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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
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第59話 ファントム・デバイス

「さあ、ミスター・キョウゲツ、その装置の前に立ってください。それだけでいいのです。あとはそのファントム・デバイスが、すべてやってくれます」


 奇妙な装置だった。


 金属でできた大きな(ぼん)のような形で、その(まわ)りには太いケーブルがところ(せま)しとつながれている……


 なるほど、ここから魔王桜(まおうざくら)が姿を現すのだな。


 そう思った。


「そういえば、テオドラキアはどこに?」


「別の部屋で(ひか)えています。あなたの実験を終えたあと、もう一つの実験(・・・・・・・)をするためにね」


「……どういうことだ」


概要(がいよう)はこうです。まず、このファントム・デバイスで魔王桜を召喚(しょうかん)する。魔王桜はあなたに、アルトラを植えつけようとするでしょう。その(すき)に、魔王桜から体細胞(たいさいぼう)を採取し、すぐさまアンプルを作成、テオドラキアに、移植(いしょく)するのです」


「……なんと、なぜ、そんなことを……」


「そうすれば……ふふ……テオドラキアに、魔王桜の能力が備わるのですよ」


「なん、だって……テオドラキアは、グレコマンドラ……あなたの娘だぞ……?」


「これはわが一族(いちぞく)、ディオティマの一族が、長いときの中で(つちか)ってきた知識であり、われわれの悲願(ひがん)なのです。テオドラキアもその血を()ぐ者として、じゅうぶん了解しています」


「……狂っている……なぜ、僕が選ばれた……? いったいお前は、何者だ……?」


「ミスター・キョウゲツ、共感覚(きょうかんかく)というものをご存じですか?」


「キョウカンカク……とは……?」


「生まれ持った脳の機能で決まると考えられている特別な能力で、たとえば物質を見ると、数字の羅列(られつ)が頭に浮かんだり、音を聞いたとき固有の周波数がわかるなどといった事例(じれい)が確認されています」


「それが……僕の質問と、何の関係が……?」


「わたしも持っているのですよ、その、共感覚をね。わたしには人間の精神状態が、(いろ)でわかる。ミスター・キョウゲツ……あなたの『色』は真っ赤……血のように、いや、地獄の炎のように」


「わけがわからない……何を言っているんだ、あなたは?」


「魔王桜はそんな赤い、()の感情に満ちた色を持つ者を好むのです。『食事』としてね……」


「……」


「あなたを病院で見かけたとき、興奮を禁じえませんでした。ふふ、こんな『赤』は、見たことがない、とね」


「……たばかったな、グレコマンドラ」


「もう遅い、遅いのです、ミスター・キョウゲツ。ほら、この『音』が聞こえるでしょう? ファントム・デバイスが起動したのです。そして、ふふ……」


「――っ!?」


 グレコマンドラの手は、わしの(むな)ぐらを、そっと後ろへ押した――


「最後に教えてあげましょう。ディオティマのアルトラ、その能力とは……自分の精神を思念体(しねんたい)として、その血を継ぐ者にバトンタッチさせることができる……能力名は『ファントム・デバイス』……そう、わたしが(・・・・)ディオティマなのです」


「わあああああっ!」


「長かった、ここまでたどりつくのに……これでわたしは、魔王桜の力で、全知全能(ぜんちぜんのう)に……オリュンポスの神々(かみがみ)すら、蹴散(けち)らせる存在に……ふふ、ふふっ、ふはははははっ!」


(『第60話 似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)魔王桜(まおうざくら)』へ続く)

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