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生まれもった才であり呪い

 ソラは人間関係が不得意だ。いや傍目にはコミュニケーションが得意に見える。その矛盾は彼の生まれもった父親ゆずりの感受性に由来する。共鳴。ソラは人の感情の波長を読み、他人の感覚に合わせる能力をもつ。


 それは彼が無意識に行っており本人も気づかず使っている能力である。周囲の人のテンションに合わせて態度が変化する。人によっては落ち着いて見え、人によっては明るくも見える。相手の態度に共鳴し感情を合わせる。


 この特異な共鳴型の感覚がソラ自身の負担となる。例えば複数人で会話をする場合はその場の全員の感情を読み取り疲れてしまう。微細な他人の態度に気付き、必要以上に他人の心を深読みしてしまう。そのため、ソラは人付き合いを苦手としている。


 逆に周りの人間は評価は聞き上手で、安心感を与える存在。そのため人を引き寄せる。しかし、本人が相手と心の波長を合わせてるだけでソラ自身が自然体でいられる存在は少ない。


 彼自身は無意識のうちに他人の感情を吸収する。今、ソラは隣で泳ぐオトの悲しみと怒りを吸収していた。しかし、それは不思議と負担ではない。それ以上に彼女を支えたいと思う。


 オトは素直で感情が読みやすい。両親の不在や周りの人間からの差別はあったものの心は真っ直ぐに育っていた。それは長老やイルカのスズキさん、周りの魚たちの支えがあったからだろう。


 そんなオトの自然体でわかりやすい感情はソラにとって自然な波長となって受け入れられた。特に花の咲くような笑顔は自然とソラの心に入り込み癒しを与える。


 ソラにとって共鳴が負担にならない相手は稀だ。特に年齢を重ねるごとに同年代の子や周りの大人の感情の機微を理解できるようになるとさらに負担は悪化していた。


 新しい環境、人間関係、それらが一気に押し寄せた中学一年生の時、一時的に学校に行けなくなった。母、葉月はソラの繊細な心に気付き理解してくれていた。その理解はソラが父親の気質に似ていたことが原因だ。


 人の感情を吸収する。性格というよりも気質、生まれもった才であり呪い。葉月は夫の苦しみも創作という土壌でその能力をぶつける様も見てきた。ソラには夫にとっての創作のような拠り所がない。


 不登校になったソラに葉月は干渉しなかった。今必要なのは"時間"だと思った。自分の能力と向き合う時間、ソラの中の化物を飼い慣らす時間。その為には他者と距離を置いたほうがいいと思った。


 その時期にソラは空いた時間で家事を完璧にこなせるようになった。母のため、誰かのためになりたいという本質は変わらない。その優しさが人に飲まれソラ自身を疲弊させる。


 同じ時期、葉月は一人の作家の担当となる。久遠蒼真。作家直々のご指名だ。参考までに彼の著作を改めて読み直した。


 それをソラが見つけた。まるで運命のように共鳴するように彼はその本を手にとった。生々しくグロテスク、配慮もなければ遠慮もない描写。だが、そこで描かれる人間心理はソラの観ている世界に通じていた。ページをめくる度に心臓が跳ねた。


 この世界には自分と同じ世界で呪いを才として昇華した人間がいる。同じように苦しみながら世界を皮肉り作品にぶつけられる人物がいる。


 その存在はソラにとって救いだった。気づけば少年は部屋を出て世界と向き合う覚悟ができていた。彼の目指したのは作家とは違う道だった。


 彼の目指したのは"救い"。同じように苦しむ誰かの救いになりたい。少年の心にはそれが根付いた。


 偶然か運命か。誰かの救いになりたいと願った少年をこの世界は"救世主"として呼び寄せた。


 そして運命はソラとオトをひき合わせた。お互いが共鳴しあい波長を合わせる。ソラにとって心地の良い相手。誰かに合わせることを負担に感じた少年が波長を合わせることで癒しを感じる少女。


 彼女の不安も怒りもソラの中に流れ込んでくる。それでも負担ではない。そっと手をさしのべ支えたくなる。


 その感覚に呼応するように"冥月王から託された月"がソラの内側で力を増す。ここは想像を魔法に変える世界。感情の強さすらも魔法になる。

 

 ソラはまだ気づいていない。今彼の中に根付いた感情がこの世界の命運を握ることをーー。

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