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奈落の影  作者: ナラク
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プロローグ:絶望の夜

ダークファンタジー作品になります。【閲覧注意】となる場面を作者は好みます。

健太は、25歳の平凡なサラリーマンだった。


仕事は大変だが、来月には愛する婚約者と結婚を控えており、未来への希望に満ちていた。

今日も一日を終え、彼女との軽いデートを楽しんだ後、二人は駅前で別れを告げようとしていた。


「今日は楽しかったね。結婚式の準備も順調だし、もうすぐだね。」彼女は微笑みながら、健太の手を握りしめ

「そうだな。これからはもっと忙しくなるけど、俺たちならきっと大丈夫だ。」健太も笑顔

で幸せを噛みしめながらそう応えた。

その時、不意に背後から聞き慣れない声が聞こえた。

「よう、楽しそうだな、兄ちゃん。」

振り返ると、見た目の悪い三人組が近づいてきていた。彼らの目つきと笑みには、ただならぬ不穏なものが感じられた。

「ちょっと金を貸してくれよ。俺たちも楽しい夜を過ごしたいんでね。」

健太は一瞬ためらったが、彼女の手前、強がって毅然とした態度を取ることにした。「悪いが、知り合いでもないお前らに貸す金なんてない」強めの口調で言ったその瞬間、三人の表情が一変した。

笑みは消え、怒りと憎悪が彼らの顔に浮かんだ。

「なに、調子に乗ってんだよ。おい、人気のない場所に行ってやっちゃうぜ。」

一人の男がニヤついたイヤらしい笑みを浮かべてそういった

抵抗する間もなく、健太と彼女は力ずくで近くの公園へと引きずられていった。

周りはすでに人気がなく、暗闇が二人を飲み込んでいく。

健太は必死にもがき、逃れようとしたが、圧倒的な力に押さえつけられ、地面に叩きつけられた。

鋭い痛みが体中に走り、意識が薄れそうになる中、彼の視界に映ったのは、冷酷な笑みを浮かべる男たちの顔だった。

一人の男が拳を握りしめ、無情にも健太の顔面に拳を振り下ろした。

鈍い音と共に、血の味が口の中に広がる。

次の瞬間、腹部に蹴りが入り、息が詰まるような苦痛が健太を襲った。

息も絶え絶えに、「や め ろ…」と震える声で訴えたが、彼らの耳には届かなかった。

「彼女には…彼女には手を出すな…」

弱々しいその叫びは、ただ夜空に虚しく響くだけだった。

その瞬間、男たちの視線が健太の後ろにいる彼女に向けられた。

彼女は恐怖で震えながら、後ずさりしていたが、一人の男がその腕を無理やり引っ張り、地面に押し倒した。

「いや…やめて…助けて…!」彼女は必死に抵抗し、手足を振り回して逃れようとした。しかし、男たちはその細い体を容易に押さえ込み、その絶望の声を無視して、冷たく笑った。

