第10話「支店長襲来」
【冒頭:しらぎく信用金庫・支店長室】
堀内支店長が電話口で低く話している。
堀内:「……ええ、私としても看過できません。職務と無関係な活動が、地域で拡大している以上、適切な措置が必要です」
机の上には、『やすらぎファンド 地域講演へ』の記事。 その脇にあるマグカップには、“NOカレー NO LIFE”の文字。部下の土産らしい。
堀内:「……はい、“一度、直接確認”してきます」
電話を切ったあと、堀内はふと記事の切り抜きを見つめ、呟く。
「……あいつ、あんな顔して笑うんだな」
***
【やすらぎ荘・ロビー】
いつも通りの穏やかな空気。誠が資料を確認していると、突然ドアが開く音。
春香:「あれ……?」
堀内:「佐藤くん。久しぶりだな」
誠:「支店長……どうしてこちらに」
堀内:「“指導”に来た。いや、“現状確認”か。まさか、君がここまでやるとは思ってなかった」
ロビーに緊張が走る。
山根、小声で中西に囁く。「あの人……ラスボス感すげぇな」
中西:「ステータス高そうだな。MPは少なめだけど」
トミ:「はいはい、静かにね」
***
【中庭:堀内と誠の対話】
堀内:「正直、見損なったよ。君がこんな“自己満足の祭り”にのめり込むとはな」
誠:「僕は……自己満足ではないと、思っています」
堀内:「金を動かしてるのに、責任も資格もない者が、何を語るつもりだ?」
誠:「資格がないからこそ、学び合ってるんです。少しずつ、一緒に」
堀内:「言い訳には慣れているようだな」
誠、拳を握りしめてこらえる。
堀内はふと、誠の表情を見て、小さくため息をついた。
「……昔の自分を見ているようで、腹が立つのかもしれん」
***
【やすらぎ荘・ロビー】
堀内が出てきた瞬間、待ち構えていたように老人たちが立ち上がる。
トミ:「支店長さん、一言よろしいですか?」
堀内:「……なんですか」
中西:「わしらは、佐藤くんから“投資”だけじゃなく、“尊重”を学びました」
山根:「なにより、“自分で決める”ってことも」
小倉:「彼がいなかったら、たぶん今の私はいません」
名倉が割って入るように一歩前へ。 「支店長、カレーの力……信じたこと、ありますか?」
堀内:「ないな」
名倉:「それが分かれ道です」
春香:「支店長。佐藤さんがいなくなったら、やすらぎ荘は……今よりずっと、静かになってしまいます」
堀内、しばらく沈黙したあと、一言。
堀内:「……静かな方が“福祉”らしいと思っていたが、どうやら間違っていたようだな」
そして、無言で帰っていく。
去り際、名倉が耳打ちする。 「今度カレー食いに来てください。黙って出します」
堀内は肩をすくめ、しかしどこかで口元が緩んでいた。
***
【ラスト:夕暮れの庭】
誠:「……支店長、少しだけ笑ってましたよね」
春香:「はい。たぶん、負けを認めた顔です」
名倉がふらりと現れ、一言。
「カレーはよ、最後に勝つように作ってんのさ。時間かけて、じっくりと」
──次回へ続く。