ベタではなく王道に
海底都市上空には未だ円盤が不気味な機械音を鳴らして佇んでいる。海底都市の光源であるクラゲたちは黄色く光り注意を促している。ロボの行進が止まってから一時間以上が経過したが円盤に目立った動きはない。
天才魔道師"アイオン・ヴァレフォール"は海中を浮遊しながら都市を見下ろす。異界の自分である久遠蒼真が目に映る。久遠蒼真はルーティンを崩さない。ストレッチのあとの十キロのランニングを行っていた。一定のリズムで淡々と走る。
アイオン・ヴァレフォールは感心と怖さの混じった感情で蒼真を見つめていた。そして、建物の影に消えていく蒼真の背を見送り円盤に視線を移す。
円盤は彼らが用意したものではない。おそらくは元"月の住人"の仕業とアイオンは考えている。
昨日、世界樹の封印を解かれたアイオンはこの世界への復讐を実行しようとしていた。久遠蒼真はそれに対して「つまらん」と答えた。
「ベタだな。かつて世界を破壊しようとした魔王の復讐劇、ベタ。ベタベタ。つまらん。却下、ボツ。」
心底飽き飽きするといった表情でそう言い放った蒼真にアイオンは呆気にとられる。構うことなく右手の人差し指で天を指しながら蒼真は続ける。
「どうせ、魔法の世界でロールプレイを楽しむなら魔王でなく"勇者"になるべきだ。ベタではなく王道に。」
蒼真の口角が上がり新しいオモチャをもらった子供のような輝きが目に宿る。不信感を顔に出したアイオンには目もくれない。
「死にゲー、ダークファンタジーが幅をきかせる昨今。求められるのは強敵。理不尽なまでの強さ。
我らが相手をする魔王には"強さ"と"共感を呼ぶ戦う動機"が必要だろう。
動機なら国を追われた月の民がうってつけだ。しかし、なにぶん"強さ"が未知数…。」
そう言って上に目線を向ける蒼真の口角は未だ下がらない。希望をとらえたその瞳からは思考の底が見えない。
「イメージが魔法になる世界。この世の理すらも魔法で干渉できる。ならば、イメージしよう。私のもつ異界の技術力を手に入れた月の民の姿を…。」
アイオンは首を捻る。久遠蒼真の考えが読めない。概念を代え月の民に影響を与える。そうしたところで久遠蒼真の想像の範疇に過ぎない。それは彼の求める強さなのか?アイオンは蒼真にその問を投げかける。蒼真は答える。
「確かに私の求める魔王の強さとは私の想像を越えること。今のままでは私の想像の範疇…。ふむ…ならば私はこの魔法を使おう。」
そう言って蒼真は世界樹の枝から造った杖を掲げる。アイオンは魔法の使い方をすでに説明はしてある。しかし、それは基礎の魔法のみであり"概念を変える魔法"など教えていない。
構わず久遠蒼真は目をつむり想像を膨らます。杖に魔力が込められるのがわかる。
「私は想像する。この世界、そして私がいた異界よりも"科学"が進んだ平行世界を…。
そしてそこに暮らすもう一人の…"三人目の私"をこの世界に転移させる。」




