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非凡な資質

 耳に着けた魔道具が震え、街に残った神官から連絡が届く。鉄の巨人の出現、街の状況、長老の容態…。オトはその連絡を受けながら心が重く息苦しさを感じていた。不安が身体の震えとなって現れる。


 オトとソラ、イルカのスズキさん、そして護衛の神官たちは海底都市に戻ることを決めていた。神官たちは止めたがオトの決意は固く、ソラはその意思を汲んだ。


 一行は海中を海底都市に向けて真っ直ぐに泳いでいく。誰も言葉は交わさない。オトの放つ不安が周りの人々に圧を与え口を閉ざさしていた。


 オトは思う。なにができるかはわからない。だが、このままではいられない。オトにとって長老は母親のような存在だ。強く優しくときに厳しい。孫ほど離れた年齢差だが不老の見た目のせいか祖母というよりもやはり"母"がしっくりくる。


 そんな母が侵略者に倒された。心穏やかではいられない。頭に浮かぶのは楽しかった日常。平穏が壊されるイメージ。不安はわずかな怒りとなって握った拳に力が入る。


 オトの泳ぐ速度が増す。イルカのスズキさんと神官は必死に追う。スズキさんにしがみつくソラは落とされないように必死に背びれを掴む。群れとなってついてきていた魚たちはいつの間にか姿を消していた。


 スズキさんは速度をあげオトと横並びになる。オトはチラリとスズキさんを見てすぐ前を向く。オトの不安に満ちた切ない目がスズキさんを刺す。


 スズキさんはなにか言いたげにしているが言葉を飲む。かける言葉が浮かばない。慰めなど目の前の少女は求めていない、それはわかっていた。


 オト自身、自分の気持ちがわからない。今私が街に戻った所でなにが変わるわけでもない。ソラやみんなを巻き込んでるのもわかってる。危険が増すだけだ。でもじっとはできない。長老の様子を知りたい。安否をこの目で確認したい。


 混乱は自分の弱さを自覚させる。悔しさで目が潤む。親もいない、人と違う能力(魚と会話ができる)をもつ。そんな自分を育て認めてくれた存在。


 その人を助ける術を自分はもたない。でもそばにいたい。そっとそこにいたい。それは母のためか、それとも自分自身の安心のためなのかわからない。不安は複雑な感情となってオトの胸を締め付けていた。


 オトの視界に海底都市がぼんやりと見えてきた。建物の影の中に巨大な人影が見える。水中で揺れるその巨影にオトは本能的に恐怖を感じた。


「あれが…鉄の巨人。」


 そう呟いたオトの横をスズキさんが泳ぐ。その背にのるソラも目線を海底都市に向ける。ソラはオトの不安と怒りを静かに感じ取っていた。


 オトは思う。もしも自分にソラのような魔法が使えたらあの巨人を倒すことができる。ソラなら倒してくれるかもしれない。そう思う自分もいる。甘えてる自分に気づいて唇を噛む。


 ソラの力は不安定だ。制御できなければ都市一つ吹き飛ばすだけの力がある。それ以上に彼自身に負担をかけたくない。


 彼には優しさがある。人を惹き付ける魅力がある。自分も長老も"冥月王さえ"もその非凡な資質を感じている。


 少年らしい無邪気さと冥月王の前に立ちはだかった勇敢さ。"調整役"。彼の存在はまるで世界の秩序を調整する役割のようにオトは思っている。


 "救世主"。そんな言葉がよく似合う。同時にソラに頼りきってしまうことへの危うさも彼女は感じていた。


 

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