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桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第2章 出会い
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第31話 告白

「さ、着いたよ。気分はどう?」


「うん、かなりよくなってきたよ。ごめんね真田(さなだ)さん、心配をかけてしまって……」


「もう、いちいち謝らなくていいって。ウツロくんが何か、悪いことをしたわけじゃないんだからさ」


「う、うん」


「さ、さ。横になって、のんびりお昼寝でもしてなよ」


「ありが……」


「んー?」


「うー、うーん……ぜ、是非(ぜひ)におよばず……?」


「あはは! 何それ!? かたいなー!」


「お、おかしかったかな……?」


「いやいや、言いたいことはわかるよ。ちょっとへたっぴなだけで」


「へたっぴか。堂々とするのは、難しいね」


「ウツロくんはいろいろと、難しく考えすぎなんだよ。ほら、私みたいに頭をパーにするんだよ。パッパラパー子だよ」


「それ、言っててつらくない?」


「あはは、ちょっと……」


 ()()って二階へ上がったウツロと真田龍子(さなだ りょうこ)は、こんなふうに部屋の入口で、和気(わき)あいあいと会話を楽しんでいた。


 二人もけっこう()()けてきて、少しずつではあるけれど、気の置けない仲になってきている。


 お(たが)い一緒にいると気が楽だし、信用が信頼に変化してきている感じだった。


 それとは別に、ウツロには先ほどの、星川雅(ほしかわ みやび)文言(もんごん)がずっと引っかかっていた。


 星川雅、彼女には魔性(ましょう)を感じていたが、現実として俺に奇怪(きかい)(じゅつ)()り出してきた。


 あれはいつかお師匠様から話に聞いた、幻術(げんじゅつ)というものではないだろうか?


 仕組みはわからないけれど、ある条件を踏むことで他者を意のままに操る、おそるべき技らしい。


 なぜあの女、星川雅がそれを使えるのか?


 いや、もしかしたら・・・・・・


 あれが例の、アルトラと呼ばれる異能力(いのうりょく)なのか?


 人間を思いどおりに支配してしまう力。


 そうだとしたら、あまりにも危険すぎる。


 それがよりによって、あんな女に宿ってしまったのだとしたら・・・・・・


 アルトラは「精神の投影」・・・・・・


 だとしたら、人間を支配したいという欲求が、彼女にはあるということなのだろうか?


 それよりも何よりも、その力によって、この真田さんや、南柾樹(みなみ まさき)を支配している・・・・・・


 確かにそう言っていた。


 情報によればみんなはこのアパートで、特生対とくせいたいなる組織に管理・監督されているということだ。


 ならみんな、仲間のはずでは?


 星川雅はいったい、何がしたいんだ?


 同じ境遇のはずの真田さんや柾樹を(とりこ)にして、いったい何の得があるというんだ?


 わからない、ちっとも。


 まだまだ、わからないことが多すぎる・・・・・・


「おーい」


「え?」


「また何か、考えてた?」


「いや、柾樹の料理があんまりおいしくて。味を思い出していたんだよ」


「そんなにおいしかった?」


「正直言って、打ちのめされたよ。人を見かけで判断するのは、良くないね」


「あはは、いいやつでしょ、柾樹。あんなナリだけど、いろいろと気を配ってるんだよ」


「そう、だね。なんだか、自分が恥ずかしいよ」


「ほらほら、卑下(ひげ)しない。ウツロくんも『ヒゲヒゲの実』を食べたの?」


「『ヒゲヒゲの実』か。虎太郎(こたろう)くんの冗談(じょうだん)は、諧謔(かいぎゃく)()んでいるよね」


「カイギャク……なんだか、難しいね。そこは『ユーモア』でいいと思うよ?」


「なるほど、『ユーモア』か。横文字(よこもじ)の使い方も、覚えないとね」


「『横文字』って、昭和の人みたいだね。クラシックだなー、ウツロくんは」


「クラシック……なるほど。確かに俺は古典的かも――」


「はいはい、わかったから。頭を使いすぎると、疲れちゃうよ? ほら、パッパラパーになるんだって、パッパラパー」


「パッパラパーか、難しいけれど、がんばるよ。パッパラパー、パッパラパー……」


「うーん……」


 いつになったら部屋に入れるのか?


 真田龍子はそんなことを考えていた。


   *


「いい布団(ふとん)だね」


「お、わかる? 何とかって鳥の羽毛(うもう)らしいんだけど、夏は涼しく、冬は暖かくって、都合(つごう)のいい(しな)だよ。ここの備品(びひん)の中に()もれてたから、死蔵(しぞう)するよりはと思ってね」


 やっとのことで入室したウツロは、真田龍子が()いてくれた布団について、また一席(いっせき)ぶっていた。


「じゃ、ゆっくり休んでね」


 真田龍子は(きびす)を返して、退出しようとした。


「真田さん」


「うん?」


「よかったら、話し相手になってくれないかな? 俺、ひとりでいると、どうも余計なことを考えちゃうんだ。いや、もし時間があるならでいいから」


 そうウツロに呼び止められた。


 彼女は一瞬、キョトンとしたものの、


「おー、いいよ」


「え、いいの?」


 あまりのも軽いノリで承諾(しょうだく)したので、今度はウツロがキョトンとした。


(ひま)だし、いいよ。ウツロくんこそ、休まなくても大丈夫?」


「うん、ひとりでいると、逆に落ち着かない気がするんだ。それに、真田さんといると、なんだか気が楽だし」


「――」


 こうして二人は、布団を座布団(ざぶとん)()わりに、とりとめもない世間話(せけんばなし)を始めた。


「虎太郎がね、すごく喜んでたんだ。あんなにうれしそうな虎太郎、久しぶりに見たよ。ありがとうね、ウツロくん」


「そんな、俺は何もしてないし、ただ会話をして、音楽を聴いただけで……」


 こんな調子でしばらく、会話をしていたのだけれど、真田龍子は急にうなだれて、ウツロにこう切り出した。


「こんな話、していいのか、迷ったんだけど……ウツロくんなら、聴いてくれると思って……うまく言えないけど、ウツロくんは、人の痛みがわかる人だと思うから……」


「――」


「話しても、いいかな……?」


「俺なんかが、お役に立てるとは思えないけれど、真田さんが、そうしたいのなら」


 こうして真田龍子は、とくとくと語り始めた。


(『第32話 警報機(けいほうき)』へ続く)

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