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センスはずいぶんレトロ

 海面に光がさし夜が明ける。海底都市にもわずかに光が届く。だが依然としてクラゲたちは赤く輝く。都市上空の円盤は動きを見せない。


 長老はウサギにされた住民達を一ヵ所に集め水魔法で結界を作る。住民を守る盾として、そして逃がさぬ檻として結界は役目を果たす。


 遠くで青白い光りの光線が地上から円盤に向かっていくのを神官が気づく。すぐに長老に呼び掛け青い光に指を指す。

 長老の視線がそれをとらえたとき、光はすでに円盤に届いていたところであった。思わず眉をひそめる。


 次の瞬間、光の当たった円盤の下部が凍り始めた。パキ…パキと音をさせながら氷は円盤全体を覆っていく。



 光の出どころは久遠蒼真。彼のイメージは感情。人の冷たさをそのまま魔法へと変換する。


 天才魔道師はそれを見て口角を上げ歯を見せる。目の前の男の発想は面白い。


 この世界はイメージを魔法に変えられる。氷や炎を扱うならば温度や形などを強く想像することで、範囲や威力を増大できる。だが、久遠蒼真は違う。その物質のイメージではなく人の感情という感性の化物たる自分に適した想像で魔法を強化した。


 冷たい視線、冷たい態度、そんな比喩を魔法へと変換した。天才魔道師は高笑いを始める。素晴らしい。これでこそ異界から転生させた意味があった。

 


 氷漬けになった円盤を見て長老は混乱する。あれほどの魔法を誰が?瞬間的にあの円盤を凍らす魔法。できるとすれば大魔道師…。あるいは…魔王。


 あの円盤に魔力がないことはオトからの連絡で把握している。つまり、魔王の魔法ではないと考えられる。だとすれば今、氷魔法を発動している者こそ…魔王。では、あの円盤は何者だ!?魔王以外の勢力…。


 凍りついた円盤が唸りをあげる。振動で氷に亀裂がはいる。円盤下部の四方に丸い穴が開く。穴から炎があがる。みるみる氷は溶けていく。解凍された円盤は表面に残った水滴を蒸発させて湯気を纏う。


 長老は円盤を見つめながら思う。


(あの炎も魔法ではないのか…。それほどまでに発展した科学力をこの世界で持つ者はーー月の住人?

 いや、あれは絶滅した種族のはず…。冥月王のおとぎ話の存在。だが、もし生き残っていたとすれば…あれが!?)

 

 円盤下部の四方の穴が閉じ代わりに中央が大きく開く。その穴から黄色い光が海底都市に円柱形に降り注ぐ。長老は何が起こるのか予想できず唾を飲み込む。冷静になろうとするほど指が震える。



 久遠蒼真は自分の魔法が不発に終わったにも関わらず笑みを浮かべ椅子に座る。光の柱を見ながら紅茶を飲む。天才魔道師は腕組みしたまま目をつぶり椅子に腰をおろしたままだ。


 それぞれが円盤を見守っている。光の中に影が浮かぶ。穴から何かがでてくる。逆光で全貌がわからない。徐々に姿を見せる"ソレ"は人型のようだ。


 大神殿より大きな円盤から出てきたその人影は巨大。その足が大神殿に乗ると音をたてて神殿にヒビが入る。ゆっくりとした下降に合わせて建物は姿を変える。


 完全にその人影が地上に降り立つと円盤の光が消える。しかし、建物のあげる砂煙で影しか見えない。


 長老はその異様な光景に夢を見ているのではないかと頬をつねる。痛い。…なるほど。混乱で思考が回らない。あんなものが暴れ出せばこの街は…。考えただけで背筋が凍る。


 久遠蒼真は思わず吹き出す。そして言う。


「この世界の人間のセンスはずいぶんレトロだな。」


 砂煙が晴れてそこに立っていたのはロボット。四角を組み合わせたようなフォルム。丸い目。長方形の口。耳はアンテナのようなものがついている。体にはむき出しの計器のようなものが見える。まさにブリキのロボットのおもちゃのようだ。


 ロボの丸い目が黄色く光った。機械音が海底都市を包んだ。


 


 


 


 


 

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