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この世界では魔王と呼ぶ

 夜を迎えた海底都市。クラゲたちは眠り、街は黒く染まっている。大神殿の上に灯りが見える。神殿の屋上の四隅に炎が揺れる。四つ角から伸びる光は屋上全体を淡く照らす。


 ソラとオトそして、人魚の長老の影が揺れる。三人はここで冥月王(めいげつおう)の託した能力の実験を行う。


 魔法が禁忌とされる近代でも一部の者は資格を与えられ魔法を扱うことができる。難関試験を合格し規則が用意され破れば厳しい罰則がある。長老は有資格者である。ソラは淡い炎の光に照らされた長老を見つめ言葉を待つ。


「私が扱えるのはこの世界でもっともオーソドックスな水を操る魔法。そして炎魔法を少々と予言魔法。」


 長老の言葉にソラは予言魔法?と疑問が思わず口をつく。それを今度はオトが補足する。


「そうだよ。長老は未来予知ができるんだ。

 だからソラが来ることがわかったんだ。」


「だからあの場所に?」


「うん。待ってなかったら君は今頃鬼の船の上だよ。」


 オトはそう言って歯を見せてイタズラっぽく笑う。ソラはひきつった笑顔を返す。鬼の叩く太鼓の音が甦り心臓を叩く。長老が口を開く。


「予言の魔法と言っても自在に使えるわけではない。"予知夢"というのに近い。断片的な情報が寝ている間に流れてくる。

 ただの夢と違うのは寝てる間に"魔力"が消費されている。」


 魔力…ソラは空想世界では有名なその単語を心の中で唱える。鼻から深く息を吸う。胸いっぱいに魔力を吸い込むように。


 この世界には魔力があって魔法が使える。改めてソラは興奮する。夢と空想の世界。剣と魔法の世界。


「まずは魔法の基礎。魔力を操る感覚を覚えてもらう。では、まずは実演。この世界で最も初歩の水魔法から。」


 そう言って長老は胸の前で両手を広げる。ソラとオトはその手に注目する。


「魔法はイメージ。空想を現実にする。イメージの力が強いほど強力な魔法となる。」


 そう言うと長老は両手の平を近づける。完全にはくっけないが両手で小さな円を作る。


「海中には水があふれているから比較的水魔法は容易。他の魔法と違って0から生み出す必要がないからだ。」


 両手の間で波が起こる。明らかに周りの水の動きとは違う。ソラは息をのむ。やがて波は両手の平をなぞるように規則的な円を作る。長老が両手を広げてもその球体は胸の前に留まる。


 わぁっ。ソラの胸が熱くなる。空想が目の前で現実となる。水の玉は長老のかざす手についてくる。右に左に長老は自在に水の玉を操る。


 右手に水の玉をのせる。

 四隅の炎の一つへゆっくりと、手を伸ばした。上にした手の平を立てて水の玉の横に置く。一旦肘をひき次に水の玉を押し出すように腕を伸ばす。


 水球は飛ぶ。炎へ、真っ直ぐに。火は一瞬で消え水が四方に飛び散る。ソラがおぉっと目を剥く。オトが小さく拍手する。


「玉の大きさは魔力量を調整することでさらに大きくできる。

 強くイメージさえできれば魔力の性質も変えられる。」


 そう言うと長老の眉間にシワがはいる。掲げた右手の平が淡く輝く。光は勢いを増し気づけば炎が現れる。


 長老はその手を口元まであげる。そして、そのまま先程消した炎の方を向き息を吐く。手の平の炎は火球となって神殿の隅まで飛んでいく。四隅の炎と同じように屋上の光源となってその場に留まる。


 ソラの口に笑みが浮かぶ。わくわくが胸を鳴らす。


「すげぇ…」


「これがイメージによる魔力の性質変化。

 炎だろうと雷だろうと作り出すことができる。なんでも。だからこそ魔法は恐ろしい。」


 長老の語尾が低く強くなる。空気が変わったように感じる。ソラは背筋を正す。


「三百年前、世界を危機に貶めた天才魔道師の出現。

 自由なアイデアと魔力コントロールさえあれば魔法は世界すら支配できると知らしめた。」


 長老の顔が曇る。さらに続ける。


「当然だ。使い手によっては世界の概念まで書き換える力。それが魔法。」


 静かに淡々と語るその言葉はソラに緊張を与える。思わず唾をのむ。長老はさらに諭すように言う。


「だからこそ禁忌となり、規則と罰則の縛りを設けた。

 異界の少年よ。今からお主に教えるのは夢と希望を叶えるものではない。世界を滅ぼしかねない力であると自覚せよ。」


 長老の言葉を飲み込み、ソラは「はい」と答える。声が震える。叱られているように感じるほど長老の威圧感は増していた。


「イメージが世界を変える。」


 ソラはふとそう呟く。脳裏になぜか一人の男の影がよぎる。背筋が凍る。おもわずソラは長老に訪ねる。


「もしも、とんでもない感性と空想力をもつ人間がいるとします。

 性格は自分の好奇心を満たすことだけに生きてるような人物。」


 ソラは口調が速くなる。頭の中の嫌な予感を留めていたら現実になりそうな気がした。


「その人が異界からやってきて、自分の思うままに魔法を操れますか?」


 長老は間を置くことなく答える。


「可能だろう。イメージと魔力のコントロールさえ身につければ異界の者でも魔法は扱える。

 だからこそ、お主に教えているのだから。というか…」


 長老はオトの手をとり手の平をなぞる。すると手の平が淡く光り模様が浮かぶ。ソラは目を開きのぞきこむ。


「この世界の者は生まれたときにこの紋様を刻まれ魔力操作を封印される。

 つまり、紋様のない異界者の方が魔法を容易に扱えるというわけだ。」


 ソラは納得しながらも冷や汗を流す。自分の悪い予感が現実になりそうな気配がする。自然、拳を握る。そして問う。


「人並外れた空想力と好奇心をもつものが思うままに魔法を操る。

 ただ興味のままに概念を変えまくると世界はどうなりますか?」


 長老は考える。問いの答えがわからないのか、意図がわからないのか表情からはわからない。一度咳払いをして長老は答える。


「その者がどんな魔法を操れるようになるかはわからない。使いようによっては世界の危機になるかもしれない。

 しかし、これだけは言える。イメージは世界を変える。優れた空想力をもってイタズラに世界の概念を変えようとする者を…」


 長老は一拍置く。ソラは息をのむ。


「この世界では"魔王"と呼ぶ。」


 ソラは深く息を吸う。全身が凍る。ソラの頭の中には一人の男のイメージができあがる。


 魔王として君臨するあの天才作家のイメージが…


 

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