健太は必死に体を動かそうとしたが、体中の痛みと無力感に縛られ、ただ地面に這いつくばるしかなかった。

彼女の叫び声が闇夜に響くたびに、その音は健太の心を深く抉り、痛みが増していった。

彼女が必死に振りほどこうとする腕、無慈悲に押さえつけられる足、そして抵抗するその瞳に浮かぶ涙が、彼の心を粉々に砕いていく。

「お願いだ…やめてくれ…頼む…」

彼は何度も懇願したが、その声は無力だった。

彼女の衣服が無残に引き裂かれていく様を、足を強引に広げその上で必死に動く男の姿から健太はただ目を反らす事しかできなかった。

涙が彼の頬を伝い、目の前の地獄が現実であることを突きつけてきた。

『自分にもっと力があれば』   『この程度のチンピラに負けない力があれば』  

彼女の声が、泣き叫ぶ声が、夜の静寂を裂きながら健太の耳に響いた。

彼女の無力な抵抗、体を押さえつけられ、動きを封じられ、無慈悲に犯されていくその光景は、健太の心に深い絶望と自己嫌悪を刻みつけた。

「何もできない…俺は…何も…」

健太の心は絶望に飲まれ、悔しさと同時に自分自身を激しく責めた。

彼女の苦しみを救うこともできず、ただ無力にそこにいることしかできない自分が憎かった。

彼女の泣き声が、痛みに耐える声が、健太の胸を締め付け、彼の世界を崩壊させていく。

しばらくして、男たちは満足げに立ち去った。

彼らが去った後の公園には、静寂だけが残された。

健太は崩れた体を引きずりながら、彼女の元へと駆け寄った。

しかし、彼女はもう彼を見ようとはしなかった。

健太の腕の中で震え続ける彼女は、ただ空虚な瞳でどこかを見つめ、泣き続けていた。

健太は彼女を抱きしめながら、深い後悔と悔しさで胸が張り裂けそうだった。

彼女を守れなかった自分が憎かった。

彼女が受けた苦しみと絶望が、彼の心に重くのしかかり、彼はただ無言で涙を流すことしかできなかった。

数日が経った。しかし、健太の心はあの日以来、全く動くことを知らなかった。

何もかも忘れてしまいたい・・・ 

現実から逃げ出し、何もかも無かったことにしたい・・・

そんな事ばかりが頭の中で行きかっていた。

数日が経ったある日、彼女の自殺の報せを彼女の両親から聞いた。

そんな事あるはずがない・・・ これからずっと一緒に暮らしていくんだ・・・

子供は2人作るって話してたよね・・・ 最初は女の子が欲しいなって・・・

子供が小学生になったら大阪のテーマパークへ家族で出かけようって・・・

受け入れられない。

現実に直面した、健太の世界は完全に崩壊した。


彼女がいない未来を考えることが、健太には耐えがたかった。

彼女の両親は、健太を責めることはしなかったが、その瞳には深い悲しみと憤りが宿っていた。

彼はその視線に耐えられず、ただ頭を下げるしかなかった。

健太の心は、罪悪感と後悔に蝕まれ続けていた。

彼女の葬儀が終わった後、健太は一人、彷徨うように街を歩いていた。

どこへ行くとも知らず、ただ歩き続ける。冷たい風が彼の頬を切り裂くように吹き抜けるが、健太はその痛みすら感じていなかった。

彼の心は、すでに死んでいたのだ。

気がつくと、健太は駅のホームに立っていた。目の前には、まもなく到着する電車の光が見えた。

彼はその光に、終わりを見た。これで全てが終わる。彼女と同じ場所に行けるかもしれない。

そう思うと、心が少し軽くなったような気がした。

「ごめんな、守れなくて…」

彼は小さく呟き、目を閉じた。そして、ゆっくりと一歩を踏み出した。

電車の光が近づき、轟音が彼の耳を打つ。次の瞬間、全てが真っ暗になった。



第2章 新たなる目覚め


目を開けると、健太は荒涼とした大地の上に倒れていた。

頭上には見知らぬ空が広がり、黒い雲が不気味に渦巻いている。

耳には遠くから聞こえる風の音だけが響き、辺りには誰の姿も見当たらなかった。

「ここは…どこだ?」

ぼんやりとした意識の中で、健太は自分がいる場所を確認しようとした。

彼の体は重く、まるで何かに押しつぶされているかのようだった。

地面に手をついて立ち上がろうとした瞬間、彼は自分の体に違和感を覚えた。

視線を下に向けると、彼が目にしたのは、生前と変わらない華奢な体と、ボロボロのシャツ、そして破けたズボンだった。

まるであの日のまま、何も変わっていないように思えた。

「なんで…俺はこんなところに…?」

健太の頭の中は混乱していた。先ほどまで彼は駅のホームに立っていたはずだった。電車の轟音、迫りくる光、その次に感じたのはただの暗闇だった。

死んだはずなのに、なぜ今ここにいるのか。

「俺は…どうなったんだ?」

健太は自分の体を確認しながら、何が起こったのかを理解しようと必死だった。

しかし、答えは出てこなかった。ただ、冷たい風と荒涼とした大地が彼を包み込んでいるだけだった。

彼は立ち上がろうとしたが、体が思うように動かない。全身に疲労感と痛みが走り、何度か地面に倒れ込みそうになった。

「ここは…夢なのか…?」

健太は自問自答しながら、周囲を見渡した。だが、見慣れた光景は一切なく、ただ広がる荒野と不気味な静けさだけが彼を取り囲んでいた。

「とにかく…誰かを見つけないと…」

彼は不安と恐怖を抱えながら、歩き出した。どこへ行くべきかもわからず、ただ無意識に足を動かしていた。まるで、見えない何かに導かれるかのように、彼は一歩ずつ前に進んでいった。

