第11章-1: 炎将 桜音
夜の帳が下りた風帝が治めるヴァンタリアの町。その静寂を切り裂くように、遠くから低い唸り声が響いていた。町の外壁に配置された哨兵たちがその異変に気づいたが、すでに手遅れだった。
「何だ、あれは…?」一人の哨兵が震える声で言った。
遠くに見えるのは、無数の松明の灯り。それが町に向かって押し寄せてくるのがわかった。そして、松明の明かりの間に見えるのは、鎧をまとった無数の兵士たちだった。
「敵襲だ!敵襲だ!」別の哨兵が叫び、鐘を鳴らし始めた。
だが、その鐘の音が響き渡る前に、桜音の軍勢は町の門に達していた。彼らの先頭には、赤い髪飾りをつけた小柄な和服の女性――桜音が立っていた。
「燃やし尽くせ。」桜音は冷ややかに命じた。
その声が響いた瞬間、彼女の目が赤く輝き、桜音の手が軽く空をなぞった。その一動作で、彼女の前に巨大な火の塊が現れた。桜音が静かに詠唱を始めると、その炎は一瞬で巨大な渦を巻き始め、夜空をも焦がすような熱気を放った。
「炎天豪…!」氷華が呟いた。
桜音の詠唱が終わると同時に、炎天豪が解き放たれた。炎の渦は一瞬で門を吹き飛ばし、そのまま町全体を包み込んだ。凄まじい熱風が町の中を駆け抜け、建物が次々と燃え上がった。炎天豪の力は町全体を焼き尽くし、触れたものすべてを蒸発させるほどの威力を持っていた。
門を守る兵士たちは、悲鳴を上げる暇もなく、瞬時に灰と化した。町の奥深くに至るまで、桜音の炎が広がり、逃げ惑う住民たちもその業火から逃れることはできなかった。
町の通りには、桜音の炎天豪に焼かれた住民たちが倒れていた。その姿は見るに堪えないほど無惨だった。全身が焼けただれ、皮膚がただれて黒く炭化していた。ある男は片足が完全に炭と化し、力なく地面に転がっていた。彼の口からは、「うぶぅぅ~~ぅ」という言葉にならない苦しみの呻き声が漏れ、目は恐怖と痛みに見開かれていた。
別の場所では、母親が我が子を抱きかかえたまま倒れていた。彼女の背中は炎で焼き尽くされ、骨が見えるほどに炭化していた。彼女は息絶えたが、その子供はまだ生きていた。だが、彼の小さな体もまた全身に火傷を負い、「あ…ああ…」というか細い声で母親を呼び続けていた。
さらに先には、若い女性が必死に逃げようとしていたが、炎天豪の熱風に巻き込まれ、髪が燃え上がり、顔の皮膚が溶け落ちていた。彼女は苦痛に耐えきれず、地面に崩れ落ちた。口から血の泡を吹きながら、「助けて…」と声にならない声で叫び続けていたが、その声も次第に弱まり、やがて静寂が訪れた。
町全体が地獄絵図と化し、桜音の炎が人々の命を無情に奪っていった。生き残る者などいないかのように、ただ焼け焦げた死体が散乱し、絶望の中で消えゆく命の残酷さだけが残された。




