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奈落の影  作者: ナラク
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第8章: 盗賊のアジト


灰色の空の下、健太とリムは森の中を慎重に進んでいた。

風が木々の間を吹き抜け、葉がさわさわと揺れる音が不気味に響く。

二人は息を殺しながら、足音を立てないように気を配りつつ、二日前に得た情報を頼りに、盗賊のアジトがあるとされる場所を目指していた。

「ここか…」健太は低く呟き、目の前に広がる岩山の裂け目に注意深く目を向けた。リムも頷き、鋭い目で洞窟の入口を見つめた。

岩の隙間から覗く洞窟は、まるで暗黒の口を開けて彼らを待ち受けているかのようだった。何が待ち構えているのかはわからないが、健太はすでに心を決めていた。リムを守り、この地獄から抜け出せないでいる人々を救うために、何としても中へと踏み込まなければならない。

「行こう。」健太の言葉にリムは力強く頷き、二人は慎重に洞窟の奥へと足を踏み入れた。

ここに至るまで、健太とリムは偶然にも盗賊団の生き残りから重要な情報を手に入れていた。その男は、自分の命と引き換えに、盗賊団が何をしているのか、そして彼らのアジトに囚われている人々について話したのだ。

「…アジトには、囚われた女たちがいる。彼女たちは、盗賊たちの欲望のはけ口にされているんだ…」その男は震える声で語った。

「彼女たちはもう逃げられない。飽きたら、奴らはその女たちを…殺すんだ。」

「他には?」健太が冷静に尋ねると、男はさらに続けた。

「若い男たちもいる。彼らはまだ生きているが、奴隷商人に売られる運命にある。奴らが来るのは明日だ…」

その言葉を聞いた健太の心に怒りが湧き上がった。罪のない人々がこんなにも酷い目に遭っていることが許せなかった。

健太はこの情報をリムに伝え、二人はその夜を準備に費やした。そして、今、彼らはそのアジトに近づきつつあった。

「リム、覚悟はできているか?」健太が問いかける。

「もちろんよ、健太。あの人たちを救い出すために、全力を尽くすわ。」リムの目は強い決意に燃えていた。

二人は息を整え、盗賊たちが待ち受ける洞窟の奥へと足を踏み入れた。

彼らの心には、囚われた人々を救うという強い使命感が燃えていた。



盗賊のアジトの内部


洞窟の中に足を踏み入れると、冷たい空気が健太とリムの肌にまとわりついた。

暗闇の中、彼らは慎重に進み、周囲の状況を見逃さないように耳を澄ませた。

洞窟内は湿っぽく、時折、遠くで水滴が石に落ちる音が響く。壁には古びた燭台がいくつか取り付けられており、そこから揺れる炎が、周囲に不気味な影を作り出していた。

「気をつけて、健太…」リムが小声で警告する。彼女の目は鋭く、闇の中に潜む何かを探し出そうとしているかのようだった。

健太は影を操りながら、さらに奥へと進んでいった。

遠くから聞こえてくる声が次第に大きくなり、男たちの粗野な笑い声や、金属がぶつかり合う音が耳に入ってくる。それと同時に、微かな嗚咽のような音も混じっていることに気づいた。

その音が、彼の胸に怒りを募らせた。

しばらく進むと、目の前に木製の扉が現れた。扉の向こうからは、薄暗い光が漏れ出しており、そこから漂ってくる悪臭が鼻をついた。

汗や血、腐敗した何かの匂いが混ざり合った、その匂いは、ここがどれほど恐ろしい場所であるかを物語っていた。

健太は扉に耳を当て、中の様子を探ろうとした。男たちの粗野な会話がはっきりと聞こえてきた。

「もう飽きた。あの女、どうする?」

「始末してしまおう、飽きたらもう用済みだ。」

「男どもはどうする?奴隷商人が明日来るから、そいつらに売り飛ばすか。」

「そうだな。若い奴なら高く売れる。さっさと片付けちまおう。」

その言葉を聞いた瞬間、健太は拳を強く握りしめた。

目の前の扉の向こうに、囚われた人々がいる。

彼らはこの盗賊たちによってひどい目に遭わされているだけでなく、命の危機に瀕しているのだ。女性たちは性奴隷として扱われ、飽きたら殺され、若い男性たちは奴隷として売られてしまう運命にある。