健太はまだ、自分が転生したことを理解していなかった。

ただ、この不思議で荒れ果てた世界で、何が待ち受けているのか、全く予測がつかないまま進むしかなかった。

冷たい風が吹き抜け、体中の疲労が彼を襲っていたが、彼はとにかく進むしかなかった。どこに向かうべきかもわからず、ただ不安と恐怖を抱えながら、足を動かしていた。

周囲には何もない荒野が広がり、地平線の向こうまで見渡しても、人影どころか、生き物の気配すら感じられなかった。足元の砂と小石が踏みしめられる音だけが、健太の耳に届いていた。

「どれくらい歩いているんだ…?」

健太はふと立ち止まり、空を見上げた。初めて目を開けた時から、空は同じ灰色のままで、時間の経過を感じさせるものは何もなかった

。太陽もなく、影が動く様子も見当たらない。この異常な世界で、健太は時間の感覚を完全に失っていた。

「5分か、10分か、それとも何時間も…?」

健太は自分の足が重く感じられることに気づいた。歩くたびに体の疲労が増し、筋肉が痛みに変わっていく。しかし、それでも立ち止まることはできなかった。

止まれば、ここがどこなのかという恐怖が押し寄せてくるからだ。

「もしかしたら…もう何時間も歩いているのかもしれない…」

喉は渇き、体中の汗が冷たく感じられる。体力はすでに限界を迎えていたが、彼はそれでも歩き続けた。生き延びるためには、どこかで人を見つけるしかなかった。

やがて、健太の視界がぼやけ始めた。足元がふらつき、何度も転びそうになる。疲労が限界に達し、もうこれ以上は歩けないと感じたその時だった。

背後から、不気味な気配を感じたのは。

健太が疲労で足元をふらつかせながら歩いていると、不意に背後から不気味な気配を感じた。恐る恐る振り返ると、そこには異形の下等モンスターが立っていた。

モンスターの全身は黒くざらざらした鱗で覆われており、赤く光る目が健太を鋭く見据えていた。獣のような顔には、むき出しの鋭い牙が光り、よだれを垂らしながら健太に迫ってくる。

「なんだ、こいつ…」

心臓が恐怖で凍りつくように鼓動を打ち、健太は無我夢中でその場から逃げ出した。背後からは地面を駆ける足音と、モンスターの荒々しい呼吸音が迫ってくる。

振り切ろうと必死に走ったが、モンスターは驚くほどの速さで健太を追い詰めてきた。

「くそっ、逃げ切れない!」

限界に達した健太の足がついに止まり、彼は地面に転げ落ちた。

這いつくばるようにして立ち上がろうとしたその瞬間、モンスターの鋭い爪が彼の背中を襲った。痛みが全身を駆け抜け、健太は叫び声を上げながら必死で転がり、何とか間一髪で距離を取った。

「ここで…終わりなのか…?」

絶望が健太の胸を締め付ける。周囲を見渡すと、近くに落ちていた一本の棒切れが目に入った。それは武器としては頼りないもので、まるで意味をなさないように見えたが、今の健太にはそれしか頼れるものはなかった。

彼はその棒切れを震える手で掴み、モンスターに向かって立ち上がった。

「これしかない…!」

棒切れを振りかざして必死に応戦しようとするが、モンスターの硬い鱗に跳ね返されるだけだった。無力感が健太を襲い、モンスターは再び牙を剥き出しにして健太に襲いかかろうとしたその瞬間、不意に耳元で低い声が囁いた。

「闇の王…」

「誰だ…!?闇?何だ?闇とは…?」

声の意味が全く理解できないまま、健太は混乱していた。しかし、その声はさらに続けて言った。

「闇を行使しろ…」

その言葉に健太は一瞬戸惑ったが、何かに引き寄せられるように自分の足元にある影を見つめた。最初は何も変わらないように思えたが、次の瞬間、影がわずかに揺らめくのを感じた。

視覚的には見えていないが、何かが確かに動いたと健太は直感した。

そして、次の瞬間、モンスターが突然苦悶の叫び声を上げ健太の目の前で、その体が真っ二つに分断された。

下半身と上半身が地面に崩れ落ち、血しぶきが辺り一面に飛び散った。

健太はその光景を呆然と見つめた。

「何が…起こったんだ…?」

健太は足元に再び目を落とし、自分の影を見つめた。

自分が何をしたのか、どうやってそれを成し遂げたのか、全く理解できなかった。しかし、その瞬間、彼の中に何かが目覚めたことを確かに感じ取った。

冷たい風が再び健太の頬を撫でたが、今度はその風がどこか不気味な静けさを伴っていた。彼の中で目覚めた力が、何であるのか健太にはまだ分からなかったが、その力が自分を守ったことは確かだった。



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