表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第2章 出会い
37/82

第36話 脱出

 気配(けはい)を殺しながら廊下(ろうか)(しの)(あし)に、ウツロは二階中央までやってきた。


 朽木市(くちきし)描写(びょうしゃ)した、くだんの絵地図(えちず)に目を()らす。


 人首山(しとかべやま)――


 アクタが「口寄(くちよ)せ」によって指定した場所が、そこだった。


 いったい、どこにある?


 彼は絵地図になめるような視線を送って、その名前を(さが)した。


 あった――


 人首山、斑曲輪区(ぶちくるわく)の北、そこにそびえる連峰(れんぽう)一角(いっかく)にある。


 朽木市のブロック分けでいうと、現在地である蛮頭寺区(ばんとうじく)の上が六車輪区(ろくしゃりんく)、さらにその上だ。


 ここからなら西側(にしがわ)山伝(やまづた)いに北上(ほくじょう)すれば、縮尺(しゅくしゃく)から(かんが)みても、(おれ)の足なら一時間ほどで()けるはずだ。


 山歩(やまある)きのほうが()れているし、街の中をとおるのはあまりにも危険だ。


 よし、そうとわかれば。


 いや、待てよ……


 ウツロにはひとつ心当たりがあった。


 静かに階段を降り、彼は医務室へと向かった。


 ()(ぐち)の外から中の気配を(さぐ)る。


 誰もいない……


 慎重(しんちょう)に、物音(ものおと)を立てないよう配慮(はいりょ)して、中へと侵入(しんにゅう)する。


 ウツロが最初にいた場所、横になっていたベッドの真向かいのデスク。


 きれいに整頓(せいとん)されたその周囲を確認する。


「……!」


 やはり、ここだったか――


 デスクと壁の拳大(こぶしだい)隙間(すきま)に、彼の黒刀(こくとう)(なな)めに立てかけられていた。


 あの女、星川雅(ほしかわ みやび)の考えそうな場所。


 俺にとって一番の盲点(もうてん)(かく)していたな。


 師・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)からたまわった大事な刀。


 これだけはどうしても、捨ておくことはできない。


 彼はそっと、黒刀を隠し場所から抜き取った。


 さて、あとはここを出るのみ……


 これもやはり心当たりがあった。


 次に彼は、反対側の食堂へと向かった。


 表玄関(おもてげんかん)から外へ出れば、さすがに人目(ひとめ)につくだろう。


 あの食堂は建物の北側にあった。


 そこなら地理的に山側にも近い。


 ウツロは感覚器官を駆使(くし)して、自分の気配は殺し、かつ他者の気配は最大限(ひろ)いながら、食堂へと足を()()れた。


 テラスの(かぎ)は下に降ろすタイプで、容易(ようい)に開けることができた。


 なんだか(ぎゃく)気味(きみ)が悪い。


 (こと)順調(じゅんちょう)に運びすぎではないか?


 これではまるで、脱出してくださいと言っているような感じだ。


 しかしそうだとしても、いまは詮索(せんさく)している(ひま)などない。


 アクタが、お師匠様が、待ってくれているのだ――


 ウツロはくだんの人工庭園(じんこうていえん)に入り、左奥(ひだりおく)の松の木へよじ(のぼ)って、そのまま高い白壁(しろかべ)を強く()った。


 この様子をつぶさに観察していた(かげ)が、食堂の入り口から姿を(あらわ)した。


 星川雅――


 彼女だ。


 開いたドアに体を(あず)け、口もとに指を()わせながら、彼女は思案(しあん)していた。


 さあ、どうするか……


 雅樹(まさき)龍子(りょうこ)に知らせていたのでは時間を食ってしまうし、だいいち、面白くない(・・・・・)


 最高の選択肢(せんたくし)、それをチョイスしてあげる。


 わたしのウツロ(・・・・・・・)


 邪悪な()みを()かべ、星川雅はペロリと舌をなめた。


   *


「ウツロくん、服を(つくろ)ってみたんだけど……あれ?」


 開いたままのドアから真田龍子(さなだ りょうこ)が顔をのぞかせたとき、当然中はもぬけの(から)だった。


「トイレかな?」


 気になって部屋へ入った彼女の目に、テーブルの上にある書置(かきお)きが()まった。


「これは、雅の字?」


 ウツロくんが人首山へ呼び出された


 わたしは先に後を追う


 龍子、柾樹、早く来て


「たいへん……」


 開け放したドアを不審(ふしん)に思った南柾樹(みなみ まさき)が顔を出した。


「龍子、どうした?」


「柾樹、これっ!」


「マジかよ……」


 文面(ぶんめん)戦慄(せんりつ)すると同時に、二人は胸騒(むなさわ)ぎを禁じえなかった。


「何か、(いや)な予感がする……」


「ああ、俺もだ。急ごうぜ!」


 あわてた二人は、ドアを閉めるのも忘れ、その場を後にした。


 階段から転げるように降りていったあと、向かいの部屋のドアが、静かに開いた――


(『第37話 再会』へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