健太はリムに目配せをし、二人は静かに息を整えた。

ここで立ち止まるわけにはいかない。彼らは扉を押し開け、目の前に待ち受ける残酷な現実に立ち向かう覚悟を決めた。

「行こう、リム。彼らを救うために。」健太の声には揺るぎない決意が込められていた。

「ええ、健太。私たちがやるべきことをやりましょう。」リムもまた、剣をしっかりと握りしめ、戦闘態勢に入った。

二人は扉を押し開け、盗賊たちが占拠する広間へと足を踏み入れた。

そこには、彼らの想像を超えるほどの苦しみを受けてきた囚われ人たちが待っていた。



広間の光景


扉を押し開けた瞬間、健太とリムの目の前には広々とした広間が広がっていた。

石造りの壁には錆びた鎖が無造作に掛けられ、天井からは粗雑な照明がぶら下がっている。薄暗い光が広間を照らし、そこに散らばる数々の物品や武器がその場の荒れた雰囲気を際立たせていた。

広間の中央には、長い木製のテーブルがあり、その周りには盗賊たちが無造作に座り込んでいる。

彼らは酒を片手に笑いあい、目の前の犠牲者たちを見下ろしている。その目には、残酷さと無関心が混ざり合った冷たい光が宿っていた。

テーブルの端には、鎖で繋がれた何人かの囚われ人たちがいた。

彼らは疲れ切った様子で、希望を失った目で地面を見つめていた。

特に女性たちは、着物が乱れ、体には無数の痣が刻まれていた。彼女たちの中には、恐怖と絶望から涙を流している者もいた。

健太は彼女たちの姿を見た瞬間、怒りが頂点に達した。盗賊たちがこれほどまでに人を虐げていることに対する憤りが、彼の胸に込み上げてきた。

「見ろ、まだ生きてるぞ。」盗賊の一人が、鎖で繋がれた女性を指しながら笑った。「飽きたらどうするんだ?もう始末するか?」

「そうだな、もう飽きたし、邪魔だ。新しいのが来るまでの暇つぶしにでもしようぜ。」別の盗賊が笑いながら答えた。

「こいつらのことは気にするな、明日には奴隷商人が来て、若い男たちは高く売れる。金になるからな。」別の男が声を上げた。

その瞬間、健太はもう我慢できなかった。彼はリムに目配せし、二人は同時に動き出した。リムは鋭い剣を抜き、素早く盗賊たちに向かって駆け寄った。健太は影を操り、広間にいる全員に対して防御と攻撃の準備を整えた。

「お前たち、ここで何をしている!」健太の声が広間に響き渡る。

盗賊たちは突然の侵入者に驚き、一瞬凍りついた。しかし、すぐに状況を理解し、手に持っていた武器を構えて立ち上がった。

リムはその瞬間、手近な盗賊に向かって剣を振り下ろした。

鋭い刃が空を切り、盗賊の武器と激突する音が広間に響いた。

リムの動きは素早く、次々と攻撃を繰り出し、二人の盗賊を一瞬で倒した。

一方、健太は影を操って攻撃を試みた。

彼の影は瞬時に槍の形に変わり、敵を突き刺そうとしたが、その動きはまだぎこちなく、思うように操れない。

「くそっ…まだうまくいかない。」健太は心の中で焦りを感じながらも、なんとか影を制御しようと集中した。しかし、その間にも敵は彼に迫りつつあった。

影がうまく機能しないことに気づいた盗賊の一人が、笑みを浮かべながら健太に向かって突進してきた。「お前なんて、ただの小僧だ!」彼は大きな斧を振りかざし、健太の頭上に迫る。

