第5章:小川の安息
健太とリムは二日間歩き続け、疲労が限界に達していた。リムの持っていた食料も底をつき、暗い森の中で二人は次第に不安に包まれていた。しかし、彼らの目の前に広がる光景がその不安を一瞬で吹き飛ばした。
「やっと…抜けたんだ…」健太はほっとした声を漏らした。
森を抜けると、彼らの目に澄んだ小川が映った。周囲には緑豊かな草木が生い茂り、月の光が水面に反射して幻想的な輝きを放っていた。小川のせせらぎが二人の疲れを静かに癒していく。
「ここで少し休もう、リム。疲れを癒しておかないと、町までたどり着けないかもしれない」健太が提案すると、リムも小さく頷いた。
二人は川辺に腰を下ろし、まずは飲み水を確保することにした。冷たい水を口に含むと、体中の疲れが少しずつ溶けていくような感覚があった。健太は小川にいたカニや小魚を手際よく捕まえ、町までの食料として確保した。
「少し奪ってしまうけど…これで生き延びるしかないからな」健太は小さな魚を見つめながらつぶやいた。
「うん、必要な分だけ頂いて感謝しよう」リムが静かに答えると、二人はその場で小魚とカニを調理し、ささやかな食事を楽しんだ。
夜が訪れ、二人は川辺で焚火を囲みながら休息をとることにした。夜空には無数の星が輝き、森の静寂の中に光の粒が瞬いていた。
「こんなに星がきれいに見えるなんて…不思議な感じがするよね」健太がぽつりと呟いた。
「ええ…こんなに静かで美しい場所、久しぶりだわ」リムは星空を見上げながら、微かに微笑んだ。その微笑みが、星の光に照らされて一層輝きを増して見えた。
しばらくの間、二人は静かに星空を見つめていたが、健太はふと体を洗うことを思い立った。「少し体を洗ってくる」とリムに伝え、川へ向かった。
健太が川辺に近づくと、月の光が水面に反射し、周囲を神秘的に照らしていた。その時、健太は偶然、向こう岸で何かが動くのを見つけた。目を凝らしてみると、そこにはリムがいた。彼女は焚火から少し離れた場所で、静かに体を洗っていた。
健太は一瞬にして立ち止まり、リムが全く服を着ていないことに気づいた。彼女は健太が見ていることに気づかず、満点の星空の下で、まるで一人静かに過ごしているかのように川の水に触れていた。
その時、小川の周囲に無数の夜光虫が舞い始めた。彼らは月の光と共鳴するかのように、淡い青白い光を放ちながら川辺を飛び交い、リムの周りを優雅に舞い続けた。その光景は、まるで神秘的な絵画のようだった。
リムの肌は夜光虫の光を受けて、さらに透明感を増し、彼女の銀色の髪は星明かりと夜光虫の光に照らされて輝きを放っていた。健太はその光景に目を奪われ、リムの美しさに息を呑んだ。
「…これは…まるで夢みたいだ…」健太は心の中でつぶやいたが、すぐに視線を外し、静かにその場を離れた。
彼はリムに対して決して不誠実な行為をするつもりはなかったが、その一瞬の美しさに心を奪われた自分を責める気持ちがあった。
リムが川から戻ると、健太は何事もなかったかのように焚火の前に座っていた。リムも何も気づかず、焚火のそばで体を温めていた。
「お互いにゆっくり休もう。明日はまた、長い道のりが待っているから」健太は努めて平静を装いながら言った。
「そうね。おやすみ、健太」リムは疲れた表情を見せながらも、健太に軽く微笑んだ。
二人はそのまま夜空の下で眠りに就いた。健太はリムの無防備な美しさと、その幻想的な光景を頭の中に浮かべながら、静かに目を閉じた。