表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の朽木に虫の這うこと  作者: 朽木桜斎
第2章 出会い
26/82

第25話 昼食への勧誘

「ウツロくん」


 いくらか時間が()ち、ノックの音に続いて、ドア()しに真田龍子(さなだ りょうこ)の声が聞こえた。


 ウツロは部屋の中で、顔をそちらのほうへ向けた。


「はい」


 もっとも、人の気配は感じ取っていたから、返事をする「準備」はしていたのだけれど。


「入ってもいいかな?」


「……どうぞ」


 ドアが少し開いて、その隙間から彼女がひょいと顔をのぞかせた。


 ノブがひねられる独特の人工的な音も、山で育ったウツロには、まだ不思議な響きに感じられた。


「昼食の用意ができたから、食堂に来てほしいんだ。わたしが案内するから」


「……うん、ありがとう」


「体調は大丈夫? 少しは落ちついたかな?」


「すっかり回復してきたよ。もうピンピンさ」


「そう、よかった。でも、しばらくは絶対、安静にね? 何か困ったことがあったら、遠慮なく言っていいから」


「……本当に、ありがとう、真田さん。こんなによくしてくれて」


「謙虚だなー。もっと堂々とふるまっていいんだよ? ほら、わたしみたいにさ」


「え、ああ……」


「そんなんじゃ女子にモテないよ?」


「え、どういうこと?」


 はずみで言ったに過ぎなかったが、ウツロが食い下がってしまったので、真田龍子はあわてた。


 彼は言葉の意味に、納得する解答を求めている表情だ。


 真田龍子は「しまった」と思い、考えをめぐらせた。


「えー、あー、その……あんまりこだわりすぎると、答えのほうが逃げちゃうよ、ってことかなー……?」


 彼女は相当苦しい言い訳をした、つもりだったが――


 ウツロはなにやら目を丸くして、硬直している。


「……ウツロ、くん?」


「……なるほど、『人間論』に固執(こしつ)しすぎると、その解答は逆に遠ざかる。逆説的だけれど、真理の持つ本質から(かんが)みれば理にかなっている。そう言いたいんだね、真田さん!?」


「え、あー、まあね……」


「すごい、すごいよ、真田さん! ぜひ真田さんとゆっくり議論したい! 一緒に『人間論』を完成させよう!」


「……あははー」


 何度でも言おう。


 ウツロはあまりにも純粋なのである。


 いったい何者が彼を責められようか?


 彼女はそれをすっかり理解して、今後はじゅうぶんに気をつけなければと、肝に(きも)じたのだった。


(『第26話 前狂言(まえきょうげん)』へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