表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の影  作者: ナラク
12/12

第11章 - 3桜音と風帝の対峙


ヴァンタリアの町が焼き尽くされ、瓦礫の山と化したその中で、静寂が訪れた。

炎の中で立ち尽くす風帝ゼフィルスは、その冷ややかな青い目で周囲を見渡し、焦土と化した町の無惨な姿を目の当たりにしていた。

「これが…誰の仕業だ?」ゼフィルスが呟き、手にした風の剣を軽く振ると、炎の熱を吹き飛ばし、周囲の空気を冷やした。

その時、静かに歩み寄る足音が響き、風帝はその方向に目を向けた。

現れたのは、一人の小柄な女性だった。

彼女の白い肌には、真紅の瞳が妖しく輝いている。

鮮やかな赤い髪飾りが、彼女の冷徹な表情に一層の不気味さを与えていた。

「お前が…これをやったのか?」ゼフィルスが低く問いかけた。

女性は何も答えず、ただ冷たくゼフィルスを見つめていた。彼女の目には、計り知れない力と冷酷さが宿っていることが明らかだった。

「お前は何者だ?私の領土を滅ぼすなど、ただでは済まないぞ。」ゼフィルスは警戒心を募らせながら、その剣を構えた。

「私の名を知る必要はない。」女性が静かに口を開いた。「あの方の命令で、ここに来た。それだけのことだ。」

「あの方…?」ゼフィルスの表情が一瞬険しくなった。「あの方というのは、噂でしか聞いたことがない存在だ。その部下がお前というわけか?」

女性は無言で頷いた。彼女の冷静さと自信に満ちた態度は、ゼフィルスに一瞬の不安を与えた。

「お前の力…この町を焼き尽くした炎、まさかあの炎は…」ゼフィルスが思わず口を開いた。

女性は静かに答えた。「あの方の命令を遂行するための力。」

ゼフィルスはその言葉を聞いて、背筋が凍る思いを感じた。

彼は自らの風の力に絶対の自信を持っていたが、目の前のこの女性が持つ力は、それを遥かに凌駕しているかもしれないという予感が頭をよぎった。

「風帝ゼフィルス、お前をここで終わらせる。それが、あの方の命令。」女性は淡々と告げ、わずかに口元を歪めて微笑んだ。

「私を倒す…だと?」ゼフィルスはその言葉に驚きと怒りを感じ、剣を構え直した。「お前のその傲慢さ、後悔することになるぞ。」

「傲慢などではない。現実だ。」女性は冷たく言い放ち、周囲の空気が一気に熱を帯び始めた。

二人の間に緊張感が漂い、風が舞い上がり、炎が再び揺らめく。その瞬間、ゼフィルスはこの戦いが今まで経験したことのないものになることを直感し、全神経を集中させた。

「行くぞ…!」ゼフィルスは一言だけ呟き、風の剣を振り上げた。

女性は一歩も引かず、その瞳をゼフィルスに据えたまま、静かに構えを取った。

彼女の背後には、燃え盛る炎が揺らめき、その中で彼女は不気味に微笑んでいた。

「炎蛇乱舞」女性が静かに呟き、その名を口にした瞬間、周囲の温度がさらに上昇し、空気が震え始めた。

ゼフィルスはその威圧感に息を飲みつつも、全力で迎え撃つ覚悟を決めた。






ヴァンタリアの町は、かつての繁栄の影をも失い、桜音の炎天豪によって壊滅状態に陥っていた。住民たちは跡形もなく消え去り、町はただ瓦礫と化した。冷たい夜風が、荒れ果てた広場を吹き抜け、その風に乗って瓦礫の破片がカラカラと音を立てる中、風帝ゼフィルスと桜音が最後の戦いに臨んでいた。

ゼフィルスは、破壊された町の姿を目の当たりにし、胸中に深い怒りを抱いていた。彼は、かつて自分が守ってきた町が無惨に破壊されたことに耐え難い思いを感じつつ、風の剣を握りしめた。一方、桜音は冷徹な笑みを浮かべ、その眼差しには計り知れない自信が宿っていた。

「風よ、我が力となれ…」ゼフィルスは静かに呟き、風の剣を高々と掲げた。その瞬間、彼の周囲に猛烈な風が巻き起こり、広場全体を覆い尽くす意思を持ったかのような暴風が生まれた。

風が砂埃を巻き上げ、瓦礫の破片を空中に舞い上げながら、轟音を響かせて広場を駆け巡る。暴風の中で、風の刃が鋭く輝き、その勢いは桜音に向かって迫った。

桜音はその場に立ち尽くし、冷静にゼフィルスを見つめていた。彼女の手がゆっくりと上がり、静かに炎を呼び寄せた。すると、彼女の前に巨大な炎の壁が立ち上がり、ゼフィルスの風の刃を次々と焼き尽くしていった。炎と風がぶつかり合うたびに、広場全体が揺れ、瓦礫がさらに崩れ落ちる音が響き渡る。

