得体の知れない獣が飛び出してくる
シャケに味噌汁、白米にたくあん、卵焼き、グラスには麦茶がいれられている。昨夜と同じテーブルに朝食が並べられていた。
朝の7時。早朝に田畑の様子を見に行った祖父が戻ってから食事が始まった。
ソラはその日、前日の早い就寝に引っ張られるように朝早く起床した。時刻は5時半。いつもより一時間近く早い目覚めである。
二度寝する気もおきないほどスッキリした目覚めであった。ほどなくソラがトイレに立つのと時を同じくして、祖父の軽トラのエンジン音が聞こえる。
用を足してから台所へ向かうと祖母が朝食の準備をしていた。祖母に朝の挨拶をし、冷蔵庫から麦茶をだしグラスに注ぎ一杯飲む。味噌の香り、魚の焼ける匂いが鼻腔を刺激し食欲を誘う。
祖母がテレビを見て待つよう薦めたが、この時間帯に気になる番組はないためソラは玄関にむかい、祖父のサンダルを拝借する。
外に出ると日中の熱気はなくひんやりとした空気が肌を冷やす。辺りの散策を始める。道の脇の草には朝露が光っていた。耳には名も知らぬ虫達の囁きが聞こえる。
舗装された道路の方へと足を進める。祖父の田んぼがある方向だ。
しばらく進むと、道路の両側は獣道もない木々の壁となる。濃い緑。その奥から得体の知れない獣が飛び出してくるのではないかと一瞬ソラは考え身震いする。
考えを改め舗装された道を先へと進むと15分ほどで森がなくなり、開けた場所に出る。
民家がぽつりぽつりと視界に入り、その周りにある田んぼの稲穂は緑に色づき今通ってきた森の木々を巨人が刈り取ったかのように広がっていた。
祖父はどこにいるのだろうと思ったが彼を探しに来たわけではないので引き返すことにした。
再び15分歩き祖父母の家の前に立つ。家の中に入るでもなく彼は、自分が通った道の反対側、舗装されていない獣道に目を運ぶ。
少年は獣道の続く森の前へと近づく。道幅はソラが思うより広く、しっかり踏み固められていた。森の中にもまだまだ道は続いている。
この森も深い緑が奥まで続いている。先ほど通って来た道よりも深い緑、その奥は闇に近かった。人も獣も近寄らせない静けさのある闇。
ソラはこの先になにがあるのか興味がわいていた。不思議とこの先に惹かれるのである。
そして、昨夜の水の音を思い出す。水面で魚が跳ねる音。
あの音の正体がこの先にある…。ソラはそう確信のようなものを感じていた。なぜだか気持ちが現実から夢の先に連れて行かれそうになり足が一歩でる。
また一歩、一歩とその闇の方へと近づいていく。
その時、砂利をはねる軽トラの走行音が聞こえソラは現実に引き戻された。




