第7章:闇の創造者
第7章:闇の創造者
暗い森をようやく抜けたとき、健太とリムは、冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
長い間続いた木々の影から解放された彼らは、日の光を浴びながら、久しぶりに広がる視界を楽しんだ。
風が少し肌寒く、秋の訪れを感じさせる。
健太は肩に積もった疲れを振り払うように深呼吸をし、リムに目を向ける。
「ようやく森を抜けたね」と健太が声をかけると、リムは微笑みを浮かべながら頷く。「ここまで来れたのも、君のおかげだよ、健太。だけど、まだ油断は禁物だから気をつけて進もう」と彼女が言った。
目の前に広がる道は、かろうじて舗装された砂利道で、ところどころに草が生え、放置されたかのように荒れている。
森の中の暗い空気とは対照的に、目の前の風景は開放感を与えるが、同時に不安も伴う。周囲に広がる草原は、どこか冷たく、静寂の中に潜む危険を予感させた。
二人は慎重に足を進め、道の途中で休憩を取りながら、進行方向を確かめる。リムは地図を取り出し、目的地までの距離を確認する。
「町まではあと二日ほど。この道をまっすぐ進めばいいみたい。
でも、この辺りは盗賊が出るって噂もあるから、油断しないで」と彼女が言う。
健太はリムの言葉に頷き、周囲を警戒しながら歩き続ける。
二人の間には、言葉少なではあるが信頼の絆が生まれつつあった。
森を抜けた安堵感と、これから先に待つ未知の危険に対する警戒が入り混じり、気が抜けない緊張感が漂う。
しばらく進むと、道の両脇に荒れた草むらが広がり、視界が狭くなる。
リムが何かに気づき、健太に静かに合図を送る。「誰かが近づいている」と小声で告げるリムの表情が真剣だ。健太は周囲を見渡し、影がわずかに揺れるのを感じる。
次の瞬間、茂みの中から十人ほどの盗賊が現れ、二人に迫ってきた。彼らの目には、明らかな敵意が宿っている。
「逃げられないよ」と盗賊のリーダーらしき男が口角を歪め、手に持つ刃をちらつかせる。その目には冷酷な光が宿り、獲物を追い詰めた捕食者のような雰囲気が漂う。
周囲の盗賊たちもそれに呼応するかのように、残忍な笑みを浮かべながら、二人を囲み始めた。
健太とリムは互いに一瞬視線を交わし、同時に戦闘態勢に入る。その瞬間、健太の足元で影が不気味に蠢き始めるのを感じた。
リムは一瞬の迷いもなく、装飾が施された白銀の剣を鞘から抜き放つ。
光を受けて輝く刃が、彼女の意思に応じるかのように輝きを放つ。彼女の動きはまるで舞踊のようにしなやかで、しかしそこには致命的な速さが宿っていた。
リムはまず、一番近くにいた盗賊に狙いを定め、剣を振り下ろす。鋭い閃光が走り、彼の喉元がざっくりと裂け、血が噴き出した。
彼は声を上げる間もなく、その場に崩れ落ちる。
リムはその動きを止めることなく、次の標的に向かって素早く身を翻す。彼女の剣が閃くたびに、敵の肉体が無残に切り裂かれていく。
白銀の刃が骨を砕き、肉を裂く音が耳に響き、血しぶきが舞い散る。ある盗賊の胴体が真っ二つに裂かれ、内臓が地面に零れ落ちた。
彼女の剣捌きはまさに死神の如く、冷酷なまでに正確で、敵に対する慈悲の欠片も見せない。
その瞬間、健太の足元に潜む影がさらに激しく蠢き始める。リムに向かって刃を振り上げた盗賊に、影が突然伸び上がり、彼女を守るようにその場を覆い尽くす。
健太の意識とは無関係に、影は鋭い槍の形を取り、刹那のうちにその男の胸を貫いた。槍状の影が体内に食い込み、男の背中から突き出ると、彼は目を見開き、口から泡を吹きながら絶命する。
だが、健太の影はそれだけでは終わらない。
槍状から刀身へと変形し、別の盗賊の首を容赦なく刎ねた。その首は宙を舞い、血しぶきが弧を描いて周囲に飛び散る。地に落ちた頭部からは、恐怖に歪んだ表情が残されたままだ。さらに、影は矢のように飛翔し、遠くにいた盗賊の心臓を的確に射抜いた。
