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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
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第75話 宣戦布告

「エクリプス……それがいい。俺のアルトラの名前は、エクリプス」


 エクリプス――


 「(しょく)」、すなわち「欠落」。


 ウツロは月蝕(げっしょく)を引き合いに出したが、それは誰あろう、実の父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)への意識があってのことだった。


 ウツロは真田龍子(さなだ りょうこ)を両手に(かか)えたまま、ゆっくりと降下した。


「ウツロさん、姉さん、よくぞご無事で」


 降り立った二人のそばへ、真田虎太郎(さなだ こたろう)はすぐさま()()った。


「虎太郎、ありがとう……あなたの能力がなかったら、わたし……」


「いえいえ、なんにもです。ひとえに姉さんとウツロさんの、愛の力の勝利です」


「え……ああ、あはは……」


 弟の指摘を受け、姉はかなり気恥ずかしくなった。


「虎太郎くん、お姉さんを、龍子を頼みます」


「はい、お任せください、ウツロさん!」


 ウツロは真田龍子を弟・虎太郎に(たく)した。


「やはり、愛の力だったようです……!」


「……あはは」


 ウツロが姉を「呼び捨て」にしたことに、真田虎太郎は愛の力の成就(じょうじゅ)を確信した。


 弟が何か勘違いしているような気がすると、姉は照れくさく感じた。


 いっぽうウツロは父・似嵐鏡月の前へ、凛然(りんぜん)として立ちはだかった。


「お師匠様、立ち合いを望みます。俺はその中で、答えを見出したいのです」


 このように彼は、自分の覚悟のほどを、父親に向かって表明した。


「……父子(おやこ)対決か、ふむ、悪くない。ならばウツロ、見せてもらおうか、わしがついに成し得なかったこと……『人間論』に、お前が解答を見出せるかどうかをな」


 ムカデの姿はいつの間にか消え失せていた。


 毒のしびれもほとんどおさまっている。


 尋常(じんじょう)に立ち合いたいという、ウツロの気構(きがま)えからだった。


「虫を(あやつ)るその力、確かに脅威(きょうい)だ。だがウツロよ、よもやそれだけで、わしをねじ伏せられるとは思ってなどおるまいな?」


「さすがはお師匠様、ご理解の早さ、おそれいります」


「ふん、恐縮などせんでよい。見せてみろ、お前の『とっておき』をな」


「されば、お師匠様……」


 再び大地が(うごめ)きだす。


 地の底から何か、異形(いぎょう)の者どもが、次々とわき出してくる。


「虫たちよ、俺に力を貸してくれ――!」


 ウツロの呼びかけに(こた)えるように、それらは姿を現した。


「……!」


 先ほどのムカデ、いや、それだけではない。


 春を支配する虫たち、チョウ、ハチ、アブ、ガ、ハンミョウ、テントウムシなどの羽虫(はむし)から、地中で眠っていた者たちも時期を間違えたように顔を出し、名前もわからないような地虫(じむし)にいたるまで、その(おびただ)しい数が、ウツロの体にどんどんまとわりついていく。


「これは……!」


 虫たちを身にまとい、ウツロは異形(いぎょう)の戦士の姿へと変身した。


 美しさと毒々しさが混在した色合い、部分によって甲殻(こうかく)だったり軟体(なんたい)だったり……


 しかしその本質は、およそ虫という存在が持つ要素の結晶である――


 そんな所感を与えずにはいられない姿だった。


魔道(まどう)()ちても、か……本当にそれでよいのだな、ウツロ?」


「すべては偉大なるお師匠様のため。覚悟はとうに決まっております」


「……わかった。来い、ウツロ……!」


 オモチャのようなサイズに見える黒彼岸(くろひがん)を、似嵐鏡月は前方(ぜんぽう)(かま)えた。


 それを受け、ウツロもまた同様に、黒刀(こくとう)を構える。


「推して参ります、お師匠様――!」


(『第76話 ウツロ 対 似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)』へ続く)

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