健太は咄嗟に影を盾の形に変えて防御したが、その動きは遅く、斧の一撃を完全には防ぎきれなかった。

斧の刃が影を裂いて彼の肩に食い込み、鋭い痛みが走った。

「健太!」リムが叫びながら盗賊に向かって突進し、彼の斧を一閃で弾き飛ばした。盗賊は驚愕の表情を浮かべ、次の瞬間にはリムの剣が彼の喉元を貫いた。

「大丈夫?」リムが健太に駆け寄る。

「なんとか…」健太は肩を押さえながら答えた。「でも、まだ影を完全に制御できない…」

その時、別の盗賊が遠くからリムに向かって弓を引いた。

健太はそれに気づき、影を壁のように広げて矢を防ごうとした。しかし、影の動きはまだ遅く、矢はその隙間をすり抜けて飛び出し、囚われていた女性の一人に直撃した。

女性は短い悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。

女性と床の間から血だまり広がっていく。

健太はその光景を目の当たりにして、心が引き裂かれるような思いだった。

彼女を守ることができなかったという事実が、彼の心に重くのしかかった。

「こんなこと…許せない…」健太は悔しさと怒りで拳を握りしめた。

影がその感情に反応するかのように蠢き、彼の周りで一瞬強く輝いた。

しかし、その影は再び不安定な動きを見せ、完全に制御できていないことを示していた。

リムは戦いながらも健太に視線を送り、「私たちはまだ終わってないわ、健太。

ここで立ち止まるわけにはいかない。彼女の死を無駄にしないためにも、他の人たちを救い出すんだから!」と強い口調で言った。

健太はその言葉にハッとし、再び立ち上がった。影の制御に苦戦しながらも、健太は再び敵に立ち向かう決意を固めた。

まだ影を完全に使いこなせてはいなかったが、それでも諦めるわけにはいかない。彼は再び影を操り、リムと共に残る盗賊たちとの戦いに挑んだ。




戦闘の激化


広間の中、健太とリムは必死に戦い続けていた。

健太はまだ影の能力を完全に操れないまま、なんとか敵の攻撃を防ぎつつも、敵を倒すのに苦労していた。一方、リムは鋭い剣さばきで次々と敵を斬り倒していくが、その数は多く、疲労が少しずつ彼女を蝕んでいた。

広間の片隅で、残った盗賊の一人がリーダーに声をかけた。「ボス、やつら手強いです!どうします?」

リーダー格の男は冷たい目で状況を見つめ、静かに立ち上がった。彼の体からはまるで炎が立ち昇るかのような熱気が放たれていた。

「俺が片付ける。」リーダーはそう言い放ち、手のひらに炎を灯した。

リムはその異様な光景を見て、すぐに身構えた。「あいつがリーダーね…厄介な相手になるわ。」

リーダーはリムを狙い定め、片手を掲げて炎を放った。

その炎は瞬く間に巨大な火球となり、広間全体を照らすようにリムに向かって飛び込んできた。

「くっ…!」リムは素早く剣を振りかざし、火球を切り裂こうと試みたが、その威力は予想以上だ。

火球は彼女の剣を弾き飛ばし、その衝撃でリムは後方に吹き飛ばされた。彼女は何とか体勢を整えようとしたが、リーダーの追撃がすぐに迫ってくる。

「逃げられると思うなよ。」リーダーは冷たい笑みを浮かべ、さらに炎を操り始めた。

彼の手から放たれる炎の鞭がリムに向かって猛然と襲いかかり、彼女の動きを封じるように打ちつけられた。

リムはその場に倒れ込み、必死に立ち上がろうとしたが、炎の熱と痛みが彼女の体を蝕んでいた。「まだ…やられるわけには…」彼女は何とか立ち上がり、再び剣を握り直したが、リーダーはすぐに再び攻撃を繰り出してきた。

「健太…」リムは心の中で健太に助けを求めるが、声に出す余裕もない。リーダーの攻撃は次々と彼女を追い込み、もう限界が近づいていた。

一方、健太は影を操りながら敵と戦っていたが、突然リムの危機を察知した。「リムが危ない…!」彼は焦りながらリムの方向を振り向いたが、その時、リーダーの炎が彼女を包み込むのが見えた。

「リムッ!!」健太は絶望と怒りで叫び、その叫びが広間に響き渡った。その瞬間、彼の中で何かが弾けた。

影が健太の周りで暴力的に蠢き始め、その動きは彼自身の意志を超えたものだった。影は彼の感情に反応し、次第に形を変え、そして突然、爆発的な力となって解放された。

「お前たち…絶対に許さない!!」

影は一瞬で広間全体に広がり、その場にいるすべての盗賊を飲み込んだ。その動きはまるで生き物のようで、影の触手が無数に伸び、盗賊たちを次々に捕らえていった。捕まった者たちは叫び声を上げる間もなく、影に引き裂かれ、文字通り粉々にされた。

リーダーが振り返った瞬間、彼もまた影に捕らえられた。彼は必死に炎を放ち、影を焼き尽くそうとしたが、その努力は無駄だった。影は炎を無視して彼に襲いかかり、そして彼の体を無情にも引き裂いた。

