第6話「出過ぎた杭は、カレーでも叩かれる」
【冒頭:朝のローカルTVニュース】
『地域イベントで話題、やすらぎ荘投資クラブ』 テレビ画面には、中西の“時価総額”発言に爆笑する子どもたちの姿が映る。
誠、自宅で目をこすりながらニュースを見て、思わず苦笑い。
(……まさかテレビまで出るとは)
***
【しらぎく信用金庫・支店】
出勤した誠に、支店内の空気が妙に重い。
給湯室の前で、同僚たちがひそひそと話している。
「見た?テレビ」「あれっていいの?」「信金の看板で出てたら問題じゃない?」
「なんか、自分に酔ってない?ああいうの」「“善意の押しつけ”ってやつじゃない?」
誠が近づくと、スッと話が止まり、気まずい沈黙だけが残る。
(……これが“出過ぎた杭”の現実か)
堀内支店長が呼び出す。
「佐藤くん。随分と目立ってるようだな」
誠:「いえ、自分はただ……」
「君が何をしたかではなく、何に“見えるか”が問題なんだよ」
書類をポンと机に置く。
「このまま続けるなら、信金の名は使わないでくれ」
誠:「……それは、つまり?」
「個人でやるなら止めはしない。でも、業務命令としては“介入不可”だ」
誠は深く頭を下げ、黙って支店長室を出る。
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【やすらぎ荘・ロビー】
その日、誠の表情はどこか沈んでいた。
将棋を指していた中西がふと目を上げる。 「サトちゃん、今日は顔色が違うな。カレーの禁断症状か?」
山根:「それとも……女か? あの春香ちゃんとケンカでもしたか?」
トミ:「違うよ。あの目は、言いたいこと飲み込んだ人の目さ」
誠、思わず顔を上げて目をそらす。
小倉:「無理しなくていいですよ。人間、下がる日もありますから」
その優しい言葉に、誠はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
***
【やすらぎ荘・夕方】
春香がコピー機の前で作業していると、誠がやってくる。
誠:「……テレビ、見ました?」
春香:「もちろん。皆さん、いい顔してました」
誠:「支店では、いろいろ言われました。“出過ぎた杭は打たれる”ってやつです」
春香は手を止めて、ゆっくり誠の方を見た。
「それ、誰かに言われたんですか?」
「……まあ、間接的に」
春香:「……じゃあ、私が言っておきます。『その杭、もう地中まで根付いてるんで抜けません』って」
誠、思わず吹き出す。
春香:「怒ってるんですよ、私。佐藤さんが悩んでる顔、好きじゃないです」
誠:「すみません……でも、なんか、元気出ました」
春香:「……実は、支店に文句言いに行こうかと思ったんです」
誠:「えっ?」
春香:「でも、やめました。佐藤さんが“自分で決めたい人”だってわかってるから」
誠:「……ありがとうございます」
***
【ラスト:やすらぎ荘・食堂】
名倉が静かにカレーをかき混ぜている。
「目立つってのはさ、風が吹いてる証拠。飛ばされそうになるのは、“羽根”がついてるってこと」
誠:「飛ぶって、どこへですかね」
名倉:「自分で決めるんだよ。風任せじゃなくてさ」
誠は、深くうなずいた。
──次回へ続く。