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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
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第40話 出現

「『家族』の()(ごと)に口を(はさ)まないでもらおうか? 出てこい」


 桜の並木(なみき)が作る(やみ)(おく)から、ひとりの少女が姿を現した。


 星川雅(ほしかわ みやび)――


 確かに彼女だ。


 しかしその()()ちは、闇に()()むような黒装束(くろしょうぞく)


 上半身(じょうはんしん)上腕(じょうわん)下半身(かはんしん)大腿(だいたい)までを(おお)五分丈(ごぶたけ)強化繊維(きょうかせんい)


 その上から強化装甲(きょうかそうこう)装着(そうちゃく)している。


 手には手袋(てぶくろ)、足には足袋(たび)


 スカートを()したパーツもついている。


 ウツロとアクタのそれを女性用に仕立てたような、そんな「戦闘服」だった。


 その背中には()(たけ)にもおよぶほどの(つい)になった大刀(だいとう)がくくりつけられている。


 太い()から見て、七分目(しちぶめ)(あた)りが異様(いよう)(ふく)れあがった、バカでかい柳葉刀(りゅうようとう)だ。


 彼女の顔にはこの世のものとは思えない、狂気(きょうき)じみた()みがたたえられている。


 それはさしずめ、愛する者に告白をしながら(うし)()にナイフを(かく)()っている、気の()れた乙女(おとめ)のような笑顔(えがお)であった。


相変(あいか)わらずのクズっぷりだね、『叔父様(おじさま)』」


「クズとは心外(しんがい)だのう。久しぶりだな、『(みやび)』」


 星川雅は確かな(あゆ)みでこちらへとやってくる。


「大きくなったな。最後に会ったのは確か、お前が小学校に上がったときか?」


「ええ、よく覚えてるよ。何せわたしを拉致(らち)った挙句(あげく)、殺そうとしたんだから」


「いやいや、そうだったな。お前を切り刻んで『姉貴(あねき)』にプレゼントしたかったのさ」


「ふん、ぬけぬけと。あのあと()けつけた『お母様(かあさま)』から袋叩(ふくろだた)きにされたくせに」


「しかし姉貴は、わしにとどめはささなかった。命まで(うば)うことはしなかったのだ。だからわしはいま、こうして生きている。悪魔も道を開けるようなあの女がだ。雅、おまえの母もしょせん人の子よ。肉親(にくしん)に手はかけられんのだ」


 彼女は突然、何かに()かれたかのように、ケラケラと高笑(たかわら)いをはじめた。


「何がおかしい?」


「いえ、ごめんなさい。息子どうしを殺し合わせるようなクズが、よくも言えたもんだな~と。あは、おかしい」


「ふん、わしのほうが姉貴よりも上手(うわて)だという証明よ。生まれてこの方あの女の優位(ゆうい)に立てたことは一度たりともなかったが、いまならどうかな?」


 今度は両手で腹を(かか)え、笑い出した。


 いったいどんな道化役者(どうけやくしゃ)が、このように人を笑い狂わせることができるというのか?


 彼女は引きつりながらあふれる涙をぬぐっている。


勘違(かんちが)いはよくないね、叔父様。お母様がその気になれば、叔父様なんてすぐに始末(しまつ)できるんだよ? 黙殺(もくさつ)されてるってことに気づかなかった? それにあのとき叔父様を見逃(みのが)したのは、教育上(きょういくじょう)配慮(はいりょ)らしいよ?」


「なんだと、どういうことだ?」


(むすめ)の前で母親が実弟(じってい)肉塊(にくかい)にするのは、児童心理学的(じどうしんりがくてき)によろしくないってこと。どんな状況でも医者であることは忘れない。うーん、わが母ながら名医(めいい)だよ。頭のわる~い叔父様とは違うんだから、ね?」


「はっ、言いおるわ! 姉貴らしい。お前もな、雅。姉貴の娘らしいぞ」


「どうでもいいってそんなこと。あなたはこれから、死ぬんだし」


 星川雅は眼前(がんぜん)の「叔父」をギリッとにらみつけた。


(『第41話 似嵐家(にがらしけ)』へ続く)

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