ゼフィルスは力強く剣を振り上げ、桜音の首を狙って横なぎに斬りつけた。

その剣圧は空気を裂き、凄まじい勢いで迫ってくる。

しかし、桜音は冷静に反応し、上半身を後ろに大きく反らせて避け、しなやかに後方へと倒れ、ゼフィルスの剣先が彼女の顔の数センチ上を通過する。桜音はそのまま流れるように後ろに宙返りし、音もなく地面に着地した。砂煙が舞うが、彼女の瞳は依然として冷静なままだった。

ゼフィルスは一瞬も隙を見せず、次の攻撃に移る。彼は風の剣を地面に叩きつけ、目の前の地面を砕いた。その衝撃で瓦礫が飛び散り、桜音の足元に激しい風圧が襲いかかる。

桜音はその場から瞬時に飛び上がり、瓦礫と風を避けると同時に、高く跳んだ彼女は空中で炎の剣を振りかざし、ゼフィルスの頭上に一撃を浴びせようとした。

ゼフィルスもまた動きは速く、すかさず風の剣を上に構え、桜音の剣を受け止めた。二人の剣が再び激しくぶつかり合い、火花が飛び散る。

その瞬間、ゼフィルスは剣を押し返すように力を込め、桜音を空中で一気に押し退けた。桜音は地面に落下するも、素早く体勢を立て直し、彼女の剣が再びゼフィルスを狙って輝きを放った。

次の瞬間、ゼフィルスは風の剣を巧みに操り、桜音の防御を崩すために連続攻撃を仕掛けた。剣先が素早く何度も閃き、そのうちの一撃が桜音の肩にかすめ、僅かながら彼女の血が空中に舞い散った。

しかし、桜音はその痛みに全く動揺せず、逆にその瞬間を利用して一気に距離を詰めた。ゼフィルスの攻撃を受け流しながら、彼女は一閃の速度で剣を振り下ろし、ゼフィルスの脇腹をかすめ、血を滲ませる。

二人の剣が激しくぶつかり合い、金属音が広場に響き渡る。

風と炎が交錯する中、二人の攻防は激しさを増していく。

戦いが続く中、ゼフィルスの剣が一瞬の隙をついて桜音の横腹を浅く切り裂いた。彼の剣先が風を纏い、鋭く桜音の衣服を切り裂き、血が一筋流れ落ちる。桜音は顔をしかめるが、その表情には微かな動揺すら見られなかった。逆に、彼女の剣がゼフィルスの右腕に傷をつける。

「互角か…」ゼフィルスは息を荒げながら呟いた。剣での勝負では決着がつかないことを悟った二人は、次の手段に出ることを決意した。

ゼフィルスが後方へ大きく跳躍し、風の剣を再び構え直す。「嵐刃旋撃」その声と共に、ゼフィルスは遠距離から巨大な風の刃を放った。

その風の刃は、鋭く裂ける音を立てながら桜音に向かって突進していったが、桜音はすんでのところでそれをかわした。風の刃はそのまま広場の背後にある建物に直撃し、建物は轟音と共に真っ二つに分断された。その威力に、一瞬驚きの表情を浮かべた桜音だが、次の瞬間にはすぐに炎の力を集中させ、反撃の準備に入った。

「これで終わりにしましょう…」桜音は低く呟き、両手を前に突き出した。彼女の手から放たれた炎は瞬く間に巨大な竜巻を生み出し、ゼフィルスに向かって突進していく。その竜巻は、炎の咆哮と共に広場全体を巻き込み、轟音を立てながら進んでいった。ゼフィルスは即座に反応し、自らの風の力を全力で解き放ち、対抗する竜巻を作り出した。

炎と風 二つの竜巻が激しく衝突し、広場全体がその衝撃で揺れ動いた。

竜巻同士がぶつかり合うと、空気が激しく振動し、耳をつんざくような轟音が辺り一帯に響き渡る。

風と炎が渦を巻き、互いの力がせめぎ合う中で、瓦礫や残骸が空中に舞い上がり、まるで竜巻そのものが生きているかのように周囲を飲み込んでいった。竜巻が発する凄まじい風圧と熱が、地面をえぐり取り、広場の形を変えてしまうほどだった。