血や肉片が広間に飛び散り、リーダーの叫び声が途絶えた瞬間、彼は影の中で無惨にミンチとなった。

その光景は、あまりにもグロテスクで、健太自身が驚愕するほどだった。影はまるで意志を持っているかのように暴れ回り、広間にいた全ての敵を消し去る。

そして、全てが終わった後、影は再び健太の中に戻り、静かに消えた。

広間には、血の臭いと静寂だけが残された。健太はその場に立ち尽くし、自分が何をしたのか理解しようとしていた。

彼の心には、怒りと恐怖が入り混じり、胸が締め付けられるような感覚が広がっていく。

「リム…大丈夫か…?」健太は震える声でリムに問いかけた。

彼女は体中に火傷を負っていたが、何とか生きていた。彼女の顔には苦痛が浮かんでいたが、彼女は微笑んで健太に答えた。

「ありがとう、健太…あなたのおかげで助かったわ…」

健太は彼女の手を握りしめ、再び強い決意を胸に抱いた。彼らはまだ、救うべき命を守るために戦わなければならないのだ。



リムの治療


広間の戦闘が終わり、静寂が訪れた中、健太はリムに駆け寄り、彼女の火傷の手当てを始めた。

しかし、健太はリムの状態が予想以上にひどいことに気づいた。

彼女の体は炎によって深く傷ついており、このままでは動かすのも危険だと判断した。

健太が途方に暮れていると、囚われていた人々の中から一人の年配の男性が近づいてきた。

彼は落ち着いた声で健太に話しかけた。

「君、彼女の火傷を手当てしようとしているんだね。私が手伝えるかもしれない。」

健太は驚いて顔を上げ、その男性を見つめた。「あなたは…?」

「私は昔、村で薬草を扱っていた。

薬草の知識には少し自信がある。彼女を助けるために、何かできるかもしれない。」

健太は希望の光が差し込んだかのように感じ、すぐに男性の助力をお願いした。「お願いします!彼女の状態がひどくて、このままでは…」

男性は穏やかに頷き、広間に散らばる薬草や瓶を手際よく集め始めた。

「ここには、まだ使える薬草がいくつかある。これを調合すれば、彼女の火傷を癒すための薬が作れるだろう。」

男性は手慣れた様子で薬草をすりつぶし、瓶の中に混ぜ合わせていく。健太はその作業を見守りながら、リムのために少しでも早く治療を進めてほしいと願った。

「この薬は即効性はないが、痛みを和らげ、回復を助けるはずだ。さあ、これを彼女の火傷に塗ってやりなさい。」男性は調合した薬を健太に手渡し、優しく指示した。

健太は男性の言葉に従い、慎重に薬をリムの火傷に塗り始めた。リムは痛みで顔をしかめたが、薬が肌に浸透すると、少しずつ表情が和らいでいった。

「これで少しは楽になるはずだ…ありがとう、健太…そして、あなたも…」リムは男性に感謝の言葉をかけ、疲れた体を休めるように横になった。

男性は微笑みながら、「無理をしないで、ゆっくり休むんだ。回復には時間が必要だよ。」とリムに言い、その後も健太に対して薬の使い方やケアの方法を伝授した。



リムの回復


男性の薬草の知識と手際の良い調合のおかげで、リムの回復は順調に進んだ。

彼女の火傷は徐々に癒え、痛みも和らいでいった。

健太は毎日、男性の指導のもとでリムのケアを続け、彼女が再び動けるようになるまで、慎重に見守り続けることにした

数日が経過し、リムは少しずつ体を動かせるようになり、全回復するにはまだ時間がかかるものの、少なくとも歩ける状態にはなった。

「もう大丈夫よ、健太。あなたと…彼のおかげで、ここまで回復できたわ。」リムは感謝の気持ちを込めて微笑んだ。

「まだ無理しないで、リム。しばらくはゆっくりして、完全に治るまで焦らずに。」健太はリムを心配しながらも、彼女が回復してきたことに安堵した。




囚われていた人々の解放とノキアの登場


リムが動けるようになるまでの一週間、健太とリムは洞窟の中で過ごすこととなった。リムの回復を見守りながら、健太は囚われていた人々の解放を少しずつ進めた。彼らもまた、長い間拘束されていたため、体力が消耗しきっており、すぐに動ける状態ではなかった。

