表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

第2話「口座開設、じいさん走る」

【冒頭:しらぎく信用金庫・朝/誠の出発前】

 誠が出勤し、支店で出発準備をしていると、堀内支店長がコーヒーをすすりながら近づいてくる。

「今日は例の福祉施設か。相変わらず、暇そうでいいよな佐藤くん」

 誠は無言でカバンを持ち直す。

「ま、どうせ自己満足のボランティアだ。うちの数字にはなんのプラスにもならんけどな」

 誠、軽く頭を下げて背を向ける。

「トラブルだけは起こすなよー、老人相手に何かあればうちは真っ先に謝る羽目になるんだからなー」

 その言葉を背に受けながら、誠は小さくため息をついて施設に向かう。

***

【やすらぎ荘・玄関前】

 誠が施設の門をくぐると、タイミングを見計らったように扉が開く。

「おはようございますっ!」

 春香が両手いっぱいの笑顔で現れる。その眩しさに、誠は一瞬目を細めた。

「お、おはようございます……今日も、陽だまり感すごいですね……」

「えっ?陽だまり?なんですかそれ、褒め言葉ですか?」

「……褒め言葉です。たぶん」

 春香はクスクス笑いながら、ロビーへと誠を案内する。

***

【やすらぎ荘・ロビー】

 テレビからは朝のワイドショー。株価のテロップが流れ、MCが「新NISA、活況です!」と笑顔で言う。

 その横で新聞を読みながら田中トミがポツリ。 「活況ねぇ……ほんとに“カツキョウ”かどうかは財布次第だよ」

 山根がガラケーで何かをポチポチ。 「トミ姐さん、ワシ、証券口座作ってみようと思ってよ」

 中西がすかさずツッコミを入れる。 「そのガラケーじゃ、口座開設は無理だな」

 そこに春香が現れ、誠も一緒に入ってくる。

「今日は、口座開設をやってみましょう!」と春香。

 誠はやや緊張しながらも、「スマホがある人、手を挙げてください」と呼びかける。

(誰も挙げない)

 沈黙。

 名倉がふらっと食堂から顔を出す。 「Wi-Fi、今日だけ強めにしといたよ。人生の回線も、時には繋がるもんだ」

 誠:「ありがとうございます……?」

***

【中盤:スマホ&口座開設騒動】

 ・スマホを持ってるがIDやパスワードがわからない中西。  ・顔認証がまったく機能しない山根。  ・小倉が無言で操作を進め、実は一番早く完了する。  ・田中トミは「まず、その“メールアドレス”ってのがもう気に入らない」とゴネる。

 そんな中、春香と誠が一人ひとりに対応。

 中西:「この“セキュリティコード”って何だね?」  誠:「カード裏面の数字です」  中西:「裏?見たことない」

 春香:「山根さん、お顔をもう少し正面に……はい、はい……あっ、動かないで!」

 名倉、カレーを配膳しながら言う。 「顔がぶれる人生ってのも、味があるんだけどね。  人間も株もな、煮込みすぎると崩れる。だから火は、ちょっと弱めでいいんだよ、最初は。」

 トミがぽつりと口を開く。 「昭和の頃さ、うちの店に“株で儲けた男”ってのが来たのよ。札束見せられたとき、正直ちょっと惚れたねぇ……。ま、最後は全部溶かして逃げたけどね」

「それ、恋じゃなくて詐欺未遂じゃ……」と中西がぼそっと突っ込む。

***

【後半:開設完了→さっそく“銘柄選び”へ】

 数人の口座開設が完了し、誠がノートPCを広げておすすめ銘柄を紹介。

「初心者向けとしては、ETF、つまり上場投資信託なんですが……」

 山根:「なあサトちゃん、それ買ってすぐ儲かるの?」

「いや、投資は時間をかけて──」

「儲かんねぇのか、やめた!」

「ちょ、ちょっと待ってください!儲かります!……たぶん!」

 全員が笑う。

***

【やすらぎ荘・廊下】

 誠が帰り支度をしていると、小倉がそっと声をかける。

「佐藤さん、あのETFって……利回りは、年どのくらいですか?」

「年……3%くらいが現実的です。地味ですが、安定はしています」

「……いいですね。地味で安定。私、そういうの、けっこう好きです」

 小倉の言葉に、誠は少しだけ背筋を伸ばして頭を下げた。

 そのやりとりを遠くから見ていた春香が、ぽつりと声をかける。

「佐藤さん、こういうの、向いてると思いますよ」

「え、なにがですか?」

「人の話、ちゃんと聞くところです」

 誠は照れたように笑い、春香はそれを見て微笑んだ。

***

【誠・帰宅後/自室】

 小さなアパートの一室。誠がシャツを脱ぎながらテレビをつける。

 ニュース番組が、老人の資産運用の増加について特集している。

 画面の中のキャスターが言う。「超高齢社会、いま“お年寄り投資家”が増えているんです」

 誠はリモコンを置き、ふと窓の外を見る。

 カレーの香りはもうしない。けれど、あの笑い声が頭から離れない。

(……あの人たち、本気なんだな)

 口元にわずかな笑みが浮かぶ。

***

【しらぎく信用金庫・支店内/夕方】

 支店内、堀内支店長がデスクで電話中。

「ええ、はい。あの件、うちの行員が動いてます。万一のことがあれば即報告しますので……はい、はい。では」

 電話を切った堀内は、机の上の“福祉施設活動報告”というファイルを睨みながらつぶやく。

「……調子に乗るなよ、佐藤」

***

【小倉・夜の私室】

 小倉の部屋、スタンドライトの下でタブレットを見つめている。  画面にはETFのチャートと経済ニュース。静かにうなずき、そっと画面を閉じる。

「……明日も波が来るかしらね」

──次回へ続く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