた。
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## 第八部 練習室
数日後、キソンとスヒョク、ジウンは体育館の裏の練習室に集まり、次の試合の戦略を検討していた。
「···セリンも一緒だったらよかったのに」
ジウンがさりげなく言った。静かだが、はっきりとした声だった。
スヒョクが手に持っていたカードファイルを閉じながら呟いた。
「だよな、懐かしい。スケジュール管理から、俺が苦手な対人関係の業務まで、全部セリンがやってくれてたから···」
キソンがスマートパッドを取り出して見せながら言った。
「とりあえずまとめてみたんですが···うまくできてるかどうか」
スヒョクが画面をさっと確認し、頷いた。
「完璧ですよ。コーチより上のレベルです」
ジウンが少し笑った。
「すごく上手くやってますよ、ほんとに」
スヒョクも笑いながら言った。
「ユ・セリンが抜けた時は心配したけど、キソンさんの方がずっと細かいな」
彼はちらっとジウンを見ながら続けた。
「ジウン、全国大会、本当に心配しなくていいと思う。キソンさんが···チームの雰囲気まで上手く合わせてくれてるし」
ジウンが頷こうとして、少し躊躇した。
「うん···そうだね」
セリンがいなくて回るチームは確かにもっとスムーズで、まとまりやすかった。
でも、その「空白」がただなくなっただけではなかった。
彼女の痕跡は依然として彼らの間のどこかに、静かに残っていた。
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## 第九部 戻ってきた人
その時、練習室のドアが静かに開いた。
「セリン?」
ジウンが驚いたように、嬉しそうな声で呼びかけながら立ち上がった。
「久しぶり、元気だった?」
セリンはぎこちなく笑いながら中に入ってきた。
しばし沈黙が流れた。
スヒョクが先に口を開いた。
「あの日···お前、俺を殴って蹴ったよな。あの時すごく痛かった。あざもできたし」
静寂が漂った。
セリンは頭を下げ、静かに言った。
「スヒョク···あの時はごめんなさい」
スヒョクはしばらく彼女を見てから、目をそらした。
「感情のコントロールくらいしてくれよ。俺だって人間なんだから···何も言わずに流したのは、お前がえらいからじゃないから」
ジウンが二人の間を柔らかくつなごうとするように笑った。
「それでも、また会えてほんとに嬉しい。私、実は···セリンが戻ってきてくれるの待ってたんだよ」
スヒョクも渋々頷いた。
「そうだな、ほぼ六ヶ月ぶりだ。この間、何もなかった?」
セリンがぎこちなく微笑みながら言った。
「最近は勉強に集中してるよ。成績はだいぶ上がった」
その言葉を聞いたスヒョクの表情が少し和らいだ。
「まあ、昔なじみだしな。これからもよく来いよ」
セリンは静かに頷いた。
キソンも無表情で頷くと、スマホを取り出して連絡先をさりげなく差し出した。
「何か必要なことがあれば連絡してください。試合の日程やチームの情報を共有することもできますから」
セリンの瞳が少し輝いた。
「もう全部解決した感じだな」
スヒョクが静かに呟いた。
ジウンが明るく笑って言った。
「ほんとだよ。よかった」
こうしてチームは少しずつ、より強くなっていった。
セリンの空白が完全に埋まったわけではなかったけれど、その場所に新しい温もりが染み込んでいた。
そして、そのすべては——今この場所から、また始まったのだった。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
今回一番書きたかったのは、キソンが「勝ちたいけど、踏みにじりたくない」と言う場面でした。強い人間が手を抜くのは、相手を馬鹿にしているからじゃない。むしろ逆だと思っています。それを、キソンというキャラクターを通して伝えられたなら嬉しいです。
チャンソプのリモコンのシーン、気づいてもらえましたか? 彼が今後どう変わっていくのか——それがこの物語のもう一つの軸になっていきます。
セリンが戻ってきた場面も、あっさり描きました。長い説明より、静かな一言の方が重いこともあるので。
次回もどうぞよろしくお願いします。