リムが初めて立ち上がれるようになった五日目には、健太は薬草の知識を持つ男性、サイモンの助けを借りて、少しずつ囚人たちを解放し、彼らに食料や水を与えて体力を回復させていった。その過程で、囚われていた人々の中には、怪我を負っている者も多く、健太はその都度、サイモンの知識を借りて手当てを行った。

七日目の朝、リムはついに自力で歩けるようになり、簡単な動作もこなせるほどに回復を遂げた。彼女はまだ完全には癒えていないが、囚われていた人々を助けるため、共に行動することが可能となった。

その日の午後、健太とリムは、最後に残った一人の少女の解放に取り掛かった。

彼女は他の囚人たちと同様に鎖で繋がれていたが、その表情はどこか他の人々とは異なっていた。彼女の肩までの薄い金髪と、大きな緑色の瞳が印象的だったが、その瞳には深い絶望が宿っていた。

健太が彼女に近づき、優しく声をかけた。「君、大丈夫か?ここから出られるよ」

彼女は一瞬だけ健太を見つめるが、その瞳には何の感情も浮かんでいない。

虚ろな目で地面を見つめ続ける彼女の姿に、健太は胸の痛みを感じた。

「私の名前はノキア…」少女は静かに名乗り、その声には生気が感じられなかった。「私は…もう何も残っていない」

健太はその言葉に、彼女がどれほどの苦しみを受けてきたのかを理解する。彼女の心の傷は深く、言葉では癒せないほどのものであることが感じ取れた。

「ノキア、ここから逃げよう。外にはまだ希望がある」健太は彼女を励ますように言うが、彼女の表情は変わらない。彼女の隣にいた他の囚人が静かに語りかける。「彼女の父親は、この盗賊たちに目の前で殺された。彼女は…その光景を見てしまったんだ」

その言葉を聞き、健太はノキアの心に深く根ざした傷の重さを痛感する。

彼は彼女の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。「君の父親のこと、本当に辛かったと思う。でも、君はまだ生きなきゃだめだ。

ここを出て、新しい道を見つけよう」

ノキアはしばらく沈黙していたが、やがて健太の手を握り返し、弱々しい声で「ありがとう…」と呟く。彼女の目には、わずかに希望の光が戻りつつあった。




ノキアの父が殺された際の出来事


彼女は父親と共に商人として旅をしていた。

ある日、彼らが盗賊に捕まった時、彼女は最も恐ろしい体験をすることになる。

盗賊たちは、ノキア犯し、その光景を無理やり父親に見せつけた。

盗賊のリーダーは父親を鎖で縛り、彼が娘を救うために何もできない状況を作り出した。

ノキアは抵抗することもできず、彼女の声は悲鳴に変わっていく。

父親は涙を流しながらも、盗賊たちに罵声を浴びせ続けたが、それは娘をさらに苦しめる結果となる。

「お前の娘がどれだけ役に立つか見てやれ。これが最後の光景になるんだからな」リーダーは嘲笑しながら父親に言い放ち、さらに彼を絶望の淵へと追い込む。

そして、ノキアが完全に力尽きた時、リーダーは父親の目の前に立ち、冷酷に微笑みながら彼の首を切り落とす。

その瞬間、ノキアは何もかもを失ったと感じ、心が壊れてしまった。

彼女はその後も盗賊たちによって虐げられ続けたが、その光景が彼女の心に深く刻まれており、どれだけ時が経っても消えることはなかった。

ノキアはその日を境に、生きる意味を見失い、心の中に深い闇を抱えたまま囚われ続けることになった。



リムの回復


リムの回復には一週間の時間を要した。その間、彼女は痛みと戦いながら、少しずつ体力を取り戻していった。

サイモンの薬草の知識と健太の献身的なケアのおかげで、火傷は徐々に癒え、六日目には歩けるようになった。しかし、完全に体を動かせるようになるまでには、慎重なリハビリが必要だった。

一週間が経過し、リムは歩ける状態に戻り、簡単な動作ならばこなせるようになった。彼女は健太に感謝しつつ、再び共に行動できることを喜んだ。

そして、囚われていた人々と共に、次の目的地へ向かう準備を整えた。

元囚人たちもまた、リムの回復を見守りながら、自らの体力を回復させ、移動の準備を整えていく。健太とリムは彼らを励まし、安全な場所までの移動を指揮することを決意する。



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