桜音は冷たく笑みを浮かべる。

互いに距離をとり、次の攻撃が最後になると、感じていた。

それは刹那であったのか・・・  永遠であったのか・・・

距離を置いた二人の間に静寂の時が流れた。

それは同時に始まった。



「天の高みより降り注ぐ風よ、我が魂と共にありて、その無限の力を解き放たん!太古より吹き続ける嵐の息吹、全てを飲み込み、全てを粉砕する旋風となりて、我が剣に宿りたまえ!無数の刃と化せし風の流れよ、荒れ狂う力を我が手に与え、敵を一刀両断する刃となりて、彼の者らを滅ぼせ!嵐の神々よ、その怒りを我に与え、この地を浄化する力と成り我が敵を滅する刃となれ 乱剣爆淨!!」 



「炎よ、古の神々の力を秘めし力よ、その怒りを我が手に集え!幾千もの太陽の熱と光、我が意志を受け入れ、全てを焼き尽くす猛火となれ!光り輝く烈火よ、大地を焦がし、天を焼き払い、全てを灰と成せ!闇を照らす火柱となり、悪しき者らをことごとく滅ぼし去る力とならん!その無限の力を我に与え、天を焦がし、大地を溶かす焔の化身となりて、敵を焼き尽くせ 炎天豪!!」



二人の詠唱が続くにつれ、温度が急激に上昇し、暴風が吹き荒れ、まるで地獄の門が開いたの様なありさまである。

桜音の剣は燃え盛り、まるで太陽が彼女の手の中で輝いているかのように熱と光を放ち、彼女の周りに巨大な火柱が立ち上る。

その二つの力がぶつかり合う前兆を感じ取った烈火と氷華は、その異様な気配に震え上がった。

風と炎の力が膨れ上がり、両者が激突すれば全てを巻き込むであろうことは明らかだった。烈火は声を震わせながら叫んだ。

「マズイ、ここにいたら巻き込まれる!」

氷華もその言葉に同意し、焦りの色を浮かべた。

「急いで離れるぞ!」

二人は一瞬の躊躇もなく、全力でその場から離れた。周囲の兵士たちも、彼らの叫びを聞いて次々と後退し始めた。広場には、ゼフィルスと桜音の二人だけが残り、互いの最大の技をぶつけ合う最後の瞬間が近づいていた。

ゼフィルスの「乱剣爆淨」と桜音の「炎天豪」がついに解き放たれた瞬間、二つの絶大な力が激突した。

広場全体が一瞬、静寂に包まれたかのように見えたが、次の瞬間には爆発的な衝撃波が大地を震わせ、空を裂いた。

ゼフィルスの風の刃が、無数の細かい旋風となって桜音の炎に挑んだ。

その旋風は鋭く、あらゆるものを切り裂きながら前進したが、桜音の炎天豪が放つ灼熱の光と熱に触れると、一瞬にして燃え上がり、消滅していった。

しかし、ゼフィルスの風はその圧倒的な力で炎を押し返し、炎と風が激しくせめぎ合う。

二つの力が交錯する場所では、地面が轟音と共に裂け、巨大なクレーターが形成された。大地は砕け散り、風と炎がその裂け目から巻き上がり、まるで巨大な柱が天に向かってそびえ立っている。

その柱は空高くまで届き、周囲の雲をも巻き込み、天をも焦がすかのごとき熱と光を放ち続ける。

周囲の大地は高温によって赤く染まり、草木は瞬く間に灰と化し、岩もまた溶けて流れ始めた。

風がその熱をさらに拡散させ、広範囲にわたる灼熱地獄を作り出した。辺り一帯は灼熱の嵐に包まれ、視界はまるで溶けた空気のように歪み、周囲の兵士たちもその恐ろしい光景を遠くから見守ることしかできなかった。

やがて、炎と風の激しい衝突は徐々に収束していき、視界が少しずつクリアになってきた。広場には、荒れ狂った戦いの残骸だけが残り、凄まじい熱がまだ立ち込めていた。その中に浮かび上がった二つの影が、互いに向かい合って立っている。

どちらの影も微動だにせず、静寂が再び広場を包み込んだ。

そして、しばらくの沈黙の後、ようやく一方の影が動き出した。

華奢な影はゆっくりともう一つの影へと歩み寄る。

彼女が近づいた先には、真っ黒に炭化したゼフィルスの亡骸が佇んでいた。

その姿はかつての風の帝としての威厳を失い、立ち尽くしているだけだった。

桜音はしばらくの間、その亡骸を無言で見つめていたが、何の感情も表に出すことはなく、彼女は静かに踵を返し、背を向けて歩み去っていった。

彼女の歩みは確かで、決して揺るがぬ意志を感じさせるものだった。

桜音の後ろ姿が次第に遠ざかり、焼け焦げた亡骸だけがその場に取り残された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