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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第3章 そして虫たちは這い出す
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第38話 否定

「この、毒虫(どくむし)が」


 頭がからっぽになった。


 この世で一番大切な人が、一番言うはずのないことを言ったのだ。


 似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)は、左下にうずくまるアクタに、残念そうな視線を送った。


しくじったな(・・・・・・)、アクタ。そんなに大事(だいじ)か、こんな毒虫が?」


 わけがわからない。


 何を言っているんだ、お師匠様(ししょうさま)は? 


油断(ゆだん)させて始末(しまつ)しろと命じておったのだがな。こいつにはできなかった。まったく、その名のとおり(あくた)、ゴミだな、お前は」


 何なんだ?


 どういうことなんだ?


 目の前にいるのは、本当にお師匠様なのか?


 姿をかたどった、偽物(にせもの)ではないのか?


 あるいはあやかしの(たぐい)が、()けているのではないのか?


「さっぱりわけがわからんだろ、ウツロ。一応、説明しておくか」


 うん、そのとおりだ。


 さっぱり、わけがわからないよ。


「わしにいつも暗殺を仲介(ちゅうかい)する組織があるんだが、(えん)を切る『けじめ』として、お前たち二人の始末を条件として提示されたのさ。お前たちの存在からわし、ひいてはその組織の存在が明るみに出る可能性がある、という理由からだ。わしは手塩(てしお)にかけたお前たちを殺すことになるわけだから、組織にはそれほどの意志があるならと、わしを(ため)す意味もあったんだろうよ」


 はあ、なるほど。


 そういう理由があったのですね。


(かく)(ざと)(おそ)った(ぞく)どもは、わしが組織に(たの)んで手引(てび)きした連中さ。あの(さわ)ぎに(じょう)じてお前たちを始末する算段(さんだん)だったんだが、なかなかうまくいかんものだな。わしの手にかかってはといらん気をつかったのが、裏目(うらめ)に出てしまった。は、わしもとんだ(あま)ちゃんだのう」


 なぜそこまでして、「組織」から手を引きたかっただろう?


「この国では仕事が少ない。そもそも仕事がしづらい。だからまとまった金を得て国外逃亡し、海外で悠悠自適(ゆうゆうじてき)に暮らそうと思ったのさ」


 あはは、そうか。


 俺たちの命は、紙クズ以下か。


「憎いか? わしが。しかしわしには、その権利があるのだよ。それはな――」


 権利?


 いったい、どういう――


「アクタにはもう語ったのだが、お前たちの出自(しゅつじ)を教えていなかったな。昔の話だが、わしが生涯(しょうがい)でただひとり、気を(ゆる)した女がおったのよ。その女はわしとの(あいだ)に、二卵性(にらんせい)双子(ふたご)宿(やど)した。ウツロ、お前はアクタと年の(ころ)が同じなのを、『偶然(ぐうぜん)』だとでも思っていたか? 同じどころか同じ日さ。その双子が、お前たちなのだからな」


 ウツロはその瞬間、放心(ほうしん)した。


(『第39話 地獄(じごく)』へ続く)

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