表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
48/82

第47話 ゴーゴン・ヘッド

「ウツロ、これがわたしのアルトラだよ」


 ()びあがった黒髪(くろかみ)が、ヘビのようにしゅるしゅるとうねって、似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)(うで)に、(どう)に、首に()きついた。


「なっ、なんだこれはっ!?」


「あはは、叔父様(おじさま)! このままペシャンコにしてあげるよ!」


 ギリギリと()めあげるその力に、彼はもがくことしかできない。


 星川雅(ほしかわ みやび)の変身、その異形(いぎょう)の姿に、ウツロとアクタは息をのんだ。


 彼女の形相(ぎょうそう)はまさに、獲物(えもの)(なぶ)るヘビのそれだ。


(あば)れたのと、二人ががんばって(さけ)んでくれたおかげで、()せずしてだけれど、正気(しょうき)(もど)れたよ」


 似嵐鏡月はもはや、言葉を(はっ)することも難しいほど強く締めつけられている。


 その苦しむ様子を、彼女は舌をなめながら観察している。


「どう? (おどろ)いたでしょ? ゴーゴン・ヘッドって名前なんだ。こうやって髪の毛で相手を弱らせてから、そのあとね――」


「――!」


 ヘビの髪が捕らえた獲物(・・・・・・)中空(ちゅうくう)へ持ち上げ、そのまま少女の頭上(ずじょう)へと()()せた。


 星川雅の後頭部(こうとうぶ)がパックリ()れて、とがった歯と、バカでかい舌が姿を現す。


「この大きな口で、むしゃむしゃ食べるんだよ」


 舌なめずりをする大きな口に、似嵐鏡月が運ばれる。


「バケモノ……」


 アクタは思わず、そうつぶやいてしまった。


「バケモノ? そうだよ、わたしはバケモノなんだよ、アクタ? ヘビの触手(しょくしゅ)とこの大口(おおぐち)、これがわたしのアルトラ、ゴーゴン・ヘッド。バラの花みたく見えない?」


 星川雅はケラケラと笑っている。


「うふ、ゴーゴンはギリシャ神話の怪物、バケモノのことだものね。気に入ってるんだ、このネーミング」


 彼女は呆然(ぼうぜん)とするウツロのほうを見た。


「どう思う、ウツロ? (みにく)いでしょ、わたしの姿は。アルトラとは精神の投影。つまり、わたしの心は、こんなにもおぞましい醜さってこと」


 言葉にならない。


 どう声をかければよいのか――


 ウツロの心境(しんきょう)悲痛(ひつう)だった。


「毒虫がどうとかって言ってたよね? それがなんなの? この醜さに比べれば、毒虫が何よ? わたしがどんな思いで、こんなのと向き合ってきたと思う? 地獄の苦しみだよ。これがわたしの正体(しょうたい)なんだ、わたしの心はこんなに醜いんだ、ってね」


 自分の放った言葉で感傷的(かんしょうてき)になり、星川雅は急に、切ない顔になった。


「ウツロ、こんなわたしを、愛してくれる?」


 ウツロには確かに見えた。


 そう言った少女のまなじりに、光るものが。


(『第48話 (なみだ)』へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