『十分に発達した科学は、魔法と見分けがつかない。』
「え?魔法じゃない!?」
突然人魚のオトが声をあげる。ソラは瞑りかけた目をゆっくり開け意識をオトの方に向ける。オトとイルカのスズキさんの姿が映る。
ソラとオト、スズキさんそして護衛の神官が三人、彼らは海底都市から避難していた。都市から15分ほど泳いだ岩影に身を潜めている。
都市上空に現れた円盤。"魔王"久遠蒼真の創り出したイメージは都市の住人を次々にウサギに変えた。長老の判断で海底都市を離れた一行。
神官三人が交代で見張りをしその間他の者は仮眠をとることにしていた。ソラが眠りにつこうとした時、オトとスズキさんの会話が聞こえた。
ソラは起き上がり「どうしたの?」とオトに訪ねる。オトはソラを起こしてしまったことを詫び説明する。
「スズキさんが言ってるの。あの円盤…えっとユー…フォー?も街の皆をウサギに変えた光線も魔法じゃないって…魔力を感じなかったって…」
ソラは首を傾げる。ソラたちは完全にアレは久遠蒼真の想像力が産み出した魔法だと思っていた。詳しく聞くと魔法によって創り出したものには魔力が帯びるらしい。
そしてイルカのスズキさんは野生の勘で魔力を感じとることができる。しかし、UFOからも光線からも魔力は感じなかったという。
ソラは素直に疑問を口にする。
「アレが…魔法じゃないなら、じゃあ何?魔法以外であんなことって…」
オトも首をかしげる。スズキさんの言葉を待つ。オトは魚と会話ができる。しかし、ソラにはイルカの言葉はわからない。一方イルカのスズキさんにはソラの言葉は理解できるらしい。
スズキさんが鳴く。オトがそれを眉をひそめながら通訳する。
「"科学"。もし魔法以外でそんなことができるとしたらそれは科学の力だって…。」
科学…。オトの不審な顔に対してソラは納得の顔をする。科学の力それは異界から来たソラにとって魔法よりも馴染み深い。この世界に地球よりも発達した文明があればあの光景も納得できる。
『十分に発達した科学は、魔法と見分けがつかない。』
ーー地球の偉人:アーサー・C・クラークの言葉が頭をよぎる。ソラはその言葉の意味を噛み締める。魔力を帯びない魔法のような光景を目の当たりにした。
ソラは不謹慎に思いながらこの世界の科学力に胸が高鳴っていた。口角が上がりそうになるのを理性で抑える。街の人々の安否を心配するオトの前でそんな表情を見せてはいけない。
科学に馴染みのないオトはソラのように納得できない。魔法と科学の理解が真逆である。オトにとって科学は大昔の失われた技術、空想に近い存在である。
海底都市で起きた光景を思い出す。魔力を用いずあんなことが出来ることが信じられない。おもわずため息がでる。
オトの瞳は怯え、ソラの目は輝きを増す。同じ話を聞いて二人の心は正反対に揺れていた。
少しの間がありソラとオトの二人は冷静になる。ほぼ同時に同じ疑問が口をつく。
「アレが魔法じゃないなら、あれは魔王(久遠蒼真)の仕業じゃない。
じゃあ、アレは誰が仕掛けたこと…?」
二人の視線がスズキさんを刺す。スズキさんは答えない。いや答えを持ち合わせていなかった。
沈黙が訪れる。暗い海底の不気味さが二人の不安を煽るように包んでいた。