その盗賊は、他の者たちとは距離を置いていた。それは彼が盗賊の中でも狙撃の腕を買われていた凄腕の弓兵だったからだ。
戦いが始まる前、彼は他の仲間たちから少し離れた位置に立ち、周囲の状況を冷静に見極めながら、リムと健太の動きを観察していた。
彼の役目は、混乱の中で確実に獲物を仕留めるために、冷静かつ正確な一撃を放つことだった。
盗賊たちがリムと健太を取り囲み、戦いが激しくなり始めた瞬間、彼は弓を構え、遠くからじっとその機会を狙っていた。
彼は相手の動きを注意深く追いながら、リムや健太が無防備になる瞬間を待ち続けていたのだ。森の中での待ち伏せ戦術に長けた彼は、獲物が油断した瞬間に、鋭い矢を放つことにかけては一流だった。
戦闘が激化する中、リムが敵に集中している隙を狙い、男はじっと矢を番え、引き絞った弦をいつでも放つ準備を整えていた。
彼の狙いは正確で、冷徹なまでに確実な殺傷を狙っていた。仲間が次々と倒されていく中、彼は焦ることなく、むしろ冷静さを保ち、今まさにリムの背中を狙おうとしていた。
だが、彼がその矢を放つ寸前、健太の影が異様な速度で動き出した。
彼は影が自分に向かって飛んでくるのを見て、瞬時に逃れようとしたが、すでに遅かった。影は狙いを外すことなく、矢を放とうとするその男の心臓を的確に射抜いた。
衝撃に目を見開き、口から血を吐きながら、その男は信じられないような表情で地面に崩れ落ちた。
その姿は、敵を見誤ったことへの後悔とともに、冷静さを欠いた狙撃手の最期を象徴していた。
遠くから狙っていた彼の策も、健太の異質な力の前には無意味だったのだ。冷酷なまでに的確な一撃が、彼の命を絶った瞬間、戦場は再び静寂に包まれた。
リムもまた、白銀の剣を握り直し、残る盗賊たちを圧倒する。彼女は剣を振るうたびに、敵の肉体を無残に切り裂いていく。
ある盗賊は腕を失い、別の者は顔半分が切り落とされ、凄惨な光景が広がる。
彼女の動きはしなやかでありながら、その一撃一撃が確実に敵の命を奪い、敵に恐怖を植え付けていく。
やがて、生き残った最後の盗賊が、地面に尻もちをつきながら恐怖に震え、命乞いを始める。その顔には完全な絶望が刻まれ、彼の目からは命が尽きかけていることがありありと見て取れる。
「た、助けてくれ...!俺は、俺はただ命令されていただけなんだ!」盗賊は震える声で叫ぶ。
健太は冷徹な目でその男を見下ろしながら、ゆっくりと近づく。「アジトの場所を教えろ。それができたら、命だけは助けてやるかもしれない」
盗賊は一瞬戸惑うが、健太の目に見える冷たさに抗えず、すぐに答える。
「わ、わかった!この道をまっすぐ行って、右手に見える大きな岩の後ろにある洞窟がアジトだ!本当だ、嘘じゃない!」
リムはその様子を冷静に見守り、盗賊の声に注意を払っている。「他には?そこには他の仲間がどれだけいるの?」
「20人くらいだ...でも、みんな強い奴らだ。俺みたいな雑魚じゃない!頼む、俺を殺さないでくれ...!」
健太は盗賊の言葉を聞き終えると、視線をリムに移す。リムは静かに頷き、健太の判断を待つ。
健太は再び盗賊に目を戻し、冷ややかに言い放つ。「感謝する。これでお前の役目は終わりだ」
盗賊はその言葉に一瞬安堵したかのように見えたが、次の瞬間、健太の影が鋭く動き、男の首を刎ねる。彼の目に浮かんだ絶望と恐怖のまま、頭部が地に転がり落ちた。
リムはため息をつき、静かに言う。「無駄な命乞いをさせるつもりはなかったけど...これで良かったのね」
健太は影を収め、静かに頷く。「敵の情報を得るために必要な手段だった。
行こう、次の目的地へ」
二人は冷たい風に吹かれながら、決然と歩みを再開した。残酷な戦場の跡を後にして、次なる戦いの舞台へと向かっていく。