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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
54/82

第53話 人間

<作者から>


今回は残酷描写が特に強めになっております。

最大限配慮いたしましたが、閲覧に際しじゅうぶんにご留意ください。


   ※


 似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)が何かの気配(けはい)を感じて目を()ましたのは、日が変わった深夜一時を()ぎたころだった。


「なんだろう……?」


 屋敷(やしき)(かこ)杉林(すぎばやし)のさらに(おく)竹林(ちくりん)へとつながる道の(あた)りだろうか?


 あそこにはアクタの住む小屋(こや)がある。


 何か、胸騒(むなさわ)ぎがする……


 彼は布団(ふとん)から起き上がり、その場所へと急いだ――


   *


 アクタの住む小屋へ着くと、中から何かの音が()()こえてくる。


 それは人間の(うめ)く声だった。


 やはり、何かある――


 似嵐鏡月は気配を殺して近づき、小屋の格子窓(こうしまど)から、中の様子をうかがった。


「……!」


 アクタだった。


 そして似嵐家(にがらしけ)を守るお庭番(にわばん)の中でも、屈強(くっきょう)の者たちが数名(すうめい)


 そう、アクタは一方的(いっぽうてき)(はずかし)めを受けていたのだ。


 その残酷な光景に、彼は気の触れそうな(いか)りを覚えた。


 ()()きにしてやる――


 そう思った、が。


(おそ)かったねえ、鏡月」


 声のほうへ()()くと、そこには姉・皐月(さつき)が、ヘラヘラ笑いながら立っていた。


「姉さん、どういうことだ……!?」


「あんたのためやん。あの(きたな)らしいメス(ぶた)が、あんたのことをたらし込んでたんやろ? まったく、お父様から受けた大恩(だいおん)も忘れてからに。ほんに(あくた)、ゴミやねえ」


「きっ、貴様(きさま)あああああっ……!」


 実の姉だろうが関係ない。


 いますぐこの女を殺してやる――


 しかし次の瞬間、似嵐皐月(にがらし さつき)は思いもかけない物を、弟の前に差し出した。


「そ、それは……」


 びっくりして彼の血の気が引いた。


 宝物庫(ほうもつこ)で厳重に保管されているはずのあれが、なぜここに……


「そう、似嵐家の宝刀(ほうとう)黒彼岸(くろひがん)や。お父様の言いつけで借りてきたんやで? 鏡月、こいつであのアクタの頭を、(くだ)くんや」


「な……」


「それができたなら、お前を似嵐(にがらし)当主(とうしゅ)として認めたる、それがお父様の意志(いし)や」


「そ、そんなこと……」


「わかっとる思うけど、それほどの覚悟(かくご)があるならゆう意味やで? さあ、はよしい」


「う……」


   *


 似嵐鏡月が小屋へ足を()()れたとき、アクタはすでに虫の息だった。


 うつろな目は焦点(しょうてん)が定まらず、彼のことを認識できているのかすら、わからないような状態だった。


「さあ、鏡月。ひとおもいにカチ割るんや」


「あ……あ……」


 こんなことが許されるんだろうか?


 こんなこと、人間にできることじゃない……


 悪鬼(あっき)鬼畜(きちく)外道(げどう)所業(しょぎょう)だ。


 人間じゃない、人間じゃ……


「ほれ、はよしいなあ」


 人間だと?


 こんなことをするものが?


 そんな存在が人間であるならば、人間なんていらない……


 人間の存在は、間違っている……


 人間は、駆逐(くちく)しなければならない……


「……う」


「ああ、なんやて? 鏡げ――」


「うわああああああああああっ――!」


 正気を失った似嵐鏡月は、お庭番たちを皆殺しにし、黒彼岸とアクタを()きしめ、その場から逃走した。


(『第54話 (あね)(おとうと)』へ続く)

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