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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
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第44話 絶技

叔父様(おじさま)、こんなのはどう?」


 星川雅(ほしかわ みやび)背後(はいご)跳躍(ちょうやく)すると、桜の木の枝をステップ台にさらに高く()んだ。


「むう、これは――」


 一面(いちめん)()える桜の木々(きぎ)中継(ちゅうけい)として、似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)の周りを縦横無尽(じゅうおうむじん)()(まわ)る。


 かく(らん)しているのだ。


 次第(しだい)にそれは加速され、目にも()まらない速さとなる。


 足の裏が木を打つ音と、大気を切り裂く音が()りまじり、その破裂音(はれつおん)幻惑(げんわく)拍車(はくしゃ)をかける。


八角八艘跳(はっかくはっそうと)びか。お前の年齢(とし)でもう、体得(たいとく)しているとはな」


 源義経(みなもとのよしつね)が海に()かぶ(ふね)の上を()(まわ)ったとされる八艘跳(はっそうと)び。


 それに古流武術(こりゅうぶじゅつ)三角跳(さんかくと)びを多角版(たかくばん)に改良したものを組み合わせた、似嵐流(にがらしりゅう)絶技(ぜつぎ)である。


「うふふ、叔父様。どこから(おそ)ってあげようかなあ?」


 挑発(ちょうはつ)により、さらに相手を(あせ)らせる。


 すべては作戦の内だった。


「ふん、調子に乗りおって。どこからでもかかってこい、雅」


「いないいない、ばあっ!」


「そこだ――!」


 しかし、それは桜の木の枝――


 技を()()している最中(さいちゅう)にへし折れたものを手にしておき、ダミーとして攻撃(こうげき)させたのだ。


 黒彼岸(くろひがん)を振り上げた、その真後(まうし)ろ――


 完全な死角(しかく)となったそこに、星川雅はいた。


「とった――」


「むうん!」


「ぎゃっ!?」


 似嵐鏡月は体をさらに回転させ、背後にいる彼女の左の脇腹(わきばら)を、黒彼岸で穿(うが)った。


「ぐっ――」


 だが、当て身としては浅かった。


 浅いとはいっても、常人(じょうじん)なら背骨にひびくらいは入るほどの打撃(だげき)だ。


 右手で打ち身を押さえながら、星川雅はなんとか間合(まあ)いを取って着地した。


「お前の考えなどお見とおしだ。八角八艘跳びは確かに絶技だが、見切られればすなわちサンドバッグも同然(どうぜん)。母に習わなかったか? (おろ)(もの)めが」


「いたた、くそっ……油断(ゆだん)しちゃった」


「いまの一撃(いちげき)急所(きゅうしょ)(はず)したが、あとからじわじわと()いてくるぞ。どうするかね、雅? 土下座でもすれば、いまなら許してやらんでもないぞ」


「ああ、サイアク。マジ、チョーうぜえ。屈辱(くつじょく)すぎて、頭が変になりそう……」


「くくっ、わしは最高の気分だがな。姉貴を(なぶ)っているようで気持ちがよいわ。どうする? 降参(こうさん)するか、雅?」


「テメエにひれ()すくらいなら叔父様、便所のウジムシとでもキスしたほうがマシだよ」


「ほう、ならばどうするかね?」


「こうするんだよ――!」


 脇腹を押さえていた右手の阿呼(あこ)を顔の前、左手の吽多(うんた)を頭の後ろへとかざす。


 ()わせ(かがみ)の原理で、少女の顔面(がんめん)大刀(だいとう)に映し出された――


(『第45話 決着(けっちゃく)』へ続く)

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